白絵具《しろえのぐ》

みぺこ

白絵具《しろえのぐ》

 


 雪がしんしんと降り積もる。

 空から降ってくるたくさんの粒が、小さなこのまちを白く染め上げた。それはめっきり冷え込んできた日々に更なる寒さをくわえていき、比例ひれいするようにまちは静けさを増した。

 ――まるで世界に私一人しかいないみたいに。

 ざくざくと雪を切り、私は歩いていた。

 振り返れば、白い世界に私の残した足跡だけがついている。

 立ち並ぶ屋根やねも、道に居並ぶへいも、見下みおろしてくる電柱でさえ一切の色を放棄していた。ただところどころに自己主張するカタチだけが、それをソレとわからせる。

 ――きっと、私もそうだろう。

 空からのぞいたココはとてもちっぽけで。その中の私なんかに気づくことはない。

 白いキャンパスの中につけられた小さな粒。それが私。

 それでも私はきちんとキャンパスに収まっている。キャンパスの一部にいる。

 小さく吐いた息は、白く染まって消えた。まるでるような寒さだ。

 コートのポケットに突っ込んでいたカイロをぎゅっと握る。じんわりとした温かさが手の平を通して身体からだ全体に広がった。

 ――少し、急ごう。

 ぎゅ、ぎゅ、と雪を踏みしめる音を絶えることなく響かせる。

 吐く息は短く白い。合わせるように鼓動も脈打つ。

 どこまでも続く白景色しろげしきは、どこか違うまちに来ているような錯覚を覚えさせた。

 それでも足取りに迷いはなく、目指した場所へと自然に歩は進んでいく。

 どこまで進んでも寒空のしたには私しかいなかった。

 こんな寒い日にわざわざ外に出るのは私しかいないのか、それとも偶然ぐうぜん誰とも出会わなかったのか、それはわからない。

 ただ、私はどこまでも白いキャンパスを歩き続けた。

 そして、彼は居た。真っ白なコートに身を包んだ彼は、いつものように時計をチラチラ見ながら待っていた。

 ――――。

 彼は一瞬驚いたように振り向き、私に気づくとその顔に満面の笑みを浮かべて、私の名を呼んだ。


「ユキ」


 そのあざやかな色に、私は目を細めて笑った。


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白絵具《しろえのぐ》 みぺこ @mipeco-12

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