ある世話人の一人語り/わたしの手から消えない感触
『ある世話人の一人語り』
オレは
この場所で一五を過ぎても生きている餓鬼は
半端な都会のスラムより酷いこの
他チームの世話人仲間に聞いた話じゃ、金のあるチームなんかじゃあ、
ヴィスの奴は数年前、この街の湿気た路地裏を
まあ、オーナーの手前、口には出せないがウチのチームの懐事情は常に火の車で
最近、ウチのチームはオレの世話している
チームオーナーとはいっても、フィリポの糞親父は雇われだ。闘機場に所属しているチームに配備されている何機もの“ランブリング・ギア”、整備員の多数の人員と、もろもろひっくるめた組織全ての真の持ち主はこの場所の主催者、闘機場運営者だ。その人は、名も顔も知られちゃいないがこの街の裏の全てを取り仕切っているといわれるスゲエお人だな。
何度も負けの込んだ雇われオーナーは今までだったら部下達毎纏めて切り捨てられるもんだ。
所がヴィスの奴のお陰で、フィリポの阿呆親父は調子くれて、今ものんきに生き残ってやがる。
そろそろ、フィリポの馬鹿親父も、一つくらいはヴィスの願いを聴いてやっても良いんじゃねえかな。
それで思い出したがヴィスよ、お前は一つ勘違いしている。流石にオレも再起不能の餓鬼共のなれの果てを、お前等
まあフィリポよ、あんたの首が今も繋がったまま肩の上に載ってるのは
オレは展望室へと続く長いタラップを登りながら独り思う。
ヴィスの野郎は、どうせ今日もこの上だろう。いつだろうと時間が有れば、アイツはいつもあの窓ばかり大きな、見晴らしだけはいい狭い部屋にいる。つっても、“
貴賓客用にもっと豪華で立派な展望室が闘機場VIP席から繋がって設えられているし、ヴィスが展望室と呼んでいる部屋、あれは元は外の窓や壁を掃除する為か何かの設備だったのかもしれん。まあ、外壁掃除なんてする奴はこの街には居ねえし、オレの推測だな。
あの場所を展望室と呼んでいるのもヴィスとオレの二人だけ、まあ、オレの場合は、いつの間にやら、ヴィスの奴から移っちまったんだが。
タラップを昇りきりオレはいつものように、開いた室内の窓に向かって不安定な手摺に座る小柄な背中にがなりかけた。
「おい、ヴィス!
億劫そうにヴィスの奴がオレに向かって振り返った。
「やあ、大佐。今日、兄弟達は何人残ってる?」
おい、ヴィス。いつもながら、そんなおっかねえ目でオレを見るんじゃねえよ。
※※※※
『わたしの手から消えない感触』
薄暗い
この手は目には見えない何人もの血に染まった手。
綺麗に洗った筈だけど、初めて
わたしはその手を顔へ持って行き、自分の頬に這わせると、一息に叩き付けた。
レーリャ・セパル、しっかりなさい! 気を弛めた者に待つのは、ここではただ死のみなのよ。
何時ものルーティンを終えて、気合いを入れたわたしは外していたヘルメットを被り直し、
「レーリャ・セパル。
といっても、今日はただの機体調整、この日ばかりは誰も傷付けないで済みます。
わたしの操作に応えて、
この闘機場ではほぼ意味はないものの、
まあ、この
『レーリャ! 聞こえていますか!? あなたの次の対戦者が決まりました!』
闘機場では珍しい個人経営チーム“フルクトゥアト”に所属するわたし付きの世話役、ミレッタ・ヴェロッサが大きな声で通信を入れてきました。
「ミレッタ、そんな大声を出さなくても勿論、聞こえていますよ。……それでその騒ぎよう、一体、何処の何方になったのですか?」
『レーリャ、レーリャ、レーリャ・セパル! 最悪、最悪な相手なのです』
「ミレッタ、少し落ち着きなさい。それで、一体、何処のチームの、誰が対戦者なのですか?」
『……すう、はあ……、……ふう、少し落ち着きました。失礼しましたレーリャ、あなたの次の
「ミレッタ、先日の試合、嫌な予感がするのだけれど、わたしの前回の対戦者は誰だったかしら?」
『確認しますね。──少々お待ちを』
ミレッタは手元の小型端末を操作、表示させた情報を読み上げる。
『レーリャ、残念ながら、前回のあなたの対戦者はチーム“デスピア”の名もない
「……短い付き合いでしたね、ミレッタ。……わたしは、ここで終わりのようです。セパル家再興の未来も」
ミレッタの告げた事実に、気落ちしたわたしは、魂の抜け落ちるような声を絞り出すと
明るみに這い出た瞬間、わたしの目には、手のひらから赤色の何かが滴り落ちているように映った。
僕らは鈍色の雲の下で 陽雪 @HARUyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕らは鈍色の雲の下での最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます