第4話 この頃の中学生は激しい

 程なくして、本当に栞が教会に来た。久しぶり……と言っても中学の入学式の日に教会に顔を見せに来たり、なんだかんだと理由を付けて教会に遊びに来ているので実際はそこまで久しぶりではない。


 と言うか、小倉さんになんて言おう……。結局、栞を説得できてないよ……。


 僕は栞の来訪に嬉しさ反面、小倉さんへの申し訳無さ反面でどうしたらいいのかわからなかった。

 当の本人は新しい入居者だと勘違いしている緋色に抱きついたり頬ずりしたりとやりたい放題している。緋色も緋色で嫌がってはいるがかわいいかわいいと言われるのが満更でもないようで……。


「栞。今からでもいいから学校に――」

「嫌だってばー。それとも栞がいたら邪魔?」

「うん」

「そこは邪魔じゃないよって言うところだよアヤ兄!?」


 知らないよ……。ていうか、何処で上目遣いなんて覚えたの。一瞬、そんなこと無いよって言いそうになったよ。


 妹のように接してきた栞がいつの間にか自分の美貌を満遍なく使いこなしてきていることに僕は栞の成長を喜ぶべきか悲しむべきか、また迷っていた。

 どうにかして学校へは行かせたいが、この調子だと行く気は毛頭なさそうだと察した僕はとりあえず小倉さんに栞のことを伝えようとスマホを取ろうとする。

 すると、それに気がついたらしい栞がスマホを退けて僕に抱きついてきた。


「させないよ~?」

「し、栞!? ちょ、ちょっと密着し過ぎじゃないかな!?」

「えへへ~。アヤ兄はこうすると動けないこと知ってるよ~?」


 栞は間違っても中学生。でも、体つきは大分大人に近い。幼さはあるけれど、大きいところは普通に大きくなってるし、柔らかいところは本当に柔らかい。変に動いて栞のあらぬところ触ったりしたら流石に罪悪感が出てくる。


 そのことを知ってその攻め方……。栞は本当にこういうことを誰に教わったんだ!?


  ギュッと抱きついてくる栞への対応がわからない僕はそのまま動けずに硬直していた。栞は動けない僕になおも体を密着させてくる。嫌でも顔が赤くなっていくのがわかるが、「栞は妹栞は妹」と言い聞かせてどうにか理性を保っていると……


「やっぱり此処にいたのね。栞、アンタ学校は?」

「げっ……」


 まるで彗星のごとく現れたのは栞の引き取り相手、つまり栞の母親になっている小倉さんだった。

 小倉さんは栞の頭をペシンと叩くともう中学三年生の栞を抱き上げたかと思うと、


「まったくもう、学校休むなら休むって言いなさいよ。学校から電話が来て学校に来てないんですけど、なんて言われたら心配するじゃない」


 怒るというよりは見つかってよかったという感じの言葉を使って栞を叱った。栞は見つかったことにシュンとなっていじけたような顔をしていた。

 小倉さんは十六歳で結婚して子供ができないからという理由で二十歳の時に栞を引き取ってくれた。それから五年たった今でも随分と若くみえるのは気のせいだろうか……。

 とにもかくにも、栞が学校へ行っていないのは少なからず僕も悪いので謝ろうとすると、


「まあ見つかってよかったよ。それで? 学校へは行かないんでしょ?」

「もちのろんですよ、おばさん!」


 おばさんと言ったその瞬間、明らかに洒落になってない威力のビンタが栞の頭に炸裂した。栞は頭を押さえながらものすごく痛がっているが、小倉さんは……


「母さんと呼びなさいっていつも言ってるでしょ。学習しないね、アンタも……」


 涼しい顔でやれやれと首を振っていた。


 仲が良いのか悪いのか本当にわからないけど。少なくとも栞は小倉さんのことを嫌がってはいないみたい。いい人に拾われたんだなぁ。


「引っ叩くことないでしょ!? そんなに強く叩かれたら栞ハゲちゃうよ!」

「なら母さんと呼びな。学校へは連絡してあるから、遊ぶなら遊んでいいよ。ただし! 九時までには帰ってくること。いい?」

「はーい」

「じゃあ、アヤくん。栞をお願いね」


 自然な流れで僕に栞を託していく小倉さん。僕も流れで了承しそうになったけど、すぐに学校へは行かせなくていいのかを問いただしてしまう。


「あ、はい……って、小倉さん!? 栞を学校へ行かせなくていいんですか!?」

「いいも何も、行きたくもないのに学校へ行っても仕方ないでしょ。それよりはこの子がしたいことをやらせてあげた方が何倍もいいことよ」

「で、でも……」

「まあ、高校に行ってないアタシが言うんだから説得力あるよ。あっはっはっは」


 女性なのになんていう迫力……。まあ、小倉さんが言うなら別に行かせなくてもいい……のかな?


 僕は特殊な家族の在りように少し悩みながらも栞を託されたので面倒は見るつもりで小倉さんを見送った。


「とは言ったものの……僕、勉強しなきゃいけないんだけど……」

「そっか、アヤ兄は大学行くんだもんね。うーん、じゃあ栞は邪魔かな?」

「いや、邪魔じゃないけど……。静かにしてて?」

「無理!」


 なんとも清々しい返事でよろしい。


「やっぱり小倉さんに持って帰ってもらう――」

「栞、緋色ちゃんと遊んでくるね! アヤ兄、勉強頑張ってね!」


 ホント、栞と小倉さんは仲が良いのか悪いのかわからないな……。


 ふと、緋色の存在がないことに気がついて、僕はハッとなる。


 緋色のやつ、状況が面倒そうだと勘づいて逃げたな……。だから、僕が栞に襲われている時もうんともすんとも言わなかったのか……。


 緋色を探しに行った栞の後ろ姿を見て、少しだけ昔のことを思い出しつつ。逃げた緋色がこの後ひどい目に会うんだろうなと考えて、少しだけ笑ってしまった。

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セブン・シスターズ ~僕はこの世界に期待しすぎている~ 七詩のなめ @after

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