第11話 Edition-oveRhaul Decisions


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「コーベ。こいつら、どう説得するつもりなの?」

「想いをぶつけるだけだから。友達と接するのに、作戦なんて考えないでしょ?」

「……その通りだけど、こんな重要な場面で無策ってのもちょっと」

 <フィールダー>の下へとサキとウイが駆け寄って、コーベ達<L<ove>R>が再び集結する。対してタクとアルカはどうやって登ったのか知らないが、ガラスのアーケードから降りてくる素振りも見せない。丁度こちらが相手を見上げる感じで、五人は仲直りのために言葉を交わし始めた。

「サキにウイ、それにコーベも……どうして、ここまで計画に抵抗しているの?」

 タクの投げかけたセリフは、批難というよりは素朴な疑問だった。確かに二人からしてみれば、<L<ove>R>の行動原理は不可解なのかもしれない。いくら<メックス>を殺処分しても計画がそう簡単に中止される訳ではないし、それに環境破壊を食い止めるための計画に反対する理由もタクには思いつかないだろう。それでも、コーベ達は計画を阻止しようとしている。

「ちょっと、アンタ達に教え込まないといけないのかな~って思ったからね。この計画は、馬鹿げてるってさ」

 あっけらかんとサキが言い放つ。その口調は事件の黒幕に対する挑発的なモノではなく、もっと親しい間柄に向けているような日常的なモノだった。

 それに答えるアルカは、まさしく悪の科学者然とした最低のセリフを吐き捨てる。

「馬鹿げてる、ねぇ……確かに、テメーらからはそう見えるのかも知んねぇな。誰だって、自分たちが死ぬのはそりゃ嫌だろうさね」

「……アルカ、それってどういうこと?」

「お前らは、どうして<T-T.A.C.>が作られたのか分かるか? <メックス>が都市を破壊した後、自然まで壊してしまわないように殺処分するためさ。だから対<メックス>に特化している。<〝q〟p.α.κ.>とのコンペをやってたんだけどな、結果はご覧の有様さ。お前らの方が強いから、お前らが計画の火消し役となる。そして<メックス>を殺し終わったら、お前らも機体から毒を注入されて処分されるってシナリオだ」

 街やヒトを蹂躙するために<メックス>は必要だが、自然まで破壊されてしまっては元も子もない。だから用済みとなった鋼鉄猫を処分する役として、<T-T.A.C.>が必要となる。やがてその任務を終えて惑星フィース上の人間が<L<ove>R>だけとなった後、完全に原初状態の自然に戻すためにコーベ達までをも殺害する。

 かつての親友が口にしたその恐ろしい筋書きを聞いても、しかしコーベ達は動じなかった。まるで、予め想定していたかのように。

「残念だね。僕たちをアダムとイヴには、させてくれないんだ」

「……コーベ、純粋に想像したくないから気持ち悪いことを言うのは止めてくれない?」

「ウイと一緒ってのはまだしも、コーベ以外に人間がまともに居ない状況ってのは怖いわよね~……この告白魔の植物と四六時中寝床を同じにするだなんて、考えたくもない」

 冗談を交わす彼らを見てか、アルカが顔を歪めた。真剣な話をしたつもりなのに話の腰を折られてしまっては、例え彼でも不快に思うだろう。

「コーベ、お前らは何をしにここまで来た?」

「友達として。アルカとタクの計画を、止めに来たよ。ヒトは変われるってこと、誰かと一緒に居れば悲観しないで幸せになれるって教えに来た」

 緊張で手を震えさせながらも、何年も前からセリフを決めていたかのように、確固とした言葉でコーベが告げた。計画を中止させる。<L<ove>R>の主目的のうちの一つ、これを達成するために、彼らはここまで来た。

 一方でそれに反論したのは、タクだった。

「ヒトが変われるって、皆はそう思ってるんだ」

「……現に、私たちは変われたけど。タクの知ってた頃の私は、こんなこと言わなかったでしょう?」

「確かに、八年前のウイはそんなに強く喋れなかったよね。時間はヒトを変化させる。でも、対象がヒトじゃなくて『民衆』だったらどうだろう?」

 空笑いを浮かべる彼は、どこか遠くを見ていた。一人のヒトではなく、その集合体である民衆を一斉に変化させる。この難しさを、タクは知っていた。

「ねぇタク、何があったのよ?」

「言ったよね、いつかフィースの環境が崩壊するっていう僕たちの警告は学会に認められなかった。あんなちっぽけなグループにすら伝えられなかったのに、もっと大きな民衆を動かすのは骨が折れるよ。老人たちの論調すら変えられなかった僕たちには無理だ」

「諦めてないかな。学会がダメだったからと言って、民衆もダメとはならないかもしれない。色々と性格が違うから」

「そんなことは無いぜコーベ、民衆扇動だなんて二人じゃ負担しきれないような激しい労力が要るって、それくらいは予想付くだろ? それにさっきのウイが変わったって話だってよ、ヒト一人を変えるのに八年間もかかってる。それを何億人に対してやると思ってんだ」

 アルカの横槍は一理ある。一人を変えるのと幾億人を変えるのとでは、スケールが違い過ぎて比較にならない。デモを起こすのとは話が別で、各国政府の協力までも必要になるだろう。

「でも、<メックス>関連の実験で桜美政府に協力を求めてたくらいの政治力はあるのよね? だったら学会だなんて小さい話にこだわらず、二人だけでもかなりのことが出来ると思うけど」

 実験では人的被害を最小限に留めるため、タクとアルカは政府と連携を取って周辺住民の避難も行っていた。つまり関市や桜美政府とのパイプを持っているということで、ならば排ガス規制条例制定など環境改善のやり方はいくらでもあるはずなのではないか。しかしサキのそんな疑問は、二人によりすぐさま打ち消される。

「ありゃ政治家どもが保身に走ろうとするところにつけ込んだだけだぜ。誰だって納税者に、『<メックス>に敵いませんでした』って説明したくはないからなぁ……こっちで<メックス>を既成事実として発生させて細かい情報をリークしてやれば、奴ら票集めのために住民の避難だけはやって、後は倒してくれってことで俺らに予算をくれる。当然、こっちがマッチポンプをやってることはお偉方にも隠す。こんな感じでやれば、奴らに俺らの言うことは聞かせられるってカラクリだ」

「アルカの言う通り、分かりやすい脅威があれば皆は反応するけど、環境破壊の将来予測なんて目に見えないからね。そんなモノのために変われる程、民衆は利口じゃない。でも危険を伝えるのはほぼ不可能だから、僕たちは全てを壊そうとしてるんだよ」

 例えば、<メックス>を大量発生させたとする。民衆はたちまちパニックに陥り、どうにかして鋼鉄猫を倒して生き延びようと躍起になるだろう。この場合、平和ボケした民衆はサバイバルに直面して攻撃的な思考になる。

しかしこの<メックス>を二人の言う環境問題にすり替えると、途端に民衆の反応は鈍くなってしまう。直ちに影響のある出来事でもなければ、目で見ることすら出来なくて危機感が煽られないからだ。こればかりはどうしようもない。

どれだけ警鐘を鳴らしても民衆は意識を変えず、結果として自然は破壊されてしまう。だからタクとアルカは、民衆の方を壊そうとしている。

 その二人の思考プロセスを、ウイがたった一言で否定した。

「……タクとアルカは、弁論家にでもなりたかったの?」

 彼女が凍てつくような眼差しで直視する。二人はよく理解できていないような表情を示した。しかし本当は心の奥底で図星を突かれているであろうことが、<L<ove>R>には直感で分かる。

「ウイ……何が言いたいんだ?」

「……言葉の通りだけど。二人のやってることが、まるで人間社会を内側から変えようとしてるように見えたから」

「タクもアルカも、もしかしてその民衆とやらを説得しようだなんて考えてる訳じゃないでしょうね? もしそうだったら止めといた方が良いわよ、アンタ達には向いてないから。もっと他にやるべきことがある」

 ウイとサキが、畳み掛けるようにして二人を批難する。タクとアルカは、言葉で説得しようとしていると。民衆を啓蒙しようとしているが、それは二人には向いていないと。

「他に、やることって……一体何があるっていうの? 人々に僕たちの考えを伝えるんだから、でもそれは無理だって――」

「伝えなくてもいいんだ。科学者なんだから、技術で人々を引っ張って行けばいい」

 タクのセリフを遮って、コーベが答えを言い放った。それにアルカが反応する。

「つまり技術革新を起こせって、お前らはそう言いたいのか」

「その通りよ、アルカ。何も皆にアンタ達の考えだとか、存在を伝えなくてもいいの。発電効率の良いタービンだとかガソリンを使わないクルマだとか、そんな技術を世間に普及させればそれだけでいい。それを使わせれば、問題解決でしょーが」

「時間はまだ残されてるから。何も急がなくたって、ゆっくりと波及させていけばいい。二人は急ぎ過ぎだよ、今の技術だけで問題を解決しようとしてる。悲観的になりすぎなんだ。このままだと環境が壊れるのなら、その原因を環境負荷の少ないモノに変える、或いはそれが出来るような技術革新を起こす。そうやって世間を変えるのが、科学者の役割だから」

 コーベの口に出した最後のフレーズ、『科学者の役割』にタクが反応する。ずっと昔に忘れていたであろう、そんな懐かしい響き。

「そんなの……簡単には出来ないよ。確かにそれは合理的だよ、コーベ。さっき言ったような、民衆からの反対だって受けない。でもそんなことが出来る程、僕たちには力が無い」

「そんなことはないよ。タクとアルカなら、きっと出来る。二人じゃ無理でも、タク達だったら色んな人が付いて来てくれるはずだから」

「期待をかけ過ぎだよ……っ! 僕たちには技術革新なんて起こせない、だから僕たちは世界を再生するために壊す、だから僕たちは悪役だ、それでいいじゃないかっ?!」

 頭ごなしに否定する彼は、一体何になりたかったのだろう。れっきとした科学者であるというのに、自分のことを悪役と思い込んでいる。これは矛盾だ、特に八年前の視点から見れば。

「ねぇタク、アナタが私たちの記憶を消す前――八年前のあの公園で、何て言ったか覚えてる?」

「八年前……? サキ達と、決別する前……」

「研究者になって、皆の役に立ちたい。『科学はヒトを幸せにする』って、そう言ったの。私はそれ、ちゃんと思い出せたよ」

 サキの言葉を身体に受けて、タクは水晶宮の屋根に膝を落とした。どすん、と鈍い音が響く。肩の力も抜け切って、視線はどこか遠くに向けられている。隣のアルカが支えようとするが、タクの心までは支えられなかった。

「あ……忘れて、た」

 虚ろな様子で、タクが呟く。忘れていた。目的を忘れていた。初心を、忘れていた。

 コーベが、そんな彼に追い打ちをかける。

「そうだよ。タクは、自分のやりたいことに対する希望を忘れていたんだ」

 希望。その二文字が、彼に重くのしかかった。八年前はあんなにも輝いていたそれを、いつの間にか忘れていた。彼の言っていることが誰にも認められない、そんなストレスのたまる状況に居るうちに忘れてしまった。

 科学がヒトを幸せにする、そんなことすら見失っていた。

「――僕は」

 自らの頭を両手で抱えながら、タクが誰に向けるでもない独白を始めた。

「僕は……皆を、幸せにしたかったんだ。最初にてこの原理の実験をした時、僕はこれで何でも出来るって思った。科学博物館に連れてってもらった時は、知らないことだらけで一日中はしゃいだ。科学を使えば、苦しそうな人を幸せに出来る。幼い僕はそう信じて、だから科学者になったのに」

「おい、タク……!」

 アルカが彼を止めようとするが、それでもタクは辛い告白を止めようとはしなかった。

「自信を、失くしたんだ。僕の言ってることを誰にも聞いてもらえなくて、段々と楽しくもなくなって。見返りが貰えないんだから当然だよね、苦しくなって何のために科学者になったのかを忘れちゃうのも」

「……タクは、悲観的になりすぎてただけだと思う。何があったのか私たちには一生分からないのかもだけど、でもこれだけは言える。やり直すには、まだ間に合うって」

 ウイのそのセリフを受けて、タクが目を大きく見開いている。やり直すには、まだ間に合う。これまでは絶望にまみれていたけども、そんな彼を<L<ove>R>の三人、かつての親友だった三人が希望を与えて救って見せる。それも、記憶を消した張本人がタクだというのに。

「犯した過ちは、消えないと思ってる。確かに<メックス>の実験は人的被害もゼロだし、僕とアルカはなるべく罪を犯さないように根回しをした。けれども今までに多くの猫を殺してしまったし、ウイ達に猫を殺させてしまった」

「それは僕らも同罪だよ。タク、五人で一緒に背負えばいい。供養をちゃんとしてあげて、そして一緒に墓を作ろう。それを継続していけば、いつかは猫達も赦してくれるんじゃないかな」

 コーベがそう告げた。殺してしまった罪を償うために、供養というモノがある。赦されない罪なんて無い、償えない罪なんて無い。

「そう……一緒に供養する、か。でも、コーベは本当にそんなことを僕とやってくれるの? 僕は、三人の記憶を消した人間だよ。しかも、『どうしてか怖かったから』って曖昧な理由でやったんだ。もう昔の友達の関係じゃない、それは僕が壊してしまった。どれだけ嫌な思いをさせてしまったか、それはコーベ達が一番分かってるはず……なのに、僕を赦してくれるの?」

 震える声から、タクが怯えているのが分かる。きっと、罪を独りで背負うのが怖いのだろう。<L<ove>R>と共に背負えればいいけれども、そうするにはあまりにも彼は三人に酷い仕打ちをしてしまった。猫に赦してもらう前に、コーベ達に赦してもらいたい。でなければ、とても心細い。

 そんな彼に応えるように、ウイとサキが言葉を紡ぐ。それは批難の内容であるはずなのに、しかしゆっくりと、まるでプレゼントをラッピングするように。

「……確かに、タクは私たちの、私たちとの関係を壊した。八年前に記憶を失くして、その時の私は淋しかったんだ。友達なんてタク達だけだったから、それを一気に失っちゃって。あの時のタクは、残された私たちのことをあまりにも考えてなさ過ぎた」

「私は、ただ哀しかった。自分が空っぽになっちゃったから。そして記憶を取り戻しても、やっぱり哀しいままなのよ。関係を壊すっていうのはね、少なくともあの時のタクにとっては『逃げ』だった。タクに逃げられたんだって分かって、私は今とても哀しい」

 自らの心を吐露するのは難しい。それでも彼女たちは、自分の正直な気持ちを伝えた。タクに逃げられてしまって、淋しくて哀しい。タクを見つめる四つの瞳には、そんな感情が込められていた。

 そしてこの気持ちを締めくくるように、コーベがタクに向けて言葉をぶつける。

「タクは罪を犯してしまった。だから、その罪を償う必要があるんだ。僕たちの淋しさと哀しさを、打ち消さなくちゃならない。壊しっぱなしっていうのは、一番やっちゃいけないことだよ。何もかもが停滞しちゃうし、希望だって見えない。だから壊した関係を、元通りにするんだ。僕たちと一緒に」

「元、通り……僕は、何をすればいいの?」

「友達としてやり直す。また一緒に笑い合えれば、それでいい」

 東から昇る朝の陽射しが、微笑んだコーベの横顔を撫でた。全てのネガティブな感情を浄化してしまうような眩しさに打たれて、タクが呟くような声量で懺悔を始める。

「……ゴメン、僕が間違ってたんだ。目的を見失って暴走しちゃって、かなりの相手に迷惑をかけて、そしてこんなにも優しい友達を手放して逃げちゃって。怖さと苦しさに押しつぶされて、そうやって取り返しのつかないことをしてしまった」

 いつの間にか、彼が泣き出している。濁流ではなく、しとしとと降る時雨のような。でもそれは、罪の意識から来るものではなかった。<L<ove>R>の三人が居ること。彼らが赦してくれることが、この涙の源泉だ。

「でも……もし本当に、僕とやり直してくれるなら。三人には心から謝って、そして一つのお願いをしたいんだ。サキ、ウイ、そしてコーベ。もう一度――」

 涙も呼吸も気持ちまでも、タクの全てがその言葉で伝わってくる。

「僕と、友達になって下さい」

 とても小さな声だったけれども、三人にははっきりと聞き取れた。友達として、やり直す。関係を再構築することで、淋しさも哀しさも打ち消してしまう。

 コーベ達がそれぞれ表情を柔らかくして首肯すると、タクが水晶宮の屋根から降りてきた。約三メートルからの着地に失敗してしまって、彼が苦笑いを浮かべる。そんなタクの下に駆け寄って、コーベは介抱してやった。

「こちらこそ。またよろしく、タク」

 そう言って、コーベが満開の笑みを咲かせる。サキとウイもそこに加わり、四人が友達としての再会を果たした。八年前とは何もかもが変わっているけれど、それはきっと必要な変化だった。

記憶を失くして、タクは離れて、それぞれ多くのことを感じた。しかしその新しい八年間の記憶があるからこそ、彼らは改めて友達となることが出来た。記憶消去は、結果としては必要悪だったのかもしれない。

これまでがあって、だから彼らはここに居て、そしてその状態から歩み直す。

 その中には、あともう一人が加わるべきだ。

「俺は、お前に丸め込まれたりしないけど」

「強がるのはいつも通りだね。アルカ」

 コーベとアルカ、その二人の視線が重なった。


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 ガラスの上に立っているのは、これでアルカ一人だけとなった。四人の見上げる彼は、朝陽を受けてもなお輝いていなかった。口角を上げて笑みを無理矢理作っているが、その真意はいかなるものか。

「強がる、ねぇ……確かにな。タクがお前らと仲直りしたことで、計画はパーになったも同然だよ。っつーか、今のタクには実行する気なんてさらさら無いんだろ? ならばお前らの勝ちだよ、これでこの世界は破壊されずに済む。俺一人だけで実行するのも難しいしな」

「それもあるけど……アルカ、アンタ一つだけ勘違いしてるわよ? 私たちの目的は、計画の阻止だけじゃない。アンタも救うつもりだから、ね」

 サキが気持ち強めに言い放つも、アルカは一寸たりとも動じない。<L<ove>R>と長い時間を共に過ごしただけあって、このことは予想できていたらしい。

「だから言ったんだよ、丸め込まれたりしないってな。確かに計画の立案者はタクで、俺はただの協力者に過ぎない。今回の計画が潰えたのは認める、しかしこれで終わりって訳じゃないぜ? 例え計画の首謀者だったタク抜きでも、現行案よりもっとお手軽な、俺だけでも実行可能なプロジェクトを新規に立ち上げてみろ。お前らはそれらを止められるかね」

「それ。アルカの本心じゃないよね」

 唐突にコーベが言葉で刺して、アルカの笑みも消してしまった。二人の視線が絡み合う、コーベのそれは批難ではなく冷静なモノだった。

「……ねぇコーベ、どういうことなの?」

「アルカには。計画を何らかの形で続行させる意志は無いって、僕はそう思うよ。アルカの真意は別にあって、タクを僕たちと仲直りさせることだ。だから、タクのことを止めなかった」

「僕と三人を仲直りさせるのが、アルカの真意……?」

 きょとんとしているタクに対して、アルカは口のテンポを速めながら反論する。

「おいおいコーベ、何を出鱈目言ってんだ?」

「タクに依存できなくなって。それで、アルカはどうするつもりなの」

 またもや藪から棒なコーベのセリフに、今度は不意打ちを食らったような驚いた顔をアルカは表した。

「お前、コーベ、何で――」

「アルカは迷ってたんだよね? タクに協力して計画を成功させたかったけど、でも計画が間違っていることも分かっていた。僕たちが勝てるような戦にしたのは、きっとこれが理由だよ」

 御影台に着いた辺りから、疑問に思っていたこと。まるで<T-T.A.C.>に追い風が吹いているかのように、様々な武装がこの街に隠されていた。彼らに勝って下さいと言わんばかりのあの状況はアルカの迷いから来ていると、コーベが考えている。

「確か、アルカも戦闘が始まる前にそんなことを言ってた……コーベ、何でそのことが分かったの?」

「アルカは矛盾だらけだから。八年前から、このことは変わってない」

 コーベははにかんでタクに答えて、そしてアルカにもそれを向ける。四人は変わっていったというのに、アルカは八年前のまま。水晶宮の上には、彼だけが立っている。

「タクのやることに手を貸してたけど。それがいけないってことは、アルカも分かってたはずだよね? 形こそ違えど、やってることは人殺しだから。でもアルカにはタクを止めることが出来なくて、だから僕たちに希望を託した。タクを救ってくれって。もう一度友達としてやり直して、タクに希望を思い出させてくれって」

「そうだな……それを否定しても今更何にもならない、俺がタクをお前らに任せようとしたのは認めるさ。はっきりとは意識していない、無意識でやってたことだけどな。ここで最終実験をする際、お前らの武装を用意するようひとりでに考えてたよ。お前らの戦う姿が、ごく自然に思い浮かんでた。計画に反抗するお前らを処分するはずだったって、そんな最初の目的はいつの間にか忘れていた」

 アルカが天を仰ぎ見る。彼が意図してやったのではない、もっと超常的な意志だとでも言いたげな。

「けど。そんな僕たちの味方をしたアルカだって、紛れもなくアルカの一面だよ」

「なら、それだと俺じゃなくてお前の考え方が矛盾してるぜ……そんなことを考えた俺が、何故同時にタクへ協力していたのか。どうして<メックス>の発生を止めなかったどころか、アスタルを使ってまでお前らを迎え撃ったのか。これにも答えを用意しねーとな、コーベの言ってることが矛盾してるだけだ。人間が理由もなく矛盾するなんて、あり得ないだろ?」

 計画を遂行したい気持ちと、コーベ達を助けたい気持ち。この矛盾する感情は、本当にアルカのモノなのか。もしかしたら両方ともコーベの抱いている幻想というだけで、ならばその幻想同士で矛盾を生み出していることになる。アルカはこう言いたいのだろう。

 自らのことを『人間』と表現して、アルカが少しばつの悪そうな顔をした。自分のことを人間ではない、もっと別の化け物か何かだとでも思っているのだろうか。しかしそんな彼が無意識に人間と口にしたことは、そうなりたいという願望の表れかもしれない。

 ならば自分たちがアルカを人間に戻してやろうと、コーベが彼に言葉をぶつける。

「その答え。どうしてタクの傍を離れられなかったのか、アルカはそれが分からないから、だから僕に訊いてるんだよね」

「あぁ……? 何が言いたいんだよコーベ」

「アルカが。僕を頼ってくれてる、ってことかな」

 その言葉を聞いて、再びアルカがたじろぐ。それこそ無意識だろう。自らの問いに対し自分で答えを持っていないことに気付かず、無意識的にそれをコーベに求める。これはつまり、アルカがコーベを信頼している、頼っているということだ。ならばそれに応えねばと、コーベが彼を分析してゆく。

「さっき僕がアルカに向けた言葉。それじゃ……ウイ、覚えてる?」

「……タクに依存できなくなってどうするの、ってやつ?」

「うん。それで合ってるよ、アルカがタクを止められなかった理由は、そしてアルカがタクを僕たちに任せた理由はそこにある」

 タクへの依存というフレーズに、しかし誰もがピンと来ない。もう少し、コーベが説明を続ける。

「アルカは。タクの実験に加担して、けれどもタクの本当の気持ちには気付けずにいた。言うなれば、片依存の状態だったんだ」

「片依存だと……? おいおいコーベ、手を貸してたのは俺の方なんだぜ? それがどうして、俺の側から依存してるってことになるよ」

「そんなの。アルカが独り淋しい状態にならないように、唯一の友達だったタクとの関係を維持したかったからに決まってるよ。タクに必要とされてほしいから、タクにとって欠かせない存在になりたかった。精神的には、アルカの方から依存しに来てる」

 アルカの口の動きがぴたりと止まった。言葉を続けるのではなく、アルカに気持ちを整理する時間を与えることで、コーベがコミュニケーションを継続する。

 本心ではタクに計画を実行してほしくなかったけれども、アルカは同時に孤独が嫌だった。コーベ達との関係は消え失せ、頼みの綱はタクとの関係のみ。だからそれを手放すまいと、アルカは自分の意志を押し殺してタクに加担した。言い換えると自分の淋しさを埋めるために、自分の欲求を満たすためにタクの傍に居続けようとした。だから、アルカはタクに依存していたと言えるのだ。

「でもさコーベ、じゃあ片依存の『片』ってのは何なのよ? タクが精神的じゃなくて、物理的にアルカの手を借りていたのは事実でしょーに」

「それは。タクには、今なら分かるんじゃないのかな? 自分がアルカに、何を求めていたのか」

 視線の先をアルカからサキとタクに変えて、コーベが彼に尋ねてみる。対して彼は少し考え込み、ゆっくりと彼自身の内面を吐露した。

「僕は……アルカに、止めてほしかったんだと思う。僕の計画が暴走したのは、僕がストレスに押しつぶされた反動だから。それを友達のアルカに感じ取ってもらって、助けてほしかったのかもしれない。あの時計画に協力してもらうんじゃなくて、科学はヒトを幸せにするって希望を僕に思い出させて、そしてこのことを肯定してほしかった」

「助けて、ほしかった……? 待ってくれよタク。俺はずっとお前と一緒に居られるように……そのために頑張ってきたはずなんだぜ? だからあんなにも協力したってのに、お前の言動がフェイクだったなんて……そりゃ、酷いってもんだろ……?」

 タクの言葉に、アルカが打ちひしがれる。今まで見ていたタクは本当の気持ちを表していなくて、今までアルカが加担していたのは実はタクの本心とは逆のことで、今までやってきたことが全て無駄だった。気付いてやるべきだったのに。タクを肯定して依存させてあげるべきだったのに、アルカはただ自分が依存するだけで止まっていた。

「反動形成。アイデンティティの拡散から自分を守る防衛機制の一つで、自分の望んでいることと反対の行動を取ってしまうこと。タクはその反動形成としてこの計画を打ち立てたんだけど、アルカはそれがSOSのサインだって見抜けなかった。だからタクは誰にも依存できずそのまま暴走して、反対にアルカはタクの暴走に手を貸すことでタクに依存してた。これが、僕が言った片依存の状態ってやつ」

 コーベはここまで洞察して見せた。アルカの不可解な行動から、絶望の色に染まったアルカの瞳、そしてここ数か月もの間アルカを取り巻いていた物悲しさ。アルカの全てに思考を巡らせ、彼の発する心の悲鳴を汲み取る。

「答えを求めてたよね。僕たちをここで処分しようとしてたのに、どうして僕たちに有利な条件を出したのか。それは――」

「タクへの依存が断ち切れなくて、でも無意識ではタクを暴走から救いたいって思ったから……だろ? 心の奥深くで、お前らにタクを助けてほしいって思ってた。……気付くのが遅かったんだよな。タクを助けたいってもっと早くに、はっきりと自分の気持ちを自覚してりゃ、こんなことにはならなかったって訳だろ」

 とてもゆっくりと、アルカがガラス屋根の上から降りてくる。彼の白衣が埃まみれであるように、瞳も心も同じく煤けていた。二人の想いがすれ違ったために、こんな惨事が起こってしまった。

 ゆっくりと、アルカがタクに近付く。身体を引きずるようにして、今にも倒れてしまいそう。そんな彼にタクは歩み寄り、両手で肩を支えてやった。それぞれの顔を見つめる。

「アルカ……僕がもっと、器用だったら良かったのに」

「そりゃねぇよ、タク……」

 二人の科学者が、二人の友人が、率直な気持ちを交わし合う。回り道をし過ぎて、絡まりもつれてしまった。目を合わせ、互いの身体に自分の身体を任せ、頭と頭を近付ける。ようやく、相手の本心が分かった。ここまで来るのに、長かった。

 一分程度そうしてから、アルカはタクから離れてサキとウイの方を見る。彼は相変わらず濁った視線を、彼女たちは旧友に向ける眼差しを送っていた。

「済まなかった、サキもウイも……お前らには、辛い思いをさせちまった。俺とタクがもっと強ければ、お前らに猫を殺させることも、お前らの記憶を消すことも無かったはずなんだ」

「そんなこと……気にしなくていいって。タクもアルカも、私たちとまた仲良くやってくれればそれでいいから。あの時のように笑い合えれば、それが五人にとっての幸せだからさ」

「……それに、アルカは私とサキ、コーベの三人を再会させてくれた。偶然だって言うかもだけど、それでも私たちはアルカに感謝してるよ」

 サキとウイが微笑んで、今度はコーベの下にアルカが寄った。今まで一番迷惑をかけて、そしてタクとアルカを救った友達。そんなコーベが相手だからこそ、アルカがこのことを尋ねる。

「なぁ、コーベ……どうして、すれ違っちまったんだろうな」

「淋しかっただけだよ。心の支えが必要なのに、タクもアルカもそこにだけすっぽりと穴が開いちゃってる」

 コーベが両手を差し伸べて、アルカの細い身体を自分の目の前へ抱き寄せる。今の彼に必要なのは、決して消えることのない、確かに感じられる友達の存在。孤独の氷を解かしてしまう、コーベのような花弁の温もり。

「だったら。友達が、僕たちがその穴を埋めてあげればいいだけだよ。その代わり、僕たちのことも淋しく哀しくさせないこと。片依存よりも、共依存の方が幸せになれるから」

「頼っても……いいのか」

「僕たちが。アルカの淋しさを、埋めるから」

 力の抜け切った腕で、アルカがコーベを抱き返す。その胸中で初めて、彼が全ての感情を涙として開放した。

 優しく、コーベが背中を撫でる。

 晴れ渡る青空は物悲しく、だけれども朝陽に満ち溢れていた。


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 春は別れの季節であり、同時に出逢いの季節でもある。

 国名の由来ともなっている、桜花の咲き誇る三月半ば。透き通る蒼穹とたゆたう桜吹雪が、対照的な天色と薄桜を織り成す。春の陽気が命を揺り動かす中、本関大学の新井研究室には七人の若人と二体のネコが集まっていた。

《地獄への冥府の門が開く今宵、二人が門をくぐり抜けこんニャん(困難)を振り切り如何ニャる試練をも超えることの出来るよう、この吾輩が――》

「おいアスタル、お前ちぃとはまともにセリフ吐くことも出来ねーのかよ?」

《アルカくんがお兄ちゃんに吐かせる……すいませんニャ、それは流石に私の守備範囲じゃニャいです》

「……イスク、誰もそんなこと言ってない」

 アルカが黒い招き猫型端末の電源を引っこ抜こうとするのを、その場の全員が動いて阻止した。

 サキとウイ、コーベ、タクとアルカ、アスタルとイスクがこの部屋に集まっているのは、今年で卒業してしまう富士見さんと守谷さんの送別会を行うためだ。同時にコーベ達とタクの歓迎会も兼ねている。

 計画と実験、そして暴走。これらからタクとアルカを救った後、<L<ove>R>は三年次からアルカのゼミに入ることを決めた。元々参加する気ではいたが、この一件が決定打となったことは確かだ。アルカとの関係を八年前に戻す。再び友達になるためにも、出来るだけ時間を共有していたい。だから三人は、アルカの下で残り二年間の大学生活を過ごすことにした。

 そしてタクは、アルカの紹介で本関大学に異動することとなった。専門はバイオ系であるため工学屋のアルカと同じ研究室には居られないが、このように時間さえあれば出来るだけ顔を出すようにしている。彼も友達としてやり直すため、そして五人でまた笑い合うため、こうして集うことになった。

 アスタルとイスクは戦闘の後にCPUを回収され、今は<クオンクオート>も<グレイトレール>も他の<α〝T-T.A.C.〟κ>もろとも地下ガレージに駐車されてある。普段はこのように黒と白の招き猫型端末を介して研究室で誰かと会話し暇をつぶしているのだが、隙あらばコーベ達のケータイをハッキングして唐突に話しかけてきたりする。履修ガイダンスの時にコーベのケータイからイスクの音声で《メールですよ、ご主人様! 早く、メールフォルダも私のアソコもくぱぁって開けて下さいニャ……☆》と流れた時は、ノストラダムスは世界の終わりをこのタイミングだと予言したのだろうかと思った。ともあれ、現在では二匹仲良くやっている。

「それにしてもビックリですよね~、留年サボリ魔の守谷さんが卒業できるだなんて。よく単位足りましたね」

「サキちゃん、私に対するイメージがちょ~っとばかし酷くないかな~?」

 守谷さんの批難を受け流しつつ、サキがショートケーキを一口ぱくつく。桜のホイップクリームは守谷さんからレシピを教わって、サキとウイが二人でチャレンジしたモノだった。

「……でも、本当に卒業しちゃうんですね。結局、お二人とは一年間しか一緒に居られなかったような」

「ウイちゃんは、私が居なくなっちゃうと淋しいのかな~?」

「……おいしいケーキが食べられなくなるのは淋しいですけど、うるさい人が一人減るからプラマイゼロかなって」

「アスタルきゅ~ん、後輩二人がイジメてくるよ~! おねーさんのこと癒してちょーだいっ!」

 守谷さんが黒い招き猫を抱きかかえると、アスタルのホログラムの頬がぽっと赤くなった。これが思春期、いや発情期だろうか。求められたからには何か声を掛けてあげようと、彼が不慣れなことに挑戦する。

《そ、そうだニャ……サキとウイの心を蝕み虜とするようニャ悪魔の果実(ケーキ)を創造して定められし時に渡せば、二人の信仰も変わるのでは――》

「アスタルきゅん、ありがと~! やっぱり私の作った言語アルゴリズムはサイコーよっ!」

「自画自賛ですか……」

 コーベが苦笑いを浮かべながら突っ込むと、丁度富士見さんが挽きたてのコーヒーを淹れてくれた。

「どうぞ、今回はコロンビアから輸入した豆ですよ」

「富士見さん。いただきます」

 遠慮せず口に含むと、程よい苦みがケーキの甘さと美しいハーモニーを奏でる。八年前までの記憶を取り戻した今でも、コーベはこれ以上に香り高いコーヒーを飲んだことは無かった。

「残念ですよね。こんなにもおいしい富士見さんのコーヒーが、もう飲めなくなるなんて」

「特別なことは、何もしてないんですけどね~……その言葉、卒業祝いとしてありがたく受け取っておきますよ。と言っても、コーベくんには淹れ方も教えたでしょう?」

「でも。あの後自宅で入れてみても、ここまでおいしくはならなくて。インスタントだからですかね?」

「そんなことは無いですよ、何よりも経験が大事ですから。豆の選び方から、お湯の温度、時間だとか……基礎的なことを何回も積み重ねていけば、いつかは私みたいに淹れられる日も来ますから。先生たちも、コーヒーいかがですか?」

 マグカップにブラックコーヒーを注いで、富士見さんがタクに差し出した。彼はそれを受け取って、砂糖も入れずに一口飲む。

「ありがとうございます……うん、確かにコーベの言う通り。かなりおいしいですよ、自宅に持ち帰って両親にも飲ませたいくらいです」

「じゃあ、ペットボトルにも分けるので持ち帰って下さいね。研究室にも何本か置いておきたいんですけど、新井教授は構いませんよね?」

「もちろんですよ、これでしばらくは仕事もはかどりそうです」

 笑顔で受け答える新井教授モードのアルカだったが、すぐに素の口調に戻ってタクに話しかける。このスイッチの入れ替えは、要領だけは光るところがあるアルカならではの芸当だろう。

「お前、ブラックでも大丈夫だったっけか?」

「いつもはダメだけど、このコーヒーは何故だか大丈夫だったよ。コクも深いし、ただ苦いだけじゃなくて色んな味があるから……あとはこの味が安定供給されれば言うこと無しだけど、こればっかしは後継者たるコーベに頼むしかないね」

「精進するよ。この域の味に辿り着けるかは、あんまり自信ないけど」

 コーベがもう一度コーヒーを飲み、その豊かな風味を脳裏に焼き付ける。もう記憶を失くしてしまわないよう、しっかりとこのコーヒーを憶えておく。

「そう言えば、お二人って何回生なんでしたっけ? あんまり訊くようなことじゃないんでしょうけど」

「いいですよー、手塚教授は今年来たばっかりですし。一応私が六回生で、富士見くんは五回生ですね~。確か新井教授が来たのも二年前くらいだったから、そうなるとこの中で富士見くんの一年生時代を知ってるのは私だけなのか~……」

 タクの質問に答えながら、守谷さんが感慨深そうにコーヒーをすする。これに食いついてきたのは<L<ove>R>の三人だ。

「……富士見さんが入学した時から、二人は知り合いだったんですか?」

「不思議と、守谷さんに目を付けられちゃいましてね……一年の後期からだったかな、グループワークでペアを組まされて。その時から、守谷さんとはずっと縁があるんですよ」

「す、凄く長いですこと……守谷さんは、富士見さんの何にそんなにも惹かれたんですか?」

 サキの使った『惹かれた』という単語にやや焦りを見せつつ、守谷さんが率直に答える。

「あんまり言葉にし辛いんだけどね、何て言うかな~……ほら、私って他人を振り回すタイプじゃん? このノリについて行ける人ってそんなに多くないんだけど、富士見くんはいい感じに振り回されてくれたんだよね」

「波長が合った。って感じですか?」

 コーベの見つけ出したフレーズに頷いて、守谷さんがもう一口ケーキを頬張る。

「まさしくそんな感じだね、コーベくん! だから私は、富士見くんとの腐れ縁を築き上げたって訳っ!」

《じゃあじゃあ~、やっぱりお二人は卒業後三年くらいでデキちゃってそのままゴールインとかしちゃったり――》

「あっ、アスタルきゅん! 妹のイスクちゃんの躾がなってないんだけどっ?!」

《吾輩と妹者の言語アルゴリズムを作ったのはニャんじ(汝)じゃニャかったのかニャっ?!》

 そんな下らない三文芝居を自分の作品たちと展開しつつ、しかし守谷さんは柔らかい表情に切り替えてコーベに話しかける。

「でも、私たちが卒業しちゃったら……コーベくん、皆のことは多分アナタがどうにかするだろうから。辛いかもだけど、頑張ってね!」

「大丈夫ですよ。時間はいっぱい残されてますから、これからゆっくりと、皆で一緒の時間を作っていきます」

 眩しく笑って、コーベはまた一つの決意を芽生えさせた。


oveR-04


 その日の帰り道、サキはウイと二人で遊歩道を歩いていた。コーベはアルカ達ともう少し話してから帰ると言っていたので、先に二人で帰ってしまうことにしたのだ。陽はもう傾いていて、西の空が黄昏色に焼けている。桜の花も赤く染まり、まるで秋のような物悲しさを漂わせていた。夕方はまだ冷え込む。

「マフラー、まだしまわない方が良かったかな~……?」

 サキが何気なくウイに話を振ると、対して彼女は真剣な表情をしていた。何か、悩んでいるような。

「ウイ、どうかしたの?」

「……いや、何でも――違う、言わなくちゃ」

 言葉をすぐに撤回して、やはりウイは何か悩んでいた。前を向いたりサキを向いたり、焦点が全く定まっていない。しかしやがて心の中で決心したらしく、一度小さく頷いてはサキを改めて見据え声に出した。

「……サキは、コーベのことが好き?」

「ふぇ……いっ、いきなり何を訊くのウイっ?!」

 あまりにも突然なセリフだったので、ついサキがむせてしまう。心拍数も上昇し、瞬く間に顔が紅潮した。ウイに背中をさすられながら、落ち着いたところでサキが質問に答える。

「そっ、そりゃあコーベのことは……好きよ? 曲がりなりにも、私を助けてくれた人だし」

「……サキ、やっぱり素直じゃないよね。もっと『私の白馬の王子さま!』とか言ってもいいのに」

「流石にそれは、私の少女漫画趣味をバカにし過ぎだって……というか、ウイだって同じでしょうな。何で今更、そんなことを?」

 二人とも、今までコーベには何度も世話になってきた。それどころか精神面で彼女たちの心を守ってもらったし、だからサキもウイもコーベには恋慕の情を抱いている。このことは今までにも確認し合ったはずなのに、どうしてウイはこのタイミングで話を切り出したのか。彼女はこう答えた。

「……サキは、私なんかよりも重症だから」

「重症、って――」

「サキ、たまに笑った後に哀しそうな顔をする」

 そう口にするウイは気分の優れない顔をしていたが、サキは彼女よりもっと酷く心を締め付けられた。そんなことはない、そう否定したかったのに、彼女にはそれが出来なかった。

「……きっと三人で話してても、サキは心のどこかで楽しめてないんだと思う。私は三人一緒に居る時は淋しさを紛らわせられるけど、サキのストレスは消えてないのかも」

「ストレスが……消えない?」

 訝しげにサキが尋ね返す。ウイとコーベと一緒に居る時間はとても楽しくて、だからずっと三人で居ることを望んでいるのに。だというのに、サキが秘めている苦しさが解消されていない?

「言ったでしょ? サキは重症なんだって」

 ウイの言葉によって、サキという人間が紐解かれてゆく。自分がどれ程苦しんでいるのか、ウイの視点から突き詰められていった。

「……私の淋しさとサキの哀しさでは、性質が違うんだ。淋しさは私が独りで勝手に抱え込んでるモノで、だから誰かと一緒に居るだけで簡単に満たされる。でも哀しさは、サキが色んな人から背負わされてるものだから。多くの期待を勝手に押し付けられて、それを満たしてあげなくちゃって思うから心が削れていく。特にサキのお父さんとお母さんが押し付けるような人だって、この前教えてくれたよね」

 似たようなことをコーベにも言われたな、とサキは懐かしい思いに駆られた。夏の夕暮れ、二人きりの講義室。サキは自己犠牲に走り過ぎている、ストレスを抱え込んでも尚他人のためにストレスを自分に刻み続けていると伝えてくれた。

「私があの時話したこと、憶えててくれたんだね」

「……うん。でも、そんな誰かに押し付けられた哀しさは、自分で勝手に解消できるようなモノじゃない。誰かに優しく埋めてもらわないと、心の傷って治らないから。自分独りで薬を塗ることは出来ない」

「でも……でも、それがどうしてコーベの話になるの? 私は二人と一緒に居るだけで、十分傷を埋めてもらってる。ウイ、アナタからだって。今こうしてウイと一緒に居るだけでも、私は実家で暮らしてた頃よりも幸せだよ? だから――」

 哀しそうな自分という像を、サキは必死に否定しようとする。事実、現状に満足しているはずなのだ。友達が居て、大人が居なくて、誰からも過度に干渉されない。これ以上、何を望めと言うのか。

 しかしウイは彼女の反論を押し切って、唐突にその一言を放った。

「サキ、コーベに告白して」

「ふぇ……えっ?」

 何もかもが、サキの理解を超越していた。ウイが何と言ったのか、一瞬聞き間違いだと思った。だがどうやらそうでも無いらしく、ウイはサキにコーベへ想いをぶつけろと口にした。その意図が見えない。何故ウイがそんなことを言ったのか?

 サキは、ウイがコーベに好意を寄せていることを知っている。その強さはサキと同等で、だから二人は恋敵同士だと認め合っていた。そのはずだったのに。

「ウイ、どうして……そんなこと。アナタがコーベのことを諦めるのは、どうしてなの?」

「……私はコーベのことが好きだけど、サキのことも好きだから。でも、私じゃサキの傷は治してあげられないの」

 目を伏せながらウイが呟く。サキにはこのことが引っかかっていた。

「それよ……その理由を教えて。どうしてウイじゃダメで、コーベでないといけないの? 私だって、アナタのことは好き。ウイだって私にとって大切な友達なのに、それなのに私の傷を治せないってどうしてなの……?」

 ウイの肩を掴みながら、サキが問いかける。今度はちゃんとこちらの眼を見ながら、ウイがゆっくりと答え始めた。

「……去年の夏まで、私はサキに依存し過ぎていた。でもそれが原因で私たちの関係がもつれちゃって、だから私はサキから自立することにした。私がサキを治そうとしたらね、また依存し過ぎちゃうの。アナタの心を埋めるには、それくらい強い繋がりが必要。私には、それが難しいから」

 例えばウイの淋しさは『誰かに見られていたい』という気持ちの表れで、サキとコーベが一緒に居てくれれば、今のように話をしてくれればそれだけで満足できる。しかしサキの哀しさはもっと根が深い問題で、自分の苦しさを『誰かに理解してほしい』という欲求そのものだ。ただ話をするだけでは満たされない、もっと深く繋がらなければ解決できない問題。お互いに依存しあって、そうして初めて治療できる。

「……私がサキに依存しちゃったら、またサキを哀しませることになっちゃう。サキの苦しさを一緒に背負うのは、私には荷が重すぎるんだよ。でも、コーベだったらきっとサキのことも助けてくれる。コーベだったらサキの気持ちを受け入れて、サキを理解してくれるはずだから」

「コーベなら、私のことを……でも、だからってそこまでしなくても大丈夫だよ。ウイが自分の気持ちを諦めることなんて無い。私は大丈夫だから、ウイに重荷を背負わせたりなんか――」

「サキのそういうところが駄目なんだよっ?!」

 優しく語りかけたのに、突然ウイが凄まじい剣幕でサキを叱り出した。全く予想できない反応に、サキはすっかり狼狽える。

「どうしていっつも、そうやって自分だけで背負い込もうとするのっ?! 止めてよ、そんなんじゃサキがいつか潰れて消えちゃうよ! ストレスだとか責任がのしかかって、それが嫌だから私はサキに幸せになってほしくて……他人のことを疑わないでよ、友達くらいお願いだから頼ってよっ!」

 大きく想いをぶつけてから、サキを抱き締めてウイがむせび泣く。普段大人しい彼女のこんな一面を見るのは、いつ以来だろうか。ウイが涙を流すとき、原因は大体サキにある気がする。

 自分は無意識に友達の思いやりすらシャットアウトしていたのか、とサキは感じた。いつもそうだ、彼女はいつも自己犠牲に走る。最近はウイとコーベの助けもあって落ち着いたと思っていたのに、まだ癖が抜け切ってはいなかったらしい。

「私は三人でずっと一緒なら、それだけでいいのっ! でもサキにはそれじゃ全然足りなくて、私ともコーベとももっと深く繋がらなくちゃ! 私がコーベのことを好きでい続けたら、サキはいつか消えちゃうんだっ! だから……っ!」

 ウイの想いを、痛切に感じ取る。サキはあまりにも莫迦で、そしてあまりにも恵まれている。ウイが好きでいてくれるから。こんな彼女でも、ウイが友達で居てくれるから。

「ゴメンね、ウイ……私、友達に頼ったことも無かったから。ウイの気持ち、無駄にしてた。教えてくれてありがと……そして、私はアナタに頼ってもいいんだよね」

 瞳から涙を零しながら、サキがウイを強く抱き返す。今までで最もはっきりと感じた、ウイの温もり。彼女の温かさと優しさが、傷付いたサキの心に染み渡った。

「うん……私は、アナタの心を支えたいから」

 ウイは泣き止んでからそう返して、抱き締める力をより強くした。


 ウイと遊歩道の出口で別れてから、サキはケータイでコーベを呼び出した。彼はすぐに応じてくれて、まずは時間も時間なので夕食でも一緒に食べようということになった。大学から徒歩五分程のデニーズで落ち合って、そこで食べながら二人で他愛もない会話を繰り広げた。

 そんな時間が二時間ほど続いて、店を出たのが午後八時過ぎ。サキは中々気持ちを伝えられず、とうとう駅までの帰り道を残すのみとなった。目の前を歩くコーベの背中が、近いようでいて遠い。距離感を掴むのがとても難しく思える。

 それでも彼女の背中を押してくれたウイのため、そして想いを叶えたい自分のため。一流川に架かる橋の上で、サキは勇気を振り絞ってコーベに気持ちをぶつけた。

「ねぇ、コーベ――その、さ」

「サキ。どうかした?」

 そう返してくれる彼は、いつもと同じ優しさを漂わせている。川の先に見える街の灯りが、二人を横から淡く照らしていた。

「えっと……話したいことが、あるの」

 たどたどしい口調で、サキが言葉をポツリポツリと呟く。降り始めの雨のように、散発的に。けれど心の傘を持っていない彼女は、その雨に呆然としてしまう。

 ――どんな言葉を、私は選べばいいのだろう。

「私……その、コーベに会った時、じゃなくて、私と二人っきりになった夏の……えっと」

 つい今まで、呼吸するように彼と話していたのに。サキは中々言葉を出せずに戸惑っていた。コーベは彼女の言葉を待っている。聴いてくれているのに、その気持ちに応えられない。

 ――私の気持ちに応えてくれなかったら、どうしよう。

 二月の頃、春海シクスティサークルの親水公園では、途中までだがコーベに自身の想いを伝えられた。だというのに、どうして今はそれが出来ないのだろう。サキは、何を恐れているのだろう。

 ――恐れている?

「あの……私、ね。コーベと、いつも一緒に居て……あの時、私と話して、て……」

 恐怖、と言うよりは不安に近い。今まではウイがライバルで居てくれたから、感じることがなかったこと。いざ一人で声にして伝えようとして、初めてその気持ちに出会う。

 ――コーベが私のことを嫌っていたら、嫌だ。

「わっ、私……!」

 気が付けば、サキはコーベの前で泣き出していた。

 何てみっともない姿だろう。ネガティブな感情に負けた。不安に押しつぶされた。彼女の脆さが、露呈してしまった。

 告白が成功する確証なんて、どこにも無い。コーベが彼女のことを好きだとは断言できない。彼が選ぶのはウイかも知れないし、或いは別の女性かもしれない。サキである必然性が無い。

 涙で視界が霞んで見える。遠くの灯りも、一層ぼやける。周囲の夜闇は完全な黒で、彼女には何も見えなかった。目の前にいるはずのコーベだって、涙のベールに隠れてしまった。

 ――私は、独りなんだ。

 コーベは今、どう感じているだろう。サキはふと疑念に駆られる。きっと自分のことを見限った。愛想を尽かされて、どこかへ行ってしまったかもしれない。何が言いたいのかも満足に伝えられない女に構う必要なんて、どんな男性も持ち合わせていない。

 ――私が幸せになるなんて、無理だった。

 サキは、諦めようとした。人並みに幸せになろうだなんて、そんな発想が馬鹿げている。だって、サキは人並みの生き方も出来ないのだから。ある時は他人のためになると思って取った行動が裏目に出て、またある時は他人のストレスのはけ口として感情のゴミ箱の役割に徹する。佐浦紗姫は、そんな不揃いで綺麗じゃない人間だ。

 もう、消えてしまいたかった。

 まぶたに熱い何かを感じて、視界がクリアーになってゆく。

 そこには微笑むコーベが居て、涙を拭ってくれた右手でサキの左手を繋いでくれた。

「コーベ……ズルいよ」

 深い海の底から、彼に引き抜かれた。サキが浸かっていたネガティブのプールから、コーベが助け出してくれた。

「どうしてかな」

「いっつも、私が駄目になった時に現れて……そして、そんな笑顔で私の目の前に居てくれて」

 心の波も落ち着いてきて、嗚咽もなりを潜めてゆく。泣き止んだ瞳で見るコーベは、いつもと変わらない優しさだった。どんな時でも、サキの隣に居る。

 心細いサキの気持ちを理解(わか)ってくれて、サキの傍に居てくれる。

「ズルいよ……私がしてほしいって思ったことを、コーベはいっつもピッタリのタイミングでやってくれる」

「まだまだ至らないけどね。『僕はいつでもサキの隣に居るよ』って声を掛けてあげるべきなのに、そこまでやっていいのか分からなかった」

「だから私は、アナタに私のことをもっと知ってほしいの。コーベのこと、私――」

 右手を彼女と繋いだまま、コーベは左腕でサキのことを抱き締めた。

「サキは。綺麗だから」

「えっ……?」

 突然のことに、サキは頭の回転が追い付かない。コーベの体温が伝わってくる。コーベの感触が彼女を包む。彼の表情は、自分の耳元にあるから見えなかった。囁くようにして、コーベが続ける。

「大学が後期に入ってからかな。サキ、笑うようになったよね」

「それは……ウイと、コーベのお蔭だよ」

「でも。それを裏返すと、サキの哀しそうな表情も目立つようになった」

 ウイと同じことを、コーベは口にした。哀しそうな表情。出来ることなら見せたくなかった、サキの暗い一面。けれども彼が次に発した言葉は、ウイとは違うモノだった。

「サキのそんな顔を見て。それで初めて、僕はサキがどれだけ苦しい思いをしてきたのかを感じ取れた。今まで考えてたよりも、もっと酷かったんだなぁって。他の人なら誰だって拠り所にしているような、家族だって、サキにはきっとストレスの原因なんだよね」

 コーベの高い洞察力は、まさしく彼の一番の持ち味だ。たった少しの動作だけで、相手の感じていることや時として背景にまで思慮が行き届く。だからこそサキは、そんなコーベに惚れた。自分のことを理解してくれるから。

「だけど僕には。サキの哀しい顔は、それ自体は苦しそうに見えなかった。毒が抜かれたっていうか、急を要さないっていうか。今すぐ助けてほしいって、そういう必死さは感じられなかった」

「今は、落ち着いたから……親元も離れたし、私を攻撃してくる人も居ないし、そして友達も出来たから」

「だから。そんなサキが、綺麗だって思った」

 抱き締める力が強まるのを感じる。サキの左手も、コーベは離さない。

「時間が止まったような。静的で、線が細くて。けれども触れてしまったら壊れてしまいそうなほどに脆くて、儚くて。落ち着いているのに、不安定。そんな矛盾をはらんだサキの哀しさに、僕は惹かれた」

 月影と星影が二人を照らす。周囲には誰も観客が居ない、二人だけの舞台。

「同時にね。サキのもっと別な表情も、見たいって感じたんだ。泣いてる顔は今さっき見たけど、楽しそうな顔とか、嬉しそうな顔とか。サキの、幸せそうな姿とか」

「それも、私のそんな表情も――私は、幸せでいていいの?」

「良いも悪いも。僕は、それが見たいから。サキのことを、もっと理解りたい」

 また、雫が頬を流れる。けれど先程とは違う涙だ。こんなことを言われるのが、想いを伝えてくれるのが嬉しかった。不安や心細さとは違う、心の氷が解けて流れる露。

「サキが哀しそうになった時は、慰めてあげたい。サキが嬉しそうにしてる時は、一緒に楽しんであげたい。だからサキがどう感じているのか、僕はもっと知りたい。サキともっと深い部分で繋がっていたい。僕は――サキのことが、欲しい」

 左腕をほどいて、コーベがサキと見つめ合う。彼の瞳は真っ直ぐで、橙色のガーベラのように温かい。手は繋いだまま、指が絡まる。離さないように。

「だから――僕は。サキのことが、佐浦紗姫のことが好きです」

「私も……コーベが、神戸咲哉のことが好き」

 もう一度だけ、二人が抱き合う。瞳は閉じて、頭を片方の手で抱えて。互いの気持ちを依り合わせるように。互いの気持ちに、想いを寄せ合う。

 しばらくそうした後、二人は顔を向き合わせる。息のかかる距離。サキの哀しさも、コーベの優しさも、伝わる距離で。

「サクヤ……ありがと。私のこと、理解ろうとしてくれて」

「僕も。サキに想われて、嬉しい」

 ずっとそうしたかったように、二人はキスを交わした。

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L<ove>R*α"T-T.A.C."κ! 柊 恭 @ichinose51

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