用語解説 その1


●編成・編制について

◯部隊規模:

軍を構成する部隊の規模の呼称は、部隊規模の大きなものから

陸海空軍>軍(方面軍)>軍団>師団>旅団>聯隊>大隊>中隊>小隊>分隊>班

という順番です。これは帝国周辺の諸国家で共通です。

大隊戦闘団、連隊戦闘団はそれぞれ単独兵科で編制されることが多い大隊や聯隊に適宜他の兵科の部隊を追加して、単独での戦闘能力を強化した部隊となります(増強中隊も同じ意味)。


共和国軍第二師団は山岳歩兵師団なので戦車・騎兵は少なく、専ら山岳歩兵・装甲擲弾兵(機動歩兵)・砲兵が兵力の中心になります。


◯共和国近衛総軍:

共和制の国家において、近衛とはこれ如何に。というところですが、植民地(流刑地)であったころ帝国から派遣されていた近衛軍が、そのままの名称で共和国軍事力に転換してしまっただけのこと。

とはいえさすがにその辺は独立後にさんざん突かれたらしく、「憲法と国権を近しく衛る」軍として近衛を名乗る、ということになっているらしいです。

帝国植民地時代の近衛軍人や総督府高級官僚の多くがそのまま共和国貴族へとスライドしており、近衛には貴族子弟が多く在籍しています。

装備は潤沢ですが独自の教育機関を持たないため、人員は陸軍と海軍から融通されます。

海軍装備、空軍装備を軍制度上持てませんが、空中機動艦隊(フリゲート4隻、空中強襲揚陸艦4隻)を所有。陸上部隊は総員5千名の”騎兵師団”を3個保有しています。建前上独自の歩兵を持てないため、各師団はAD、あとは兵站、整備、通信などの補助部隊のみとなります。ADは師団に付き5個戦隊、一個戦隊は10騎以下で構成されます。


◯戦隊・戦闘団:

中隊、大隊といった呼称が「部隊規模を表す単位」であるのに対し、戦隊や戦闘団といった呼称は「部隊規模の通例に合致しない規模の部隊」「複数の部隊をまとめて編成した集成部隊に対する便宜的な呼称」と言えます。

また、陸海空近衛軍でその使用方法や適用する部隊の規模も異なります。


共和国陸軍・近衛軍では同型ADを複数配備した部隊に「戦隊」を用いることが多く、戦闘団は集成した部隊に用います。

空軍では聯隊という呼称の代わりに戦隊という呼称を用いています。海軍では戦艦・重巡洋艦に戦隊という呼称を用いますが、戦闘団という呼称の代わりに○○任務群という呼称を用います。


◯装甲擲弾兵・機動歩兵:

当世界においては装甲服を着込んだ歩兵のことを機動歩兵と呼びます。

共和国においては歴史的背景から重装歩兵を擲弾兵と呼んでおり、装甲車を装備した重装歩兵のことを装甲擲弾兵と呼んでいました。これは物語時点の機動歩兵にも受け継がれています。

帝国の機動歩兵は彼ら自身の呼称によれば機械化狙撃兵です。

装甲服を着こまない歩兵は単純に歩兵、あるいは軽歩兵と呼ばれています。


二八八装甲擲弾兵中隊は定員一四〇名、四個装甲擲弾兵(機動歩兵)小隊・指揮分隊(中隊本管)・中隊付分隊・迫撃砲分隊(三基一五名)からなり、対装甲分隊は持ちません。歩兵戦闘車と歩兵の装甲服に搭載された対装甲ミサイルが、対装甲兵力の中核です。



●武器・兵器編

◯APFSDS:現代戦がお好きであれば今更解説の必要はないかと思いますが、超乱暴に言えば、ものっすごい速さで飛んで行く、ものっすごい硬くて重い鑓。装甲を「叩き割る」のではなく「自らも溶けながら、装甲を溶かし食い破る」徹甲弾。

詳細な原理は今後作中でボブに説明してもらいます。


◯HEF-MP:ボブの世界は小型タービン発電機と人工筋肉を動力源とした兵器体系が発達したため、成形炸薬(対戦車炸薬)High Explosive Anti Tank・HEAT弾はHigh Explosive Formed・HEF弾と呼ばれています。着弾時に内部の爆薬の力で侵徹体ライナープレートを初速8000m/s以上の高速高圧のメタルジェットに転換。ウォーターカッターのように装甲を溶かし食い破るというもの。メタルジェットには剛性がほぼないため、防御はAPFSDSより簡単だと言われています。


◯EMP弾:APFSDS、あるいはHEFの弾頭後部に爆縮発電池と放電コイルを搭載、着弾後数マイクロ秒で電子機器を焼き殺す高周波電子流を放出する。装甲に食い込む能力(侵徹力)は純粋なAPFSDS、HEFに劣るものの、ADの駆動筋肉を麻痺させることが可能な弾頭。

元ネタは米空軍がイラク戦争で使用したEMP爆弾。


◯155mm:

155mm榴弾砲のこと。着弾時、あるいは電波高度計を搭載し着弾寸前に爆発し、破片をまき散らす砲弾のことを榴弾(HE:High Exprosive)といいます。

これを打ち出すことに特化したのが榴弾砲です。

共和国軍の155mm榴弾砲は7割ほどが自走砲(戦車のような車台と砲台に搭載されています)であり、残りは空挺作戦・山岳戦用の牽引砲(タイヤの付いた大砲をトラックで引っ張って運搬します)です。

第5砲兵聯隊の機材は砲身長54口径、射程は通常弾で22km、射程延伸弾で52km、軽量誘導弾で60kmになります(表向きは。20km以遠で同時着弾射撃が可能なので、通常弾の最大射程については嘘付いてるんじゃないかと思われます)


◯250mmロケット:

250mm多連装ロケット、というのが正式な名称です。

イメージとしては、陸上自衛隊や米陸軍、韓国陸軍が採用しているMLRSです。というかそれそのものです。

知性化弾頭と聞いてSADARMを思い出した人はいつか飲みに行きましょう。

装軌車(キャタピラは商標なので、履帯、またはクローラと呼びましょう)に旋回式発射装置(12発入り)を載せたものを発射機としています。

射程は標準で70km、精密誘導型単弾頭で100km以上。

共和国陸軍では軽量・空挺型を試作中ですが、今回の戦争には間に合ってません。


◯燃料気化弾頭:

文字通り、空中で燃料を気化させ爆発させる弾頭。サーモバリック弾。

近年では液体燃料ではなく、粉体燃料や火薬を用いたものが多いです。

地雷原やジャングルの開啓に使われるほか、対地支援用の焼夷榴弾として使用されることもあります。

ロシア軍は歩兵の携行ロケット砲(端的に言えばバズーカ)の弾頭にこれを用意しており、建物にこもった敵に対して使用しています(で、人質ごとテロリスト皆殺しにしていたり。ロシアおそろしあ)


◯口径:

戦車大好きな方々にはあまり説明の必要はないのでしょうが念のため。

通常「口径」といえば「砲身内部、あるいは弾頭の直径」を表すことが多いのですが、これはせいぜい人間の扱うライフル弾まで。

直径20mmを超えると「砲身、弾頭の直径」のほかに「砲身の長さを表す単位」となります。

例えば55口径120mm砲であれば6.6mの砲身長、62口径105mm砲であれば6.5mの砲身長となります。

一般に砲身長が長いほど砲弾の速度は高まり威力は増えるので(実際はもう少しややこしい理屈ですが)、砲の正式名称とともに砲身長としての口径をカタログ等に記載することが多くあります。


◯滑腔砲:

一般のイメージとして大砲の砲身の内部はたくさんの筋が螺旋を描いているもの、つまりライフル砲かと思われます。

砲弾を回転させることで飛翔中の姿勢と弾道を安定化(旋転安定)させることがライフリングの目的で、着弾時に爆発して破片を巻きちらす榴弾との相性は抜群です。

が、APFSDSの場合はライフル砲のような勢いで回転を加えられると着弾時に砲弾が折れてしまいますし、HEAT(HEF)の場合はメタルジェットが遠心力で拡散してしまいます。

これを防ぐため、ライフリングを持たない滑腔砲が生まれました(というか先祖返りしました)。砲弾は砲弾後部のフィンで弾道を安定化させますが、回転させないのではなく、ごくゆっくりとした回転を弾頭に与えています。


◯薬室:

砲弾が押し込められ発火する、砲身の一番最後にして一番強度のある部分。

チャンバー。

ここの形状にもいろいろと工夫があり、何件も特許が確立しているので暇な人は調べて、どうぞ。



●その他用語・補遺

◯同時着弾射撃:

砲丸投げやキャッチボールをすれば分かる通り、砲弾の初速スピードと仰角(打ち上げる角度)によって砲弾はどこに落ちるかがほぼ決まります。

実際は風や地球の自転、砲弾自体の回転の影響も受けますが、ごく大雑把に言えばそうなります。

それを応用して、一つの砲で撃った複数の砲弾をほぼ同時に同じ場所に落とすのが、同事着弾射撃です。

より少ない砲門数でより多数の砲弾を一箇所に打ち込める=より確実に敵を制圧できる・より強固な装甲を持つ敵を撃破できるということで、現代では必須の能力になっています。

また、飛んできた砲弾をレーダーで捉え、弾道を逆算することで敵の砲の場所を割り出す対砲迫レーダーの発展に伴い、短時間で多数の砲弾を送り込めるこの能力の拡充が急がれています。



◯ピン:

PINGのこと。接続問い合わせ信号。潜水艦の探針音(ping、pinger)に由来。UNIXコマンド。

当然ショートカットキーで動作します。

「ピン2発」は、受信側の通信ログ上では

ping frm CCL11 (シックル1-1よりピン受信)

ping frm CCL11


ping frm FRL11 (フレイル1-1よりピン受信)

ping frm FRL11

のように記載されます(帝国/共和国のIP規格までは設定していませんので悪しからず)。

気に入らないインターネットユーザーのIPアドレス検索して、PING100億万回攻撃なんてしたらダメだぞ!!(普通に犯罪である)


◯パルスドップラー地形照合:

電波の反射と位相変化(ドップラー効果。近づいてくる音は高くなり、遠ざかる音は低くなるというアレ)、移動しながらパルスを打つことによる電波の反射角度・位相変化を用いて地形図を得る方法。

一番身近なものでは気象観測レーダーがあります。


◯共和国軍の戦場ITシステム:

基本的にはP2Pストリーミングを中心にした中域無線ネットワークです。

プロトコルごとに使用回線としての呼称が割り振られており、また、各プロトコルをまたいでの情報の共有はできません。また、各情報を乗せるべきプロトコルも厳密に定められています(判別はコンピュータで自動的に行います)


□□指揮系回線はテキストベースのデータパケットと音声/映像用スモールパケットを同時に送受信するプロトコルで、管理者は上位/下位/並列別回線のユーザーを任意にログイン/ログアウトさせることができます。

テキスト情報は音声通話が不可能なときにはチャットとしても利用可能です。

上位には機密性の低い情報を扱う軍一般情報回線、機密性の高い作戦情報回線/戦略秘匿回線があり、一般にはハブ回線から上位の、有線限定の回線となります。

下位には各部隊系での一般音声/データ回線や、同種兵器同士でしか扱えない標的射撃データ回線があり、これらは狭域無線ネットワーク上のプロトコルとして運用されています。


戦術情報ストリームは各種座標情報(自分、味方、敵、不明機、目立つ地形障害など)を戦術エリアマップ情報にオーバーレイ表示させるものです。

□□指揮系回線とは暗号化方式が異なり、使用する周波数帯も異なります。

基本的に音声/映像/画像パケットはやりとりできない仕様ですが、一般系回線に放流したファイルのメタデータを座標情報にリンクさせ、戦術情報端末で合成表示させることは可能です。

戦術情報ストリームでの情報のやりとりだけで指揮をする指揮官も居るようですが、大隊級指揮官にはほとんどいません。

こちらのテキストストリーミングは1行掲示板的な使用方法となるので、チャットは行えません。


これらの戦場/戦域IT網と作戦/戦略級IT網のハブおよびバックアップサーバとして、成層圏偵察飛行船やAWACS、任務群旗艦や空中艦艇が用いられます。


◯端末のカバー:(どうでもいい補足)

共和国は皇国系、東方系の移民が多く、皇国についで二次元文化が盛んな土地ですが、主人公はアニメと漫画とゲームの区別がつきません。このため、デザインイラストや絵画以外のキャラクターイラストをすべて「アニメ」と表現してしまいます。居るよねこういうヒト。

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或る騎兵将校の戦争 高城 拓 @takk_tkg

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