情報の小出し感


WEB小説は素人が書ける分、適当に本物を真似て文体だけ「それっぽく」してしまうだけのものが多いけれど、その程度でほんとうの「エンターテイメント」は出てこないんですよね。小説っぽさって、そういう形じゃない。もっとシンプルに、楽しめるような情報の与え方なんです。この小説は、そんな小説のキモの部分を、とてもよく捉えていると思います。単語や言い回しも上手で、とても読みやすくて面白い!

何よりも工夫されていると感じるのは、情報の小出し感です。カクヨム大賞の書評にもあったように、展開が二転三転し、普通の転生系が敵の強さや障害のせいで思うように行かなくさせているのを、ヒナを見守るようなハラハラした気持ちにパラレルに対応させているところがとても読んでいて気持ちいい!

以下は特に好きな部分です。
亜竜の娘の腹を殴るところ!最高。唇の端から唾があふれてきそうです!殴る時に吊り上げる腕がみちみちといったり、並みの人間ならそのか弱い女の子が一体どうなってしまったのか……考えるだけでも恐ろしいです


また、アメリアの評で「頭がいい、常に考えている」という言葉があり、この「常に考えている」の部分の言い回しは、おそらく槻影さんが普段から考えているような世界の捉え方で、かなり鮮やかだったのでもう少し出して欲しいです。

最後になりましたが、とても面白い作品です。そもそも小説はストーリーではなく文体なんですよね。文体というのは、情報の取り扱いに関する方法論だと思います。ファンタジー系だとどうしても世界観についての、不必要なほどの求められていない書き込みをしてしまう作品が多い中、この作品は世界に関しても、そしてストーリー上で欠かせないキャラクターの動きについても、本当に適切な言葉で述べていて、想像力が働かせやすいです。書籍化楽しみにしています。