推理小説では、猫だったりロボットだったり幽霊だったり、風変りな探偵が多数存在するが、本作の探偵はそれらに負けない変わり種、なんと赤ちゃんである。文豪・三島由紀夫には自身が産湯につかっていた頃の記憶が残っていたというエピソードがあるが、本作の主人公は記憶があるどころか、リアルタイムで自らの状況を明晰に分析しているから恐ろしい。
赤子でありながら妙に冷静な語り口調で、身の回りで起きる事件の真相を次々に看破するのだが、一つ大きな問題がある。この探偵、赤ちゃんなので喋れないのである……! そんな赤ちゃん探偵があの手この手で周りの人間に自分の意思を伝えつつ、事件に立ち向かう本作品。
設定だけの出落ちかと思いきや、誘拐事件(被害者は自分!)に殺人事件、お腹がすいたのに家族が家にいない事件(?)に孤島で起こる連続殺人事件とバリエーション豊かな事件が次々と起きて、いずれもしっかりとした推理を披露してくれるし、さらには読者への挑戦状に、大どんでん返しといった仕掛けもしっかり用意してくれる、決して甘く見てはいけない内容となっている。
(「こんにちは、赤ちゃん」4選/文=柿崎 憲)