十二章 エピローグ

 麻美の怪我は捻挫だった。医者は全治三週間と診断した。痛みと腫れは酷かったが、骨に異常は無かった。痛みが引くまで片側だけ松葉づえを使うことになった。

 月曜日。松葉づえ姿の麻美を見て、円達クラスの友達がどうしたの、と心配してくれた。月曜日は部活がオフなので、麻美は授業が終わってそのまま帰宅した。家で、部活の存続を先生に掛け合う効果的な方法を考えたが、今一ついい案が浮かばなかった。

 火曜日。放課後の部活の前に、柊が麻美達に部室に集まるようにと連絡してきた。早くも廃部の通達なの!?、と麻美はドキリとした。 

 六限目の生物の授業が長引いてしまったため、麻美が部室に着いたときには、柊をはじめ、静、碧、翡翠、珠子がもう揃っていた。

「麻美さんが来たので、もう一度説明します」

 柊が話し始める。その言葉からすると静達はもう説明を聞いたのだろう。

「今年、公式戦で一勝もできなかったら女子フットサル部は廃部ということになっていましたが、存続することになりました」

 え? 存続? と麻美は耳を疑った。麻美は静や翡翠や碧や珠子を見る。全員表情が明るい。聞き間違えでは無いようだ。

「柊先生が校長先生や教頭先生に掛け合ってくれたんだって」

 静が説明を付け加える。

「噂だと、凄い剣幕で捲し立てたらしいよ。同席した田辺先生も駒田先生もタジタジだったんだって」

 翡翠が興奮気味に話す。麻美は柊を見る。柊は照れながら笑顔で頷いた。

「あの…… 先生、ありがとうございます」

 麻美は松葉づえでバランスを取りながら、勢いよく頭を下げた。

「いいのよ。皆が真面目に頑張ってるんだから、女子フットサル部は存続しなくちゃ。それが学校の部活動でしょ。それにね、一昨日の麻美さんのプレーを見て私も昔を思い出しちゃったのよ。実は私、高校生の時フットサル部だったの。高校三年間頑張ったのよ。でもね高校三年の最後の大会で相手のファールを受けて、大けがしちゃったの…… その怪我がもとでフットサルを止めなくちゃいけなくてね……」 

 思い出話に大きな花が咲いてしまったのか、柊は斜め上を見つめ陶酔した面持ちでとうとうと語り続ける。

「要するに、自分の昔の姿と麻美の姿が重なって、応援せずにはいられなかったみたいよ」

 静が麻美の耳元に口を近づけて囁く。

 言われてみれば、柊はスコアボードもつけられるし、怪我したときの応急処置にも慣れていた。そのことを不思議に感じていた麻美だったが、経験者だったのなら頷ける。

「一昨日の試合の後、すぐ家に帰って、校長先生と教頭先生に電話して皆の熱戦と情熱を伝えたのよ。田辺先生と駒田先生に先手を打たれる前に、校長先生と教頭先生を説得できたのは大きかったわね。フットサルも、根回しも迅速じゃないとね」

 柊の話はまだ続いていた。

 フットサル経験者ならもっと早くから部存続の為に協力してくれてもよかったんじゃないかな、と思った麻美だが、それは黙っていた。柊にも事情があるのだろう。とにかく、廃部を免れたのだから細かいことはどうでもいい。

「よし、それじゃあ、今日からまたしっかり練習して、次こそ公式戦で一勝しよう」

 まだ柊の話は続いていたが、部が存続すると分かり高揚してきた麻美は叫んでいた。

「一勝と言わず、全勝かな」

 静がサディスティックな笑みを浮かべる。相手に勝つ想像をしているのだろう。

「全勝か、それいいな。だったら私も、もっとうまくなって活躍しちゃうよ」

 翡翠が楽しそうに笑う。

「百雹様の語り部として、全勝くらいやらないといけませんね」

 碧はさらりと、なんでも無いことのように言った。

「わ、私も、頑張ります」

 珠子はいつもよりも大きな声を出していた。

「うん。じゃあ、目標は全勝。桜川高校女子フットサル部の伝説を私達が作ろう」

 わくわくする気持ちが胸いっぱいに膨れる。

 私たちの戦いはこれからだ!

麻美は満面の笑顔で、フットサル部を続けられることを喜んだ。


                                 おしまい。

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桜川高校女子フットサル部 @a_______

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