楽園
百週余りが過ぎた。傘の下で安全に活動可能なこの地で、"おひるね"たちは大いに食べ、交わり、そして増えた。今や彼らは探検団ではなく、邪魔する者のない大きな村となっていた。食料や建材の心配がないので、彼らは技術の発展や純粋科学の考察に集中することができた。続々と誕生する子らは、いずれも親に似て頭脳自慢ばかりだったのである。
"おひるね"は松明号に採用した転がり装置を熱帯産の『茸』を用いて改良した。松明号は下り坂さえあれば引く者なく進み、背につけた傘によって乗員を日差しから守ることができるようになった。坂道を使いやすい方角を選び、進んだ先に駅を作ることで、交易路が生まれつつあった。もはや熱帯はひとつの国の性状をなしていた。
こうして『球』の上には3つの文化圏が形成されることとなった。すなわち、第一の文明は熱帯の楽園に住む学者たちの国。続いて第二に寒帯に住むと思われる木こりたち。そして第三に、未開の戦国時代を繰り返す境界帯の蛮族たちの集落群である。
一部の冒険家を除き、それらを行き来する者はいない。ただし時が進めば、各々の国は再びまみえざるを得なくなる……
しかるべきときがやってくる。
嫦娥のまなざし 真賢木 悠志 @en_digters_sidste_sang
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。嫦娥のまなざしの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます