第18話 ガンマン ~さらばビックジョン~

 颯太はふと気付くと、小さな公園の脇に出た。颯太は公園のあるものに目を止めた。

 公園の奥にある巻貝のような黄色い滑り台。そこから、微弱な回転を感じる。

 颯太は滑り台に近づいてみた。

 「もうすぐ、滑り台に手が届く」と思った瞬間に、どこからともなく1人の男が、「危ない!」 と叫びながら飛び出してきて、颯太に覆いかぶさるように抱きつくと、ビクンッと体を硬直させて、崩れ落ちた。

 すると今度は、滑り台の陰から、

「ボサッとするな!こっちだっ!」

 と言いながら、もう1人の男が現れて、颯太を滑り台の陰に引きずり込んだ。

「何なんですか? あんたら」

「俺の名は、ビッグ・ジョン。ケチな賞金稼ぎだ。悪りぃな。巻き込んじまって。奴ら、あの箱を狙ってやがるんだ」

 ビッグ・ジョンが、顎をしゃくった先には1つの木箱があった。

「とにかく命を大切にしな! せっかく、リトル・ジョンが自分の命と引き換えに守ってくれたんだからな。おおっと、別に、お前さんを責めちゃいねえ。かたきは奴らから取ってやる! この右目と左腕の借りと一緒にな!」

 そう言ったビッグ・ジョンは、西部劇の映画から抜け出たような格好をしていた。皮のベストのヒダヒダが、ちょっとやりすぎという感じだったが。なぜかライフルのように箒を抱えていて、彼の右目は黒い眼帯が覆い、シャツの左そでは空だった。

「奴らって、誰も居ないじゃないですか」

 そう言って、颯太が不用意に立ち上がったその瞬間に、1人の男が、

「危ない!」

 と叫びながら飛び出してきて、颯太に覆いかぶさるように抱きつくと、ビクンッと体を硬直させて、崩れ落ちた。その男は、リトル・ジョンだった。すると、すぐさまビッグ・ジョンが、

「ボサッとするな!こっちだっ!」

 と言いながら、颯太を滑り台の陰に引きずり込んだ。

「あの人、さっき、死んだんじゃないんですか?」

「何を言ってやがる! 恐怖に負けるんじゃない! そうだ。こんな話を知っているか。ある男が、壁の向こうが見られるレンズを通信販売で買った。しかし、商品が届いて見ると、それはただのドア用の魚眼レンズで、説明書には、こう書いてあった。『壁に穴を開けて、このレンズを取り付けて下さい』ってな。さぁ! 勇気を振り絞るんだ!」

「おっしゃることが良く分かりませんが」

「くそぅ! 弾切れだ」

 ビッグ・ジョンは彼の言葉には耳を貸さずに、箒をいじりだした。やがて、

「良く見えねぇな」

 と言って、眼帯を外した。

「あのぅ、右目は奴らにやられたんじゃあ……?」

「あぁ、奴らのお陰で物貰いが出来ちまったぜ」

 更に、ビッグ・ジョンは箒をいじっていたが、

「ええぃ!面倒くせぇ!」

 と言って、懐から左腕を引き抜いた。

「あのぅ、左腕は奴らにやられたんじゃあ……?」

「あぁ、奴らのお陰で湿疹が出来ちまったぜ」

「あのぅ、僕、帰ります」

「確かに、こうしていても埒が明かねぇ。俺が突撃をかける。お前はその隙に逃げろ。なぁに、気にするな。これは、俺たちの世界の問題だ。止めるんじゃねぇぞ! 男には、やらなければならない時があるんだ。あばよ」

 ビッグ・ジョンは、素早く立ち上がると、ライフルを構えるように箒を持った。しかし、すぐに苦しそうに胸をおさえると、崩れ落ちた。

「く、くそぅ。やられた。俺も、ここまでか」

「別に、血も何も出てませんけど」

「気休めはよしてくれ。自分の体のことは、自分が一番良く分かる。すまねぇな。力になれなくて」

「あの箱の中には、一体何が……」

「へっ、好奇心の強い仔猫は長生きしねぇぜ。いいか、あの箱には人類の起源の謎に関するものが入っている。絶対に開けるんじゃ、ねぇ……ぞ」

 そう言うと、ビッグ・ジョンは、事切れた。それは、戦って戦って戦い抜いた男の死に顔だった。まぁ、脈も息もあったけど、全力で死を表現している彼に対しては、死んだことにしてやるのが礼儀だろう。

 それはさておき、颯太は、箱を開けてみた。中を見た颯太は、息を呑んだ。そこには、シンバルを叩いてキィキィ鳴くチンパンジーのオモチャが入っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鋼鉄の迷惑 でんでろ3 @dendero3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ