24痛目 おー新しい仲間をゲットって話だな!旅立ちの夜って感じだよ!
夜になると身体の痛みは引き、太陽も落ちたので全快!
むしろ前よりも身体がすげー軽い。
なんか身体能力が異常に上がったような気がする?
いまならオリンピック選手にも負けないような・・・。まあ試す機会はもはやないようなのでどうでもいいことだ。
その代わり、とんでもなく腹が減った。
スキルの説明があったように多分俺の身体をぶっ壊して、組み替えた時にエネルギーを消費したのかもしれない。
ちなみに、スキルオープンはできないらしい。
というのも俺がまだ魔法が上手く使えずにいるからだ。
魔法って何だろうな?
ボタンひとつで作動してくれりゃーいいのだが、現実はそう単純なもんじゃねぇ。
んで、今何してるかと言うと。
村長の家の前で馬車を見ている。
馬車ってアレだよ。馬が荷台を引くような奴。
木製の木の車輪に固い蝋引きの布が張られて、雨も弾くような頑丈な奴だ。
それを村人達が松明で明かりを灯しながら必死に整備して、荷物を運んでいる。
なんでこんなことになっているかと言うとだ。
アーリアが金の一部として馬車をせしめた。
村人達もドラゴンを一瞬で血煙に変えたアーリアに恐怖しながら慌てて作業を進めている。まぁそりゃそうだろうな。勇者とか言いつつ、羽生えてたんだもんな。蝙蝠みたいなさ。
「シ、システィナ! すまない!」
「ぶ、無事でいるのよ!」
「いいんです、お父様、お母様」
ひしりと、抱き合っている親子。
身なりのいい人達。
この村で一番の富豪というか商人だ。
だが、このドラゴンの襲撃で全財産を失った。ドロドロに全部溶けた。
蓄えていた金ごっそりと。
幸い村の人達の犠牲はなくて、ちょうど逃げ出したタイミングでアーリアが駆けつけたということになる。
まぁどうせアイツのことだからタイミング見計らったのかもしれねーが。
んで、全財産を失った商人は、娘を俺達に託すことになる。
いや、これは俺も反対したんだが、妙にアーリアが言葉が上手くて納得しちまったんだ。
さて、諸君考えてくれたまえ。
辺鄙な村。そこで一番儲かっている商人たちを村人の視点で見てくれ。
俺達はがんばってるのに何故アイツだけ儲かってるんだ?
ってなるよな? んで、次に来るのはそいつの不幸だ。
全財産を失った裕福な家庭を村人達は守るだろうか?
うーん、そこは守ると考えてくれた方が俺と意見が合う。
だが、そーならないのが世の中だ。
つまり恨まれてるんだよなぁ。妬まれてるって言った方がいい。
んな中で綺麗な娘がいたらどうなるか?
答えは簡単! えげつないほど!
まー襲われるよね? 強姦まで行かないが、仕事しても大したことにはならず。
行き着くのは適当な家への結婚だが、財産を失った家の娘と結婚は誰だってしたくない。嫁入りにも金がかかるんだよ。
待っているのは悲惨な運命! って前にもう既に俺達に預ける娘として、村人達が全員一致してあの抱き合っている娘を推すという。
世知辛いねぇ。 泣けてくらぁ。
「なぁアーリア」
「何じゃ?」
俺の横で抱き合う親子をつまらなさそうに見ているアーリアは答えた。
「あの子を何で連れて行くんだ?」
「決まっておろう。食料じゃ」
「やっぱしなぁー。そーいうと思った」
「ついでに本物の人間がいた方が怪しまれずに済む」
まぁそうだな。誰かいたほうがいいしなぁ。
「あ、そうじゃ」
突然アーリアが思い出したように手を打って声を上げる。
「ん? どーしたー?」
俺が気のない返事をするとアーリアは馬車の方へと駆け戻ってごそごそと荷物を荒らし、人の顔ほどあるでっかいルビーのような石と折れたレイピアの残骸を持ってきた。
魔核。
このルビーのようなものが魔力を溜め込む貯蔵庫。
魔道具のバッテリーになる。
野球ボールほどのものがあれば中規模の魔道具を一年動かせるらしい。
人の顔ほどの物があれば大型になるそうで、時価総額金貨二十枚ぐらいだそうだ。トラックを一年間好き放題乗り回せると考えるとそんな物になるのかね?
「ついでじゃ。私の剣を直すとしよう」
「おー、直せるのか。すげーな。どうやって?」
「ふふふ。見ておれよ」
そう言ってアーリアは得意そうに魔核を地面に置き、剣を持って目を閉じる。
いや、目を開けた。
「おお、そうじゃ。忘れておった」
おまえ、物忘れ激しいんじゃねぇか? 脳みそはもう既にお婆ちゃんになってるんだと思うぜ?
そういってアーリアは魔核と剣の残骸を地面に置くと魔法陣・・・。
「錬成陣、錬成陣っとな~♪」
まて、それは流石にパクりだろ! 無駄にいい声あげて歌うなよ!
とっても硬い錬金術師のパクりだろ!?
あーわかったよ。ネタは分かった。
お前、その錬成陣は・・・アームレスリング強そうな大佐派か。渋いな。俺も好きだわ。
どっちかっていうと指ぱっちん大佐のほうが好きだけどよ。
パチンと指ならして格好いいよなぁ。
俺の魔法もあんな感じにならないかなぁ。
アーリアは満足そうにパンと手を合わせると、その両手を錬成陣の上に置いた。
――――ゴゴオゴゴゴゴゴゴオゴゴ。
なんか地面揺れてません?
――――グゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオ
酷くなってません?
周りから悲鳴が上がってるんすけど?
揺れたと思ったら今度は光が爆発した。
ちょっとビビった。
昼間になったかと思った。
剣と魔核がゆらりと動き出し、空中に上ると、もの凄い細かく振動し始める。
なんか・・・振動しすぎて溶けているようなぁ・・・。
あっ飛び散った。
黒い鈍色の鉄の飛沫と魔核の紅い飛沫が爆散しそうになって、中心へと吸い込まれる。
その瞬間に更に眩しく光る。
閃光が何度もはじけ飛び、さらに音がとんでもなく響き渡った。
「金属結合が~♪ 分裂して~♪ 結合して~♪ そして剣がなおされるぅ~♪」
おまっ! そんなことをピグ○ン調に歌うなよ!
高周波が更に細かく周波数を変えて鳴らされ、最後には可聴域を超えて震える。
あ、村長の家の高級な窓ガラスが割れた。
震えが止まると、ザクリと地面をバターのように切り裂いて柄の部分まで潜り込んだ剣が残った。
「よーしできたぞ。ん? なんだ? 何故村の奴らは慌ててる?」
剣を地面から抜き、アーリアはレイピアを鞘に入れながら不思議そうに首を捻っている。
「説明するのも面倒だ。もういいのか?」
「うむ。完璧じゃ。前のよりは魔力の通りも良い。てか前の物は全く魔力が通らなかったらの。通すと壊れるのじゃ」
「まーそんなとんでもねぇ力をぶち込んだらくず鉄のレイピアなんぞ壊れるわな。でもさ、アーリア」
「なんじゃ?」
「お前もしかしてさ。剣作れたんじゃね?」
俺が胡乱げにアーリアを見ると、彼女はサッと視線を外す。
「何を言うか。そんなこと私はできぬぞ」
怪しい・・・。超怪しい。
絶対、こいつは作れたはずだ。
さっき言ってたよな? 金属結合を分裂させて結合ってさ?
それはつまり金属の形を自由自在にできるってことじゃねぇか!
てめぇ! 人がせっかく賭けボクシングに出たって言うのに!
作れたのかよ! 最初から作ってろよ!
「まぁそんなことはどうでもいいのじゃ、うむ。では娘に挨拶行くぞ、さあ、木偶の坊も行くぞ!」
無理矢理話を変えて、俺の腕を引っ張り、親子の元へと近付く。
俺達が近付くと親子は血相を抱えて抱き合う。
ん? なんか娘の方は・・・
って? え?
なにそのフェス?
だれ? このキャラクターメイキングしたの?
そこには黒い髪をセミロングに、顔立ちは綺麗というか可愛らしくて、垂れ目と綺麗な唇が歳よりも妖艶に見せている。その上、胸がデカい。
デカい。
Eは余裕であるだろう。
いや、そんなことはどうでもいい。
それも関係あるが・・・。
そのフェイスは俺のトラウマを突き刺さす。
まあ要するにダ。
元カノに似ているんだよ!
だれだよ!? 誰がこんな事しやがった!?
「ほぅ。ユウヤ。一つ言っておくが、手を出すなよ? お主の好きそーな顔をしておるからのこの娘」
アーリアが誰にも聞こえないような小さな声で俺に耳打ちをした。
・・・。マジか。
やっぱりアーリアは俺の記憶を知ってるんだな?
くそぉぉおおおお!
止めてくれぇ! 俺を精神的に追い込むんじゃねぇ!
俺は一つ咳払いをする。
「俺はもう年下には興味ねぇ」
「本当かのぅ? まあよい。私の食事に手をつけるようだったら腕を切るからな。せっかくの処女の血。お主の好きなようにさせて、味を落とすのは断じて許さん」
声を低くして俺を脅してくるアーリア。
てか、こいつはマジで腕を切りかねん。
俺は自分を戒めつつそう思った。
横のアーリアが怯えている親子に向かって、口を開く。
ちなみに娘の方はなんだかあまり怖がっていないように見える。
何でだろ? 普通は怖がるものじゃない?
「お主ら、余計な事は言うな。時間の無駄だ。娘は預かる。その内、返す」
おー、流石。
こんなビビらせるようなことを言えるなぁ。
アーリアはビビる親子から娘の腕を掴むと、馬車に連れて行き、その荷車の方に乗せた。
残されたのは気まずい俺と娘の親子夫婦。
「えーっと。まぁ俺がちゃんと安全かつ無事に保護してますんでご安心ください」
「「おおおおお! お願いします!」」
すがるように俺の手を取ると何度もご夫婦は膝を地面につけて頼み込んだ。
「娘さんは、時期を見て俺が開放しますので」
「は、はい! どうか! どうかお願いします! こ、これを」
そういって旦那さんのほうが俺の手に何かを忍ばせる。
金貨2枚。
これでも全財産を失った二人にとっては大金だ。
「・・・」
俺はそれを黙って受け取りながら、ポケットから水晶体を取り出して、彼らに渡した。
「!!?」
驚くご主人。
彼に渡したのはドラゴンの眼球。その水晶体だ。
この水晶体はドラゴンの部位の中でも高級な部類で、一体から二つしか取れない物。魔力の高伝導体、強靱な生命力を持った特効薬、占星術の道具としても珍重される。売れば金貨五枚は下らない物だ。
アーリアから気まぐれに貰った物。つまり俺の好きにしてもいいってことだ。
これが一つあれば、商売を少し始められる。
娘のレンタル費ってことでいいだろう。
「そんなっ!?」
驚きながらも俺に声をかけるご主人。
「お預かりしたお金はシスティナさんに渡しておきます。別に俺達は人買いではないので。その水晶体を売ったお金は、システィナさんをお返しするときに戻して貰えばいいです」
「は、はい!」
涙ぐみながら頷くご主人。
名前はしらない。モブゾウぐらいだろう。
「おーい! ユウヤ! 出発するぞ!」
後ろの馬車からアーリアのムカつく声がする。
「すぐ行く!」
俺はそれに応えて、ご夫婦の肩を叩き、馬車に戻った。
「何をしていたのじゃ。待ちくたびれた。馬車の操縦は任せるぞ」
松明が掲げられた馬車の二人掛け従者台に座ったアーリアが待ちくたびれたような顔で俺に縄を渡す。
いや、渡されても馬車なんて操縦したことないんだけど?
オートマの車なら任せてくれとサムズアップしてるんだが・・・。
「いや、俺やったことないし」
「あーもう使えない木偶の坊じゃ!」
「あのぅ・・・私できますけど・・・」
「お、なら娘。任せたぞ! はよう、こっちに来い!」
「あ、はい」
システィナが荷車から従者台に乗った。
俺はシスティナの代わりに荷台へと乗り、後ろから従者台を見下ろす。
彼女は乗ったはいいが、少し首を傾げる。
「アーリア様・・・あのぅ・・・」
「なんじゃ!?」
「えっと・・・ちなみに何処に行くんですか?」
そーえいば目的地なんて一切考えてなかった。
というか、俺この辺全然しらないし。まず、この村がなんていう村なのかもしらないぞ。
そもそも夜に馬車走るのもおかしな話だ。
つか、何故飛ばない?
まぁどうせ、こっちの方が冒険ぽくていいとか言い出すんだろうけど。
「そんなことも分からないのか? もちろん王都じゃ!」
なにがもちろんだよ・・・。
「え!? アーリア様・・・王都ですか?」
「そうじゃ? 何がおかしい?」
「いえ、あのぅ・・・王都に行くのでしたら峠を越えないと・・・」
ああなるほど。
峠を越えると言うことは、夜だと危ないと言いたいんだろうなぁ~。
でも、それ無意味だぜ? システィナちゃん。
「何を言うか! 勇者アーリアに行けぬ所はない! いいからはよぅ馬車を出せ!」
おー、始まった。我が儘娘ぶりが。
まぁ確かに。コイツの無茶苦茶加減を見ていると峠道なんぞ恐怖心の欠片も思いつかないけどな。
「はっ、はい!」
驚いたシスティナ嬢はパシリと鞭を叩いて、パカパカと馬が歩き出した。
意外と馬って夜でも走るんだな。
力強く歩いてるのを見ているとなんだか頼もしい。
「なんじゃ、もう出発かえ? 妾の使い魔は夜が苦手で役に立たんのぅ」
後ろの荷台がごそごそして蜥蜴がぬっと従者台へ顔を覗かせてチョロチョロと舌を出して、そうのたまう。
「え!? と、蜥蜴が喋った!?」
まぁそうなるわな。蜥蜴人族とかいるけどアレは二足歩行の種族だし、見た目が人間ぽいからな。
この蜥蜴野郎はどこからどう見ても蜥蜴だし。
つか、お前自分で火がおこせるんだったら変温動物じゃなくて、恒温動物じゃね? よくわからん生態しているなぁ。
まぁ不思議動物だからいいのか。
「うむ。私の使い魔じゃ。サラヴィスという」
「そ、そうなんですか・・・アーリア様は凄いんですね・・・」
システィナが何とも言えない顔をしながら、おっかなびっくりと蜥蜴をチラチラ見つつ、馬車を操縦する。
「よろしゅうのぅ、人族の娘よ。サラヴィスじゃが今はこのサラマンダーに意識をうつしておる」
「そ、そうなんですね。システィナです。サラヴィスさん」
「うむ。よいぞ」
俺はちょっと気になって蜥蜴野郎に聞く。
「サラヴィス。なんか話し方、俺と違うくね?」
無表情というか、蜥蜴の表情なんて分かる訳もないのだが、蜥蜴は火を吐きながら言う。
「下郎。お主とこの娘御、同じと申すか?」
「いや、何でも無いです」
あっさりと引き下がりつつ、嬉しそうにしているアーリアに尋ねることにする。
「なぁ、アーリア」
「何じゃ?」
「王都行って何すんだ?」
俺の質問にアーリアは振り返り、さもえらそうにのたまう。
「なんじゃ、分からぬと申すか? 簡単な事よ」
「はぁ・・・なんだよ?」
彼女はとても生き生きとした顔で笑った。
「世界を救うのじゃ! まずは王都へ行くまでにあらゆる街のダンジョンを攻略するぞ! 冒険者登録もせねばな!」
なんていい笑顔で言うんだか。
ちょっといいなと思っちまっただろうが。
まぁすることもねぇし、アーリアの横も離れられない。
付き合って、いっちょ世界を救うのもありだな。
「よーし! ならばシスティナ! 目指すは王都じゃ! 行くぞ! 馬を走らせよ!」
「え? え? 世界を救う? え? ちょっと待ってください! アーリア様! そんなに急いだら馬が疲れちゃいますよ!」
「疲れたら私が直々に
「ええええ? そんな無茶な!?」
アーリアとシスティナが騒いでいる後ろで、ぽつりと蜥蜴が吐いた。
「騒がしいのぅ・・・」
「ああ、全くだ」
それには珍しく同意するわ。
まあ何にせよ。
よく分からん珍道中になりそうだな。
意外と悪くない、とか思っている俺は後悔するだろうなぁ。
まぁそれでも楽しみっちゃ楽しみだ。
この世界をもっと見てみたい。
俺はそう思いながら騒がしい馬車で風を切りながら夜道を走っていった。
吸血姫の従者、激しい痛みに耐えて珍冒険中! 三叉霧流 @sannsakiriryuu
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