5話

しん、と静まりかえったレッスン室には先程までの残響が薄く残っている。

机に突っ伏す様な体勢で、俺はピアノの鍵盤蓋に頭をのせた。

目を閉じ、耳を澄ませ、部屋に残る僅かな音を感じて、目を開ける。

小さな頃の記憶はよく覚えている。

この動作は昔TVで見たリラックス方法だ。

この動作を何回か繰り返していくと、緊張と興奮の間にあった頭が段々と落ち着きを取り戻していった。

俺はゆっくり上体を起こした。

ぼうとする頭の中にはレッスンに対する反省が残っていた。


「……」


何も言わず、瞬きをする。

瞼の裏に先程のレッスンが蘇る。

必死に弾くサキュバスさんとスケルトン。

サキュバスさんもスケルトンもピアノを始めて一ヶ月経たないのに、中級者の曲を弾いている。

相当な練習量な筈だろう。俺も負けてはいられない。


目の前には譜面板に置かれた死の舞踏の譜面がある。

それを片付けて、自分が持ってきた譜面を置く。

スケルトンのレッスンは終わった、今日はレッスンはもう無い、今からは自分の練習時間だ。

譜面板の横に置かれた腕時計は16時30分を示してる。

この部屋の予約時間は22時までなので5時間程練習が出来る。

足りなくは無いが、魔界は72時間もあるのだ、やはり15時間は弾きたい。


多少部屋の予約時間をオーバーしても良いだろうと思いながら、俺は鍵盤に指をのせた。

最初に弾くのはもちろんスケール、全調のスケールだ。

指に意識をのせる。

いくら指を動かしても、スケールは集中して弾かないと意味がない。

自分が指になったつもりで、俺は練習を始めた。

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魔界でピアノ教室始めました @hurahura

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