UK法あるいはKU法について
阿井上夫
UK法あるいはKU法について
本日はこのような大勢の皆様にお集まり頂きまして、誠にありがとうございます。ご多忙な方ばかりで非常に恐縮しております。何を話せばよいのか困ってしまいますが、事前に挨拶文を準備するような真面目な性格でもございませんので、思いつくことなどをつらつら申し上げたいと思います。
どうも、この後、この挨拶が活字になるようですが、途中の「あー」とか「うー」とかは省いて頂けると助かります。
改めましてご挨拶をさせて頂きます。関西経済法科大学の笹原でございます。宜しくお願い致します。
今回、私が理論提唱致しました『UK法』によりまして、非常に名誉ある賞を受賞することが出来まして大変に光栄でございます。お陰様でここ数週間は人生の中で最も忙しい時間となりました。賞を取ると昔の知り合いからさまざまな形でお祝いの言葉を頂きますが、中には幼稚園のばら組で一年間だけ一緒だった方もおられまして、その方曰く「あの頃から才気煥発な方だと思っておりました」と。
(場内から笑い)
幼稚園児が才気煥発もないのですが、まあ、変わり者だったということだと思います。成人してからは顔も見たことがない親戚やら、卒業以来顔を出したことのない小学校の校長先生やら、いくら考ええても関係が思い出せない方やら、本当に多数の皆様からお祝いの言葉を頂きました。くどいようですが、この挨拶は活字になるようですので、この場をお借りしましてまとめてお返事をさせて頂きます。有り難うございました。はい、お終い。
(場内から笑い)
どうも根っからの不真面目な人間でして、このような場でもご立派なご挨拶ということが気恥ずかしくてできません。いままでもかなりの方に眉をひそめて頂きましたが、まあ、この会場の中にもすでに何人かは――あ、お気づきになられたようで何人かは元に戻ったようです。お気遣い有り難うございます。
(場内から笑い)
さて、そろそろ何のご挨拶か分からなくなりかけておりますので、真面目な話に戻りたいと思います。
今回の受賞につきましては、まず第一に娘に感謝しなければいけません。思い返せば、二○十四年に当時八歳だった彼女が急に「英語の勉強をしたい」と言いださなければ、この研究は始まりませんでした。もし、研究が遅れていたならば、それによって苦しむ方が多数に上ったことを考えますと、背筋が寒くなります。娘は親に似ず勤勉でありまして、ラジオの英会話講座をそれはもう熱心に聞いておりました。私も、早めに目を覚ましてしまった時や、結局寝れなかった時に、よくコーヒーを飲みながら邪魔にならないように聞いておりましたが、その時に、ちょっとした違和感を抱いたことが、今回の受賞につながっております。
その違和感をきっかけに理論構築に三年、基礎研究に三年を費やしまして、研究結果を論文として発表したのが二○二○年でした。
その五年後である二○二五年には『イグノーベル賞』を受賞いたしました。この賞についてはいろいろと言われましたが、本人にとっては世界的に論文が読まれた証明でありまして、当時、非常に光栄に感じたのを覚えております。それが今回、二○四○年のノーベル医学賞ということになりまして、同一テーマで両賞受賞というのは、後にも先にも例がないのではないかと思います。大人の事情でノーベル賞の選考通過が大変だろうなと。
(場内、爆笑)
基本的に基礎研究の分野の顕著な成果に対して贈られるノーベル賞が、このような応用技術の権化のような『UK法』に送られることになりましたのも、その波及効果が極めて目覚ましかったからですが、論文発表当時はもう本当に『頭がどうかしたのか』という扱いでした。まあ、私も多少「そうかもしれない」とは思いましたが。
(場内、爆笑)
私が提唱致しました理論の要点は四つでございます。
一つ目は「裏声でなければならない」
二つ目は「別な人格になりきらなければならない」
三つ目は「完成度を求めてはならない」
四つ目は「人前でやってはいけない」
裏声を使って別人格になりきることは、自己イメージからの脱却に他なりません。人格障害や鬱は、個人がつくりあげた自己イメージから脱却できなくなったことが大きな原因となっております。その自己イメージとは異なる、裏の自己イメージになりきってみることで、表の自己イメージの矛盾点を浮き彫りにする手法でございます。こう言い切ってしまうと簡単ですが、脳内で生じる変化は目覚ましいものがあります。交感神経の活性化、ドーパミンの分泌など、これと同じ効果が見られる現象は、他には宗教的なエクスタシー、法悦ぐらいです。それによって自己の客体化を図って自己イメージの修復につなげるという『UK法』の応用範囲は、医療の面だけでなく教育などへの拡大を見せております。
この時演じられる別人格は、本来の自己イメージからかけ離れたものであればあるほど効果があります。私が最初に経験した例は、どうかんがえても中年としか思えない男が、裏声で幼稚園児を演じているケースでしたが、それぐらい無理がなければ治療効果は望めないわけです。
それゆえ、この技法では完成度を求めてはならないことになります。
裏声を使う方、例えば腹話術師などが考えられますが、彼らが一様に人格的に安定していたという研究報告はございません。それは、裏声で作り上げられるものに完成度を求められるからであります。本来、自己イメージからの脱却であるところの裏の自己イメージ自体が、さらに確固たるイメージであることを求められる。これは矛盾であります。
そして、完成度を求めてはいけないがゆえに、これを人前でたることは避けなければいけません。第三者から見て、裏声で別人格を演じている個人というのは、その、まあ、なんと言いますか(編集部注:ここは重要なポイントとなりますため、笹原先生了解の上で、ほぼ挨拶時の言葉通りに活字化しております)、非常に微妙な空気を生み出すからです。私の研究の契機となりました例は、ラジオから流れてくる中年男性が演じている幼稚園児の裏声でした。しかも早朝です。
(場内、爆笑)
おそらく、裏声で別人格を演じることは、それほど珍しいものではないと思います。それが完成度を度外視した形で、堂々と聞くことができたというのは、このラジオ放送でなければありえなかったと思います。現在では非常に感謝しておりますが、その当時は「朝から鬱陶しいもの聞かせやがって」と、抗議の電話をする寸前でした。あ、そういえば実際に一回電話しました。
(場内、爆笑)
さて、この技法は、一般的には私が今回の挨拶で申し上げました通り『UK法』あるいは『UKメソッド』という呼称で呼ばれております。応用技術の呼称について、これまで私としては言及を避けて参りましたが、今回の受賞に当たりまして理論提唱者の立場から一言申し上げますと、ここは原点である日本語の語順を尊重した上で『KU法』とされるのが適切ではないかと思う次第です。単に私の好みではございますが。
以上、ご清聴ありがとうございました。
ノーベル賞受賞者挨拶 関西経済法科大学 笹原誠教授 「UK法あるいはコーモト・ユージン法について」より抜粋
( 終り )
UK法あるいはKU法について 阿井上夫 @Aiueo
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