第十話


アリアと別れたあと、本来の目的を果たすため隣の部屋へ向かう。

セントの頭の中は告げられた属性よりアリアとの約束の事が浮かんでいた。


(雷の魔法なら光で綺麗な魔法くらい作れそうだな……。魔力量が少なくても出来るもんなのかね)


考えながら扉をノックする。すぐにどうぞ、と案内役の声が返ってきた。

約束の事をいったん忘れ、ドアを開ける。


「戻りました、父様。母様。無事に属性を教えてもらうことが出来ました」


「それでそれで?私のセントの属性は?」


セントの言葉が終わるやすぐにララが聞いてくる。

一瞬でセントの目の前まで移動して。

整った顔立ち、息のかかる距離まで近づいたララに鼓動を速めるセント。座っていた体勢からセントに近づくまでの速さは流石英雄と言うべきか。


「こらこら。ララ、少し落ち着いて。セントもそんなに近づかれたら話しにくいだろう」


「あ、そ、そうね。ごめんなさい、ララ様としたことが……」


サリエルの柔らかい声に諭されて、ララが大人しくセントから顔を離す。

自分でも少し急ぎすぎたことを自覚しているのか、すこししゅんとしているララだった。

というか自分のことを様付で呼ぶのは癖か何かなのだろうか。


「それで、セント。どうだったんだい?」


話を戻すように、サリエルが聞いてくる。


「僕の属性は雷と闇だそうです」


「雷と闇?二属性なのねセント!凄いわ!水でも炎でもなかったけど……それは些細な事ね!流石私とサリエルの息子だわ!大好きよ!」


しゅんとしていたのはどうやら見間違えだったようだ。

大人しく座っていたララが再び一瞬でセントを抱きしめる。細い体のどこにそんな力があるのかは分からないが、セントを自分の胸に押し付けるようにホールドした。


「か、母様苦しいです……胸が……!」


漫画や小説でよくある胸で窒息というものを体験するとは思っていなかったセントだ。羨ましいと思っていたが実際にやられると案外危ない。

唯一自由な右腕でララの背中を二回軽く叩く。ララは確かに美人だが母と思うと興奮は出来ないようだ。

しかしセントの声が聞こえていないのか、それとも無視しているのか更に強くセントを抱きしめるララ。柔らかい感触、甘い香り、そして足りない酸素に意識が朦朧としてくる。


「流石ララ様とサリエル様のご子息ですね。私が担当してきたお子様の中でも二属性持ちはセント様を含めても数名しかいません。勿論、全ての子供達を私が見ている訳ではないですが。そうですね……百人に一人、といったところでしょうか」


(んなこたどうでもいいから母様を離しやがれ眼鏡美人!!今この瞬間にその流石のご子息が窒息死しかけてんだよ!)


マイペースに話す案内役の女性にセントの心の声は届かない。母に包まれるような感覚は悪いものではないが、少し抱き力が強かった。

案内役から唯一冷静な父、サリエルに助けを求めようとそちらを見るが、サリエルは何やら難しい顔をしている。口元に手を当て、何かを考えているような。

細められた目、心配そうな顔にも見える。

だがそれは今落ちかけているセントを心配しているわけではなさそうだ。


(こ、こいつら…………)


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