第16話 長い旅の終わり

サタンの投げ放ったがれきの下敷きになったアダム。

ホーンはすかさずアダムの元へ走った。


―ビュウウウ!!


竜巻を起こしてがれきをアダムの上から取り除けた。

アダムは重いがれきに押しつぶされたせいで身体のところどころから血が出ている。

そして、アダムの足は、元の熊の足に戻りかけていた。


「忌々しい犬め!!」


サタンはホーンに向けて黒いオーラを放った。

オオカミの姿だったホーンはみるみるうちに元のレトリバーに戻ってしまった。

黒いオーラがホーンにかかった魔力を吸い取ったのだ。


「アダム!!」

「ホーン!!」


イヴとホーペは、アダムとホーンノ元へ駆け付けた。

ついに家族三人は合流した。

イヴとホーペは急いでアダムとホーンに生気を送った。


「…すまない。油断していたよ。」


アダムは起き上がりサタンの事をにらんだ。


「早くこいつをどうにかしないとな。せっかくの家族水入らずが台無しだ。」


ホーペの頭を撫でながら、アダムはサタンへ再び杖を向けた。


「感動の再会にはまだ早いぞ!!家族ごとみな地獄に落としてやる!!」


サタンは今までにないような黒いオーラを放ち、最後の一撃を仕掛けようとしてきている。


「僕たちは今までずっと地獄を見てきたんだ!」


―そんな一撃じゃ、僕らを苦しめることなんてできない!!


ホーペを中心に、アダム、イヴ、ホーン、そしてビオラ全員でかたまり、青く大きな光でみんなを包んだ。


「死にさらせー!!!!!!」


サタンが渾身の一撃をホーペたちに向かって放つ。

青い光は黒いオーラに包まれた。


―しかし―


黒いオーラの中から、すぅっと小さな手が伸び、憎しみに満ちた黒いオーラを吸い取った。

そして青い光の中のホーペたちはそれぞれ魔法を放った。

ビオラを抱いたイヴは黄色い光をまとった鋭いひょうを。

アダムは大きな炎を。

そして、ホーペとホーンはイナズマをまとった風を。

いっせいにサタンへと放った。


―バチバチィ!ビュンビュン!!ボオオオ!!!!


次々に弱ったサタンへと突き刺さる。

うめき声をあげ、サタンはとうとう動けなくなった。


動かないサタンの元へアダムは近づき、息も絶え絶えなサタンに問いかけた。


「あの時、なぜ俺に禁断の果実を渡した。」


這いつくばったまま、サタンはアダムを見上げ答えた。


「同じ腹の子なのに、優秀なお前が、うらやましかった…そして、憎かった。」


―大魔王サタンの息子でありながら、私はこのざまだ。


死が近いサタンは自分をあざ笑うようにつぶやいた。


「お前のその魔力がどうしても、ほしかった…」


語尾が途切れながら、サタンは涙を浮かべた。


「私が死ねば、契約も解消される。お前は元の姿に戻るだろう。」


禁断の果実の引き換えが死ねば、契約は解除される。

たとえ、天のお告げでも、契約の片割れの存在がなくなれば、必然的に契約はなかったことになるのだ。


「サタン。最期に俺の、いや、俺とお前の母さんが言ってた事、教えてやるよ。」


アダムはサタンの額に手を当てると、サタンの脳内に映像を送った。

そこには、アダムを生んだばかりのサタンの母が映っていた。


―”アダム。あなたにはね、とっても素敵なお兄ちゃんがいるのよ”―


アダムとサタンの母は語る。


―”あなたたちが、いつか行く先を間違えても、母さんはあなたたち兄弟を”―


―”愛しているわ”―


―”いつかお兄ちゃんに、会ったら…伝えてね、”―


そういって赤ん坊だったアダムに記憶を送り込むと、母親は息をひきとった。


「これが俺たちの母さんの言葉だ。こんな形で見せたくはなかったがな…」


アダムはそういってサタンの額から手をはなした。

映像が途切れた時にはもう、サタンは息絶えていた。


「次に生まれ変わるときは、人間に生まれ、幸せになれよ…兄さん。」


アダムがサタンの事を、兄と呼んだのは、これが最初で最後だった。


サタンの身体は徐々に光と灰が混ざった粉になり、天へと舞い戻っていった。

その様子をホーペたちは見送るように眺めた。

そこにはサタンとの闘いで死んでしまったビオラを背負ったホーンも一緒に。


山の黒い霧が晴れ、木々も生き返り、花々もよみがえった。

ホーンはビオラの好きだった花を見つけると、そこに深い穴を掘ると、自分の大切なスカーフでビオラを包みそっとビオラを埋葬した。


「ビオラ、本当にありがとう。」


ホーペは泣きながら木で作った十字架の首にビオラが大好きだった花冠をかけ、イヴとアダムに言った。


「父さん、母さん、僕ここに住みたい!!」


サタンと戦った屋敷を指してホーペは強く言った。


「アダム。どう思う?」


イヴがアダムに笑って言うと、アダムも笑ってホーペの頭を撫でた。


「俺も、ホーペと同じことを考えてたよ。」


私も!!そういってイヴは喜んだ。


こうして、ホーペたち家族と二匹のお供は、北の奥深い森の中、

黒い闇の消えた自然の中で、生涯、幸せにくらしました。


end

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汚れた子 とらもにか @trmnk

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