神斬髪切り屋(かみきりや)参の巻 金剛 2. 石道 二
神 斬
髪 切 り屋
参の巻 金剛
2.石道 二
光野山(こうややま)の麓、慈尊寺(じそんじ)に車で
向かう道すがら、コンビニで必要なものを買って再び車に乗り込む
白狐(びゃっこ)「ところで、朱右よ、便利な時代になったものよのぉ
人は、太古より、闇を恐れて生きてきた
しかし、今はどうじゃ、こんな真夜中の闇をも明るく照らす
人の欲の力というものに、我(われ)は逆に、怖ささえ感じてしまうぞ」
朱右(しゅう)「そうかもしれませんねぇ、便利な世の中になったかもしれませんが
そのぶん、人は大切な何かを、失くしてしまっているのかもしれませんね」
白狐「では、朱右よ再び出発じゃ」
俺は目的地まで車を走らせた、まだ、真夜中の静けさが辺りを包んでいる。
朱右「さすがに、こんな時間じゃ、走っている車も少ないですね
夜明けまで、まだ少し時間がありますし」
1時間ほど経過
朱右「白狐さん、慈尊寺(じそんじ)に着きましたよ」「白狐さん[大声]」
白狐「すー・すー・すー[寝息] もうラーメンは食べられないのぉ」
朱右(さっきから、俺の話に全然返事がなかったのは、寝てたからなのか、寝言まで言ってるし)
朱右「白狐さん、おーきーて下さい着きましたよ[大声]」
白狐「おおっ朱右、いやー、良く眠れたわい、運転ご苦労様じゃ」
朱右「しかし、人に運転させておいて、呑気に寝てられますね」
白狐「朱右、そう、嫌味を言うでない。我は、これから重大な事を成さねばならぬのじゃ」
白狐「無駄に体力を消耗することは、何事においても、愚策というものじゃ
しっかり、肝に銘じておけ」
白狐「朱右 では、これから準備をするぞ、車のトランクに積んである
荷物を降ろすのを手伝ってくれるかのぉ」
朱右「わかりました、しかし、何でこんなに大きな荷物なんですか?」
白狐「それは、すぐにわかる事じゃ、ほれ、まずは靴をこれに履き替えるのじゃ」
「次に、この杖、それにこの日本手ぬぐいは頭に巻く用」
「上着はこれを着よ」
「そして、我が作った弁当が入っておるリュック。これに先ほどコンビニで買った
ペットボトルを入れてじゃのぉ」
「朱右よ、このリュックには、
寒さに耐えれる、防寒着や、カイロ、魔法瓶の中身には暖かいお茶
登山用のライト、などが入っておるので、いざという時には使えるじゃろ
よし、これで準備万端じゃ」
朱右は白狐の持ってきた装備をまとった、リュックが異常に重い
白狐「ふむ、朱右よ、なかなか似合っておるではないか」
上から頭に、日本手ぬぐい、白衣(はくえ)の上着、白いズボン
手には、よくわからない、ひらひらの赤いリボンが括り付けられ鈴のついた金剛杖(こんごうじょう)
足には地下足袋(じかたび)、背中には、重そうなリュック
朱右「白狐さん、この格好って・・・・」
「ほとんど、修行している、お坊さんが
でっかいリュックを背負っているようにしか見えませんが(汗)」
白狐「なんじゃ、気に入らぬのか
では、そなたが、子供の時に黒髪の龍と戦かった時に
着た、白装束と袴に、我の呪でちゃちゃっと・・・・」
朱右「思い出しました、あの、服って・・・
神社の神主さんが着ていそうな服ですよね。
もう俺、コスプレイヤーの気分で泣きそうですよ」
白狐「なら、今の格好でよかろう」
「それに、朱右よ、そなたが、神主様が着てそうな服といっておるが
白という色は特別の力を持っておるのじゃぞ
特に、白い袴(はかま)に紋入り(もんいり)をはいてよいのは
特級の神主様だけなのじゃぞ
神である、我の呪で作り出す、それは高貴な装束なのじゃぞ」
白狐「ここで白狐様の豆知識じゃ」
「神主様の袴の色について
神主様の袴の色は階級によって違うのじゃ
神主様=神職は普段はいている袴の色と
紋入りかどうかで、階級が一目でわかるのじゃ
最上位の特級神主は白袴に紋入りの袴をはいている
この特級神主は、全国に2万人ほどいる神主様の中に
たった、70人ほどしかいないのじゃぞ」
「ちなみに、大きな神社でよく見る水色っぽい袴を
はいた神主様がいるが、浅葱色(あさぎいろ)の袴で
三級の神主様じゃ」
「祭などの特別な日には、白袴を階級にかかわらずはくこともあるがのぉ」
白狐「ついでじゃが、神主様と宮司様の違いも説明するぞ
神社には、大小に関わらず、各一名代表となる神主様がいる
この代表神主様の事を宮司様と呼ぶわけじゃな」
白狐「朱右、そなたが、子供の時に黒髪の龍と戦った時に
一時的にでも、龍の攻撃を防げたのは、霊験あらたかな
装束であったからじゃぞ、それをコスプレとは
罰(ばち)当たりな発言じゃぞ」
朱右「あの白装束と袴って、そんなにすごいものだったんですか?
知らない事とはいえ、すみませんでした」
白狐「まー、わかればよい」
朱右「しかし、最近、白狐さん、身体でいるときは、お洒落な服を着てますよね
神体の時は、相変わらず、巫女服みたいなの着てますけど」
白狐「おお、朱右、そなたも、この服がよい感じなのがわかるのか。
最近ネットを見ておったら、お洒落な服の載っているサイトを
見つけてのぉ」
白狐「たしか・・・桜子ワールドブランディングとかいう
ファション雑誌にも、よく出ているメーカーのサイトじゃったか」
朱右(げっ、めっちゃ有名な世界的なブランドですやん、そこだけ女子力高いのか)
心の中で突っ込みをいれる朱右だった。
白狐「そのサイトの服のデザインを参考にして、我の呪でちゃちゃっと生成してじゃのぉ」
朱右「どうせなら、俺も、もっとお洒落な、登山用のパーカーとかをちゃちゃっと
生成してほしかったです。」
白狐「ならば、リュックに入っている、お洒落ぇなぁ防寒着を着ればよかろう
どうせすぐに脱ぎたくなって、リュックに戻すはめになるじゃろうが」
俺は、リュックから、防寒着を取り出し
上着の見た目だけは僧侶から登山家にジョブチェンジした。
白狐「ところで、話を進めるが、これから、そなたには
本当に修行をしてもらう、だから、上着を脱いだ
格好でも、じきに違和感もなくなるじゃろう」
白狐さんが、いじわるそうな顔で、俺をみていた。
朱右「えええっ、修行って俺に何を、させるんですか!!」
白狐「つべこべ、言ってないで、修行の無事をお願いしに
まずは、慈尊寺(じそんじ)にお参りじゃ」
霊峰光野山(こうややま)の麓に位置する
慈尊寺(じそんじ)は、女人光野と呼ばれている。
なんでも、近代まで、光野山は女人禁制(にょにんきんせい)
だったらしい、白狐さんに、半ば強制的に
修行させられる事となった俺は、慈尊寺にお参りをすませ
修行のスタート地点に立っていた。
朱右「しかし、なんでお寺である慈尊寺の境内に
稲荷神社があるんですかね?
白狐さんなら理由わかりますよね・・・」
白狐「もちろん知っておるが、その説明はこの修行中に
これからそなたが会いに行く人物に聞いてくれ」
こんな会話をしながら慈尊寺の境内の奥に歩いていく
俺の眼前には、何段もある階段が聳(そび)えたっていた。
慈尊寺(じそんじ)の奥に続く階段の中ほどと最上段には
なぜか鳥居が見える。
階段の手前の石碑にはこう書かれている。
弘法大師(こうぼうだいし)建立の社(やしろ)光野山 町石道(ちょうせきどう)登山口
丹砂官省符神社(たんさかんしょうぶじんじゃ)
朱右「で・・・、白狐さんの後ろを、慈尊寺の境内からついてきている
白いワンちゃんは、今回の修行と何か関係があるのですかね?」
白狐「さすがは朱右、そなたは、勘がするどいのぉ
このお犬さんは、コン殿という名で、我が友の
所まで、そなたを案内してくれる、お犬さんなのじゃ」
朱右「なんとなく、修行する事はわかってきましたが・・・・汗
駐車場に止めてある車は、どうするんですかね?
長い時間、お寺の参拝用駐車場に止めておくわけにはいかないでしょ」
白狐「朱右はあいかわらず、心配性じゃのぉ」と
言いつつ、白狐は肩からかけていた小さなかばんから
何やらゴソゴソと取り出した。
白狐「朱右、この自動車運転免許証が目に入らぬか」
氏名 稲荷 要子 生年月日 太古2月最初の午(うま)の日
本籍 八雲の国意宇郡佐草227
住所 木の国在田郡糸鹿山105清の峯立岩
交付 現代2008年9月10日 105172
現代 2014年2月最初の午(うま)の日の1ヶ月後まで有効
ゴールドのライン
運転免許書
番号 第172 105 1192 172
種類 普通 写真
免許書を見せてなんだか、すごく、誇らしげな白狐さんであった。
白狐「初心運転者標識(しょしんうんてんしゃひょうしき)
通称若葉マークも、ホレ、ちゃんと持ってきておる」
朱右「・・・・・いつの間に、免許取ってたんですか?
7月くらいに、昼間、家で白狐さんの気配がしなかったのは
これが、原因だったんですか」
白狐「うむ、そうじゃ」
朱右「しかし、免許取りたてで、ゴールドはないでしょ
若葉マーク持ってるのに」
白狐「こまかいことは、気にするな、神である、我はいろいろと顔がきくのでのぉ」
白狐「で、本題じゃ、心して聞くがよい」
若葉マークと免許証を、かばんに入れながら白狐さんが言った。
白狐「そなたは、ここから、光野山に向けて登っていくのじゃ」
階段を登りながら白狐さんは言った
朱右「ええっ、白狐さんは、一緒に行かないんですか?」
白狐の後ろについて行きながら朱右が言った
白狐「我は、そなたの車を光野山まで、運転していくという
それは、それは、重要な任務があるのでなぁ」
朱右「俺一人で歩いてですか、道に迷ったらどうするんですか」
白狐「そのために、我が友に、わざわざ下げたくもない頭を下げて
案内してくれる、コン殿を、ここに、来させてもらったのじゃぞ」
犬のコン「ワン」
白狐「つべこべ言わず、今、そなたが立っている場所の横を見るのじゃ」
白狐さん、コンちゃん、俺は、丁度階段の中ほどの鳥居の前に立っていた。
俺は白狐さんにいわれたように、右側の横を見た。
朱右「石の柱が立ってますけど」
白狐「その石の柱は町石といって、石でできた卒塔婆(そとば)なのじゃ
朱右よ、その町石に書かれている数字を読んでみい」
朱右「百八十町って書いてます」
白狐「そのように、町石には数字が書かれている
一町「長さの単位現在の110メートルくらい」ごとに
この光野山 町石道(ちょうせきどう)に立っている
今、そなたが見ておる、百八十町石を初めとして
光野山に登っていくごとに、数字がどんどん小さくなり
最後は一番町石となるのじゃ」
白狐「すなわち、この町石をたどっていけば
おのずと光野山に、たどり着けるわけじゃが
そなたには、途中で別の場所に寄り道して
とある人物と会って、合流してもらいたいのじゃ」
白狐「では詳しく説明するのでよく聞け
町石番号 百五十四町石の近くには、目印となる
小さな稲荷の鳥居と社がある
そこで、町石道の道中の無事を忘れず
お祈りしておくのじゃぞ」
白狐「その、百五十四町石をすぎるて、しばらく歩くと
六本杉と呼ばれる広い場所にでるはずじゃ
六本杉からは、道が二手に分かれておる
町石が続く道とは、反対側の道を通り
里のほうに下り、そこにある
丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)に行くのじゃ」
朱右「百五十四町石の稲荷社で道中の無事をお祈りして
六本杉から、里に下り
丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)に行く
これでよいですね」
白狐「それでよい、そこに、コン殿の飼い主が
黒い犬をつれて、そなたを待っておるはずじゃ」
白狐「我は、そなたが、ここから出発した後、車で
丹砂都比売神社に、先回りして、コン殿の飼い主が
ちゃんと、来ておるのか、確認しておくのでな」
朱右「あのぉ、白狐さん、俺も、コンちゃんも車に乗って移動って
訳には・・・」
白狐「たわけ、そなた、今年の正月に黒髪不死(くろかみふじ)と戦った後に
言っておった、もっと強くなりたいという決意はどうなったのじゃ?」
白狐「たしか、そなたのお店を建ててくれた建築屋の専務の
お客人で居合い道場の主、ほれ、名をなんといったかの?」
朱右「小賀崎 透(こがざき とおる)師匠ですかね」
白狐「そうじゃ、その、小賀崎殿に、刀の使い方を教えてほしいと
頼み込んで、弟子入りしたのではないのか」
朱右「そうですけど、師匠に居合いを教えてもらっているのと
山登りの修行って何か関係があるのですか?」
白狐「続けて、たわけ、すべての武術の基本となるものは
足腰の鍛錬からじゃぞ」
朱右「じゃあ、白狐さんも、一緒に登って、足腰の鍛錬をしましょうよ」
白狐「三度(みたび)、たわけ
我は、今までの戦いで、武術担当ではなかったであろう
我の専門は、頭脳労働、すなわち、いかにして、敵に
勝つための策を練るかが、我の担当ではなかったかのぉ」
朱右「それは、そうですが・・・」
白狐「ゆえに、我には、車で先に光野山に行って
黒髪と戦う場所や方法を考え策を練るという
大事な役目があるのじゃ」
そんな会話をしながら階段を登っていたら、最上段の朱塗りの
鳥居の下に到着した一行であった。
鳥居の前で礼をして、鳥居の端をくぐり本殿前に進む
白狐「朱右、ここが、丹砂官省符神社(たんさかんしょうぶじんじゃ)
町石道始まりの神社じゃ」
白狐さんと、俺は、お賽銭を入れ、お参りをして、道中の無事を祈った
そろそろ、夜が明けそうだ、あたりが少し明るくなってきた。
白狐「しかし、朱右よ、あまりに早朝すぎて社務所が閉まっておる
せっかくお参りしたのに
この、世界文化遺産 木の国山地の霊場と参拝道御朱印帳に
御朱印を書いてもらえないではないか。」
白狐は木でできた朱印帳と呼ばれるノートみたいなものを持っている
朱右(本当に、このドジな神様が、今年の正月に
俺が思いもよらなかった策で、みごとに
黒髪不死を倒したのが、今だに信じられない)
(アレだけ、ネットやスマホを使いこなせるようになっているのに
社務所が開く時間を調べておけばよいものを・・・)
白狐「朱右、そなた、今また、何かを考えておったであろう」
朱右(なんで俺が考えごとしていたらわかるんだろう?)
朱右「いえ、何も考えてませんよ(汗)」
朱右「ところで、その、御朱印帳って何なんですか?」
「ちょっと、見せてもらえます」
「へー、木を薄く切って、紙みたいな薄さにしてあるんですね」
白狐「その御朱印帳は、限定の特別品じゃ
普通に紙に書く御朱印帳も売っておるぞ」
朱右「へー、ここ丹砂官省符神社(たんさかんしょうぶじんじゃ)
さっきお参りした、慈尊寺(じそんじ)
俺が、これから行く、丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)
光野山 金剛武寺(こんごうぶじ)
いろいろな場所が書かれてますね。」
白狐「この御朱印帳に書かれている、巡礼場所は15箇所
それぞれの神社やお寺で、参拝した証として
墨書で寺社名や参拝日、ご本尊などを書いてもらい
御朱印という、印を押印してもらうのじゃ」
「それにより、神社仏閣の神様や仏様とご縁を結び
その場所の自然や教えを、感じとり
それを自らの心に記録しておく為の、ありがたいものなのじゃぞ」
白狐「朱右、そなたの修行はすでにはじまっておるのじゃ
自然や教えを、感じとり
それを自らの心に記録して、山を登ってこい」
白狐「まー、説明はこんなところじゃ
我は、神主様がくるまでここで待っておるので
そなたは、コン殿と丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)を
目指して山を登るのじゃ」
白狐「あと、そなたが、掛けている、めがねは、我が預かっておく
両の眼(まなこ)で、しっかり自然を世界を見てまいれ」
朝日が昇り
いよいよ、光野山、町石道を舞台にした、俺の修行がはじまった。
朱右「では、コンちゃん案内よろしくです。」
犬のコン「ワン・ワン」
犬のコンはすごい勢いで走り出した、俺は重い荷物のリュックを背負い走り出した
白狐「朱右、コン殿に置いて行かれんように、しっかりついて行くのじゃ
がんばるのじゃぞ」
神 斬
髪 切 り屋
参の巻 金剛 3.都比売(みやこひめ) 一に続く
神斬髪切り屋(かみきりや) 秀時周 冶志 (しゅうじしゅうじしるす) @D2fa
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