エピローグ

 勇者たちの旅立ちの朝、いや、もう昼だ。月子の長話に付き合っているうちに三人ともリビングで寝てしまっていた。食器が綺麗に片付いて、全員に掛け布団がかけてあったので母がやってくれたのだろう。

 寝坊なんて理由で学校を休んだにも関わらず、母は咎めるようなことを何一つ言わなかった。それどころか「体調不良により欠席」と連絡まで入れてくれていた。

 更に、「今日は終業式で授業もないからいいんじゃない?」なんて言うもんだから、愛宕の魔法でも降ってくるんじゃないかと思った程だ。


 二人の勇者は母にお礼を言っていた。

 刃月は自分が本当に勇者になりたいのかどうか一晩考えた。結論は五分で出た。

「ロイドさん、月子さん。あと、母さん」

「どうしたー、あらたまってさー」

 ロイドと母は何も言わない。

「ごめん。やっぱり、勇者になる夢は諦められないんだ」

 母に向けて言った。

「オレを仲間に入れてください! どうしてもロイドさんたちのもとで勇者を学びたいんです!」

 今度はロイドと月子に向き直って言った。

 ロイドと母は顔を見合わせ、頷いた。

「……いいわよ」 

 厳しいはずの母の言動にも驚いたが、その事が飛んでってしまうくらいに驚いたのはロイドの一言だ。

「オレも構わない。ただし、敬語はやめてもらおうか。背中がかゆくなるからな」

「本当にいいのか……?」

「ああ。ただし、途中でやっぱやめたとか言ってみろ、途中で放り出すからな」

「こーかいすんなよー? ぼっちゃん」

「刃月だ!」



「ロイドさん、月子さん。無理を聞いてもらってすいません。刃月をおねがいします。」

 母は深々と頭を下げた。

「刃月、気をつけて……」

「大丈夫! じゃ、いってきます!」

 すでに母が旅の準備をしてくれていたことがなぞだったが、ふたりの勇者と一人の見習いが次の目的地に向かい歩みを進める。

「……未熟なる勇者に幸運あれ…………」

 ボロをまとった男は、ビルの屋上から旅立つ少年を、その姿が見えなくなるまで見守っていた。



「ところで次の目的地どこ?」

「さー?」

「もっと魔王軍の情報を集めないとな。とりあえず電車ってやつに乗ろう。ぜひ乗ろう」

「はしゃぐなー。はずいから」





一章 終わり

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勇者inコンクリートジャングル 多高菜カナ @yupiteru_sacchin

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