エピローグ

 僕らが外に出ると両手を広げて青空を仰いでいる子も居れは無邪気に走り回っている子も居た。遠くの方にいち姉が見えた。彼女は小さな子を集めて人数確認をしているようだ。こっちには部屋メンバーの女子。「ぶりっこー、みんな無事?」懸想を変えて3163が駆け寄ってきた。「うん、大丈夫」「良かったわ、みんな無事で…」4572がほっとした表情を見せた。2780もこくんと頷く。「おーい女子ー、生きてたかあッ」「0951、あんたインフルでくたばったのかと思ったわよ」「おいおい、ひでえな」「僕も無事です」横からひょっこり8109が現れた。「みんな、無事で良かった」3000人余りの周囲にはマスコミや新宿病院の救急車が並んでいた。頭上にはヘリがとびまわっている。だれが救急車を手配したんだろう。僕は入口の方を見た。もしかしたらムツがまだ中で生きているのかもしれない。あれ。おかしいなロボットが生きてるなんて。「1002」後ろから僕を呼んだのは0951だった。「う、うん」多分5301の事を聞かれるんだろうな。僕らは施設から離れ裏口の方まで来た。「2月ままだまだ冷えるね」「ああ、そうだな」階段の所に座ると0951が口を開いた。「下で何があったんだ?」「今日は大統領の視察があったんだ、それで5301がもう監守に目を付けられていて、それで井戸刑になったんだ」「5301がか?」「うん、それで井戸に水がいっぱいに入ってそれで、それで、32が人口呼吸とかしたんだけど、助からなくて…」「水を入れ過ぎたってことか?」「多分、わざとだと思う、5301を見世物にしてたから」「ミセモノ?」「うん、僕もあんな仕掛けになってるとは思わなかったんだけど、井戸室は丁度大食堂入口の正面にあって、あの施設の中心て大きな柱みたいになってたでしょ、あそこが井戸室になってたんだ。昔は見世物としてつかってたらしくてシャッターが上がると水槽みたいにガラス張りになってて…」「確かに、俺も井戸室がどこにあるのか不思議だったけど、あのロボットが言っていたのは本当だったんだな」「うん」「そしたら井戸室の排水溝の栓を抜くか、上から5301を引き上げればよかったんじゃ…」「排水溝はロボットが監守の命令で埋めっちゃったらしくて、上から引き上げようって言ったんだけど、僕がロボットを説得するのに時間がかかって…」僕は俯いた。このまま暫く沈黙していたが0951が口を開く。「あのさ、全然かんけーねーんだけどさ」「うん、なに?」「1002って、組織の奴だろ?」僕はその言葉を聞いた瞬間固まった。その様子をみて0951は「まあ、そう警戒すんなよ」「…なんで、そう思うの?」「鉛筆の芯」0951は立ち上がり僕を見た。「そう言う事知っている子供は限られている、学校に行ってるんだったらまだ分かるけど」僕は下を向いていた。0951は続ける。「それに、大人に対して下手に考え方が中立的。これは新宿班の連中によくある傾向だ」0951は僕の顔を覗き込む。その表情はいつもの0951ではなく組織の人間の顔をしていた。「今回5301の死をもって良く分かっただろ…、奴らは始末するしかねえんだよ」0951は僕の前で首を切るジェスチャーをした。「…確かに、大人は許せないよ、でも、今回のことは5301を独りにしてしまった、僕らの責任でもあるんだ」「そういう甘ちゃんな事言ってるから、大人にやられんだよ」「じゃあ、どうすれば良かったのさ」僕はついむきになって立ち上がった。「あーはいはい、悪かったよ、俺が言い過ぎたよ」0951が施設Aの崩壊を眺めながら言った。「お前があの変なロボットと親しげにしてたのも引っかかってたが…あの32って兄ちゃんも組織の人だな」「さあね、知らないよ」僕はそっぽを向いて座りなおした。「あの大統領、僕らを死刑だって」「なんだと?」「水を止めようとしたらそのタイミングで僕らが騒ぎ始めた。だから人殺しだって」「なんだよそれ」「ガラスに体当たりしたり、大食堂にあったテーブルとかイスとかで突進してたし。今回視察にテレビ局が来ててさ、僕結構前の方に居たからばっちりテレビに映ってたかも」「馬鹿な事、したな」「そうだね、僕は生まれてこのかたヘマばっかりで誰も守れやしないのさ、今まで家畜屋に一緒に住んでた子達だって、今回の5301だって、誰も守れやしない」2月の風はまだ冷たかった。少し遠くで施設が崩壊してゆく。建物の崩れる物々しい騒音が耳に入ってくる。僕は施設を眺めていた。「でも、3000人以上の仲間は守ったぜ」僕は0951の言葉に反応して彼を見た。「どうかな…守ったのは、あのロボット達だよ」「そうだとしても、1002がそうさせたんだろ?」「まさか、僕は何もしてないよ」それを聞いた0951はふっと笑った。そして僕に右手を差し出してきた。僕は0951の眼を見る。「ま、ここでであったのも何かの縁だ」僕は思わず0951の右手と握手していた。「俺は渋谷班15班班長やってる、名前は明だ」10歳で班長?どうりでしっかりしてると思った。そんな風に考えてしまった自分が情けなく思った。「僕は新宿班の56班、名前は…」「リュウ」その時聞き覚えのある声がした。

 「光太…」そこには光太だけでなく隊長を先頭に新宿班の組織の子供達が何人か立っていた。後ろの方にゆりちゃんが見える。光太は明に話しかけた。「いやいや、うちのリュウが世話になったね、渋谷班の班長さん」明は僕から手を離した。「これはこれは新宿班の皆さん、揃いも揃ってこのクソ寒い日にご苦労さんです」僕は悟った。この二人は馬が合わない。「いやね、今日の朝のニュースでうちのリュウががっつりテレビに映ってたもんですから、これは大変だと思ってきてみれば、この様ですよ」光太は僕を睨みつけている。あれはヘマしやがったなという目つきだ。それに光太が僕を相棒ではなくリュウと呼ぶ時は本当にやばい時だ。「光太、時間がない、みな無理やり理由をつけて家畜屋を飛び出してきたのだからな、いくら日曜日の午前中でも怪しまれる」「はいはい、分ってますよ」「救護、準備はいいな」隊長が救護班に指示を出す。「はい、いつでも」僕は後ずさりした。それは光太が家から持ってきたのか刃物を持っていたからだ。「な、何を…」「リュウ、悪く思うなよ、これも班長の役目なんでね」明は腕組みをして僕と光太を平然とした表情で眺めている。施設が崩壊してゆく音だけがこの空間になり響いている。向こうでゆりちゃんが両目を手で覆っている姿が見えた。その瞬間光太は僕に向かって刃物を振り下ろした。

―続く

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子供と大人 @higamituko

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