第5話 居候
目覚めた時、わたしはベットの上に寝ていた。頭に鈍痛が走り思わず目を細める。いったい誰がわたしをここまで運んだのだろうと思い出そうとするとずきりと痛む脳。
「起きたか」
とさっききいた声がする。
「あんたは俺の名前を知っているようだったが、一応名乗っておこう。ブラッティーコ・キュウメルだ。
彼は軽く瞬きをした。
「お嬢さん、あんたのおかげで元気が出た。さっきは……悪かったな」
申し訳無さそうにするキュウメルを見ると胸が締め付けられるようだった。紅く染まる瞳に心を奪われる。
「噛んだ傷跡は自然と塞がるから安心しろ」
「あ、あなたは本当に吸血鬼なのですか」
「ああ」
とあっさりと返答した。
しゅっとした鼻は高くてヨーロッパ人のようだ。顔はもう青白くはなかったが透き通るような肌色。彼の声になんだかくすぐったい気分になる。
「吸血鬼――といっても、世界には何種類もいるんだ。そして俺は完全に吸血鬼じゃねえ。父の方が人間だからな。普通吸血鬼ってのは、吸血鬼同士で恋に落ち結婚すんだが、俺のところは珍しいんだ」
寝転がっている状態から身を起こす。
吸血鬼らしいと言えばらしいのだが、黒いTシャツに黒いパーカー、黒いズボン。頭髪も闇のようなので全身顔だけが異様に白く見える。わたしはある映画の某キャラクターを思いだした。
その時部屋の扉をノックする控えめな音がきこえたので「いいよ」と言った。
「華、体調はどう?」
「うん、結構いいよ。わたしどうやって家まで帰ってきたんだっけ……」
「俺が運んだ」
「彼があなたを運んでくれたのよ。道端で倒れてたって」
そうだったったのか。わたし、最近ダイエットしてたから丁度よかったと少しほっとする。
「あんた、すげえ軽かったぞ」
「あ、まあ、最近痩せるように頑張ってたので……」
「そんなに痩せてちゃ」
彼がわたしの右耳に近づき「俺があんたの血、全部吸っちゃうかもな」と呟くので、わたしの右耳に暖かい吐息がかかり捲くりで、きっと真っ赤になっているに違いない。
というか、お母さんがいるのに……!
「なっ……!」
「あらら、もうそんなに仲が良いの? お母さんにも紹介してよ~」
右耳を掴むと案の定火が出るくらい熱い。
「あれ? 華、顔が赤いよ。熱があるんじゃない?」
といって母がわたしの額を触ろうとするので、
「こちら……!」と話を変えるように、切り出そうとしていたらわたしの声を遮るようにして、言ったのは、キュウメルだった。
「
あれ? と思ったのはわたしだけだろうか。
「あ、それでね。家がないんだって、だから」
「イケメンね! 健ちゃんに負けない、いや、健ちゃんよりイケメンかも! あ、今の華、健ちゃんに言っちゃ駄目よ」
「お母さん、それで、家が」
「いいよ、うちに住んでも。お母さん、地翠君のこと気に入っちゃった!」
「ありがとうございます」
にこにこしてさっきまで使っていなかった敬語を使うキュウメル。
母は歌うようにわたしの部屋を出て、「布団だしてこなきゃ」とスキップをする。
「あ、あの!」
「何だよ」
「キュウメルって言わなかったのは」
「あれは父親の苗字。親父が人間と結婚してたら、地翠って苗字だったんだよ俺は」
「そうなんですか」
「それより、あんたのお母さんあっさり了承してくれたな。普通、男子高校生を居候させるか?」
「男子高校生……!?」
彼はにやっとして。
「人間でいうとそれくらい」
吸血鬼さん、吸血鬼さん! しばの晴月 @_shibadukki
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