第4話 契約
「……っ……ふぅ……んっ」
首筋に何かが垂れている感覚がする。そして、耳と頬が熱い。温かい吐息が項に吹きかかってぞくぞくしてたまらなくて、声が漏れる。くすぐったいのと恥ずかしいのと初めて体験するドキドキが溢れていた。
「――痛かったら、痛いって言えよ。今の俺は血を吸うのがやめられそうにねえ」
「痛くはないんですけど、くすぐったいです……」
紅い瞳の彼は「もう直ぐ終るから」と耳元で言ったかと思うと、鎖骨を舐めた。
とにかくくすぐったくて、恥ずかしい思いでいっぱいだ。時々意図していない声が出てしまう。
――わたしは
吸血鬼の名はブラッティーコ・キュウメル。日本人離れした顔立ちと紅い眼を持っていて、声が美しい。優しくか細い声だがはっきりと聞き取れて耳障りが良い。
「キュウメルさんというんですか……?」
わたしの血を吸うのをやめた。
「何で分かるんだ。俺、あんたに名乗ったか?」
「わたし、わかるんです。キュウメルさんの名前だって年齢だって、貴方が
やめたかと思うと耳に熱い吐息がかかった。又しても意識していない甘い声が出てしまう。
「お嬢さん、あんたのその綺麗な瞳に何が写っているのか俺は知らないが、それ以上俺を詮索するのはやめたほうがいいぜ。俺の忠告を無視するのならば……」
と言いながら右耳をぺろりと舐め上げた。次に軽く優しく甘噛みをしたかと思ったら、わたしをぐいと引き寄せた。完全にホールドされてしまい身動きが取れなくなる。
「詮索しようだなんて、思っていないです。わたしには見えてしまうんです」
「詳しく話を聴きたいところだが、生憎俺は今夜寝る場所を見つけなければならねえ。昨晩はビルとビルの間で寝たが、背中中が痛くて堪らない。夜が更ける前に行動をし始めたほうが良い。だから――」
「家が、ないんですか……?」
「ああ」
吸血鬼をこのまま放っておいていいのだろうか。もしも他の誰かにまた噛み付いたら……
震える右手を今の力の最大限で強く握った。
「わたしの……」
今日のわたしはどうかしている。直哉を怒らせて、殴って。その上出会った吸血鬼に首を噛まれ、血を吸われ。
「わたしの家で、よければ。ど、どうぞ」
「本気で言ってんのか……?」
「……はい」
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