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よみごのシロさんお仕事紹介 〜即無理案件その2〜 

※2025/08/21 全体公開にしました。

こんにちは。サポーター限定記事の更新です。
一月くらいしたら全体公開に致します。よろしくお願いします。
小ネタですが、こういうお客さんもいます。



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 志朗の事務所を、若い男性が訪れた。例によって常連客の紹介だが、いかにも体調が悪そうで、ふらふらしている。
「すみません、ここのところ寝つきが悪くて……」
 男性はソファに座るなり話し始めた。
 事情を説明してもらう必要はないのだが、それでも話したがる客は少なくない。怖ろしい体験をしたことを誰かに打ち明けるという行為には、セラピー的な効果があるのかもしれない――と、傍らで聞いている黒木は思う。だからスケジュールが押していない限りは、傾聴することになっている。

「僕はライターをやってまして、先週夏向けのネット記事の取材ってことで、■■町の廃屋に行ったんです。所有者によれば、そこで首を吊って亡くなった人がいたんだそうで……で、以来誰もいない部屋から足音がするとか、冷蔵庫の中のものが異様な速度で腐るとか、不審な現象が相次いだそうなんですね。
 で、現地に赴いたわけです。廃屋だから不気味ではあるんですが、その時には何にも起こりませんでした。どうやって記事にしたもんかなぁなんて呑気にしていたんですが、帰宅してから急に体調が悪くなって……目が異様に充血するし、呼吸が苦しくなるし、それに喉元が痒いんです」
 確かに男性の喉には、引っ掻いたらしき赤い痕がついている。
「ほら、亡くなった人は首吊ったって言ったじゃないですか? それ思い出したら怖くなってきて……それにくしゃみや鼻水も出るし、頭がボーッとするのに、鼻がズルズルするから眠れなくて……」

「……あの、ちゃんと調べる前に何ですけど、たぶんそれホコリかなんかのアレルギーだと思います」
 志朗は気の毒そうにそう告げた。男性は「それ……一番つまんないやつじゃないですか……!」と言って涙を拭った。
 その後いつもの「よむ」過程を経て、男性は近所の耳鼻科を紹介され、がっかりした様子で帰宅した。それから数日後、
『いい病院を紹介してくださってありがとうございました。記事もネタがないなりに何とかしました』
 という連絡が来た。

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