【追記】ひと月には少し早いのですが、誕生日なので全体公開とさせていただきました。よろしくお願いいたします。
こんばんは。よみごさんシリーズに関連する小噺を書いたので、サポーター限定記事として公開いたします。
ひと月ほど経ったら、全体公開にしたいと思います。よろしくお願いいたします。
では以下。
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なんでもその人たちは「よみご」とか「よみごさん」と呼ばれているという。
友人の出身地で活動していた、拝み屋の類なのだそうな。
「結構カジュアルに来てもらうんよ。あたしの姉とか、結婚の挨拶の前に見てもらってたし」
と、友人は実にあっさり語る。
「実家の辺りにしかいないって知ってはいたけど、就職でこっち出てきたら本当にいないからさ、なんかこう……漠然と不安になったよね」
というくらいだから、生活に根差した存在なのだろう。
友人曰く、よみごさんは必ず盲目で、白紙の巻物を持ち歩き、厄払いをしたり、よくないことが迫っていることを当てるという。
「うちの弟、すっごいバカだった頃があってさぁ」
友人は肩をすくめる。「中学生のとき、急に『よみごさんになりたい』って言い出して、大変だったんだよね」
「それって、目が見えない人しかなれないんじゃないの?」
「そうなんだよ。だからまず、視力を失うところからなんだよね」
自ら目を傷つけようとしたが、どうしても怖くてできなかったとか――まぁ、当たり前だと思う。私だって何かが顔に向かって飛んで来たら、反射的に目を守ろうとまぶたを閉じたり、手で防いでみようとする。そういう器官を意図的に傷つけようというのは、きっとすごく大変なことだ。
「それで諦めたの?」
「いや、諦めなくて……たまたまうちの近くに、昔から眼病にご利益があるって言われてる神社があってさ。そこに通うようになったの。目に効く神様なら、目を見えなくすることもできるんじゃないかと思ったらしいのね」
神社に参拝して「目が見えなくなりますように」と祈ったが、ひと月ほど通ってみても一向に効き目はなかった。
「なんかぐちぐち言ってたけど、それでも未練がましく通い続けてさぁ」
友人はため息をつく。「……そしたらその後、失明したわけではないけどさ、急激に視力が下がったの」
「えっ怖。まじで?」
「まじで。それでさ、親がよみごさん呼んだんだよ……お祓いしてほしいっていうよりは、あまりにバカの行動が目立つから、本職の人にお説教をしてほしくて頼んだみたいなんだけど」
でも、来てくれた。それも元締め的な存在のおばあさんが出張ってくれたという。
「で、とりあえず弟の前で巻物広げてこう、何か調べるような動作をするわけ。それでさ」
おばあさんは巻物を広げたまま、白く濁った眼を細く開け、
「あんた、神社で神様怒らすようなことしたじゃろうが」
と、ワクワクしている弟に向かって言い放ったらしい。
「無縁さんからお金とって賽銭箱に入れたじゃろ。これから目がほんまに見えんようになるかどうか、うちにゃあわかりませんけどな。そねぇなことする子を弟子にゃあとれません――って言うだけ言って、帰っちゃった。後で聞いたら、お寺の無縁仏の前にお供えしてあった小銭を盗って、神社のお賽銭にしたんだって。めちゃくちゃ古くてご利益ありそうだったからって……」
「ば、バカ……」
他人様の身内にどうかと思いつつ、思わずそう口に出てしまった。
友人は黙ってうなずいていた。
友人の弟はその後、少々高価な眼鏡が必要にはなったものの、憑き物が落ちたように奇矯なふるまいが止んだ。今ではごく普通の、どちらかといえば真面目な高校生だという。
家族の中では「あれは中二病ってやつだったんじゃないかな」ということになっているらしい。