【2024/8/21追記】
以下の記事ですが、当初はサポーター限定で公開し、「一週間くらいで一般公開にする」と言ったのを完全に忘れて一月近くが経ちました。大変申し訳ありません。
遅まきながら一般公開にいたしました。よろしくお願いします。
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私はホラーじみた小説はよく書くのですが、実は幽霊というものを視たことがないのです。「怪を語れば怪至る」などと聞きますが、あいにく百物語に付き合ってくれるような友だちはおりません。そこでせめてと思って色々書いているのですが、やはり一向に幽霊なるものは視えないままです。
思えば、幽霊を視るべきチャンスは色々とあったはずでした。たとえば私は小さい頃、古い団地に住んでいたのですが、そこは近隣でも「お化け団地」と呼ばれて有名なところでした。五つ上の兄が部屋のそこかしこで「みた! みた!」と叫ぶのが、私にはとても羨ましく感じられました。私も真似をして天井の隅などを指し、「みたみた」などと声を張り上げてみるのですが、兄には嘘だということがすぐにばれてしまい、「あんなとこにいないよ」などと呆れられたものです。
大人になってからは、あちこちの「出る」と言われるところに行きました。山奥だの湖だの廃墟だの廃屋だの海だの川だの、ときには外国にまで足を運びましたが、やはり一向に視えませんでした。
幼い頃から「幽霊を視たい」と切望してきたのに、私には霊感というものが絶望的なまでに欠けているのかもしれません。
それでも諦められず、現在は例の団地から引っ越しまして、いわゆる事故物件に住んでいます。同居している父と母は引っ越し当日から、やれ足音がしたの影が見えたの足を引っ張られたのと大騒ぎしていましたが、私には一向に感じられませんでした。
二人が「こんなところからは引っ越そう」と訴えるのを、「とんでもない。誰が家賃や生活費を払ってると思ってるんだ」と突っぱね続けているうち、先に父が、次に母が一週間ほど空けて、それぞれ同じ梁にロープをかけて首を括りました。
葬儀のために一時帰宅した兄によれば、二人の霊はいつも私の側にいて「お前のせいお前のせいお前のせい」と罵っているそうです。私にはまったくわかりません。