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我が小説 〜元ネタ等の解説 オットー・カリウス編〜

 や、どうも。

 例により、私が書いている戦車小説のメイキング特典というかオーディオコメンタリーというか、まあそんな感じの記事になりますよ。



 前回の近況ノートではヴィットマンの紹介だったとなれば、今回はやはりこの人を紹介しなくてはなりますまい。


ドイツ国防軍第502重戦車大隊所属
第二次世界大戦戦車撃破数第2位
戦車150両以上撃破、戦闘機1機撃墜


オットー・カリウス

 前回同様に彼についてよく語られることを紹介しますと、


・名著「ティーガー戦車隊」の執筆者であり、つい最近まで生きていた。
 戦後は、薬剤師として「ティーガー薬局」なるどんな病気も一撃で治してしまいそうな薬屋さんを経営。

・カリウス小隊は、アルベルト・ケルシャーやルドルフ・ツヴェティら個性豊かで優秀な名戦車乗りが集い、彼らの活躍も凄い。

・特にケルシャーと組んで大暴れしたナルヴァの戦いやマリナーファの戦いは有名。
 勝機とあらば単独でも斬り込むヴィットマンと異なり、1両が完全に孤立しての行動は厳に戒めていた。

・著書の他にも海外ドキュメンタリーへの出演、日本の雑誌にインタビュー記事が掲載等、非常に興味深い資料を多く残す。
 ジブリの宮崎駿監督も取材に行ったことがある。

・著書の中ではティーガーに対する愛着をすごく感じる一方、重駆逐戦車ヤークトティーガーに対しての評価はこれでもかとボロクソに書かれている。
 でもまあ、賢い人が理屈だけで作ったバカみたいな欠陥兵器渡されたらこうもなろう……


 
 まあこんな所でしょうか。

 特に宮崎駿監督により、「泥の中の虎」というナルヴァの戦いが漫画化された作品があるので、ジブリのファンの方なら「戦車はよくわからんけどカリウス氏の名前は聞いたことがある」という人もいるのでは?


 とはいえ、カリウス氏もまた、ヴィットマンと同様に英雄的一面ばかりが取り上げられることが多く、残念ながら彼自身が著書の中で面白可笑しく書いてくれた意外な一面は中々紹介されません。
 例によって、動画投稿サイトなどでの紹介も、いつだって完璧超人な英雄扱いです。


 しかし私個人としては、彼の意外な一面こそが魅力と思うので、その辺りをご紹介しましょう。



・小柄で体力がない彼は、入隊試験は2回落とされている。
 やっと歩兵として入隊したら、今度は体力不足で本人も自覚する落ちこぼれ扱いに。

・一次大戦を経験した父親から「戦車兵になるのだけは絶対にやめろ」と言われていた。
 ある日、戦車搭乗員の希望者を募るとのお達しが来た。
 当然カリウス氏は立候補するつもり皆無だったが、「徒歩行進訓練がない」と聞くや速攻で熱望した。
 これには上官たちも苦笑い。

・装填手時代、「敵の戦闘機が来た、みんな伏せろ!」と警告された際、車長の食事の上に思いっきり伏せて車長激怒。

・最終的には戦車小隊長になんとかなれたが、士官学校は成績不良で落第。

・小隊長としての初陣(防御戦闘)で敵の弾幕射撃にパニックになり、まさかの持ち場を捨てて全力後退。
 しかも部下の戦車もいったい何事かと全車両がついてきてしまい、取り残された歩兵が戦車なしで死ぬほど頑張る羽目に。
 戦闘後、当然歩兵にめちゃくちゃ嫌味を言われた。

・味方の歩兵に突入の合図を出すべく、信号拳銃を撃とうとしたらうっかり車内で暴発。
 ねずみ花火みたいなのが車内を派手に走り回り、戦場のど真ん中で大騒動。

・大隊本部での命令受領からの帰り道、軍用車両の渋滞に巻き込まれてしまった。
 漢カリウス氏、早く前線に帰らなきゃと考え、偶然載せてあった大隊幕僚旗を掲げるという暴挙に出る。
 無事に本物の大隊幕僚に見つかった上、咄嗟に言い訳しようとしたため、早く帰るどころか大隊本部まで連行される。

・寒さで苦労する部下のために、近所の農家に藁を分けてもらおうと交渉に行ったカリウス氏。
 農家のおっちゃんからは「ちゃんと手続きしてくれ」とのことで、早速大隊本部に向かうが、大隊本部は既に移動していて不在だった。
 漢カリウス氏、仕方ないので、許可証をこっそり自分で発行して何とかしようとする(※一応戦争犯罪です)。
 速攻でバレてしまい、めちゃくちゃ怒られた。

・射撃訓練真っ最中、カリウス氏のティーガーが撃つ番が来た。
 まさに撃つ直前という時に中隊長らが何か叫んだような気がしたが、時すでに遅しで発砲してしまう。
 結果、アハト・アハトはその威力を発揮して、射撃場にいつの間にか侵入してきた近所の農家の鶏が戦死。
 弁償したけど農家のおばちゃんには死ぬほど怒られた。

・居眠りしていて戦車から落っこちて、危うく自分の戦車に轢かれての名誉の戦死を遂げそうになる。

・疲れのあまり、警戒任務について要領の確認にきたケルシャーに対して寝惚けて返事をしてそのまま居眠り。
 目が覚めてみれば、ケルシャーと彼の乗員がどこにもいない。
 不思議に思い、彼らはどこに行ったのか仲間たちに聞いてみれば、「小隊長に言われた通り、単独行動で警戒任務に行きましたよ」とのこと。
 大慌てですぐに帰ってくるよう無線を飛ばして、ケルシャー達は苦笑い。


 如何でしょうか。
 完全無欠の英雄の姿なんて、どこに居るんでしょう?

 カリウス氏の凄い所は、これらの失態を他者から指摘されるのではなく、自らの著書の中で、彼自身の苦笑が浮かぶかのようにちゃんと隠さず書いていることです。

 誰だって、犯した失敗は隠したくなるでしょう。
 ましてや、自伝を本にするならば、よりかっこいい自分をアピールしたくなるのは当然です。

 しかし彼の本では、「無双の活躍をするかっこいい自分の姿」ではなく、「たくさん失敗する中で、たくさんの頼れる仲間たちに支えられながら生き抜くことができた自分の姿」が描かれています。

 皆様も是非一度、等身大の若き戦車兵の自伝、オットー・カリウス氏の「ティーガー戦車隊」、読まれてみては如何でしょうか?



 
 無敵で最強、完璧で究極の英雄ではなく、たくさんの仲間たちに支えられて、自分ができることを必死に頑張る小隊長。

 私の戦車小説に登場する、クラリッサに並ぶもう一人の主人公である「ヴォルフ・クラナッハ」もまた、そんなカリウス氏にインスピレーションを受けながらできたキャラクターなのは、間違いありません。





「……ということは、ヴォルフ✕クラリッサのカップリングは、事実上のカリウス✕ヴィットマンってコト!?」じゃありませんので、よしなに。

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