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短編小説『オバサンのなんでもない一日』

古紙の持つ独特の香りが好きだ。
流行りの新古書店では嗅げないその香りを求めて図書館に向かう。

健康のために電車やバスといった便利な乗り物は使わない。
徒歩だ。

本当は早足が良いらしいが、アスファルトの隙間から一生懸命に太陽へ向かって伸びている草や、小石を蹴りながら下校している小学生たち、すれ違うさまざまへと視線を向ける楽しさを満喫するためにゆっくりと歩いている。

家の中にいた時は寒かったのだが、明るく照らされている午後三時過ぎの道はぽかぽかしている。

家の中より外の方があたたかいなんて不思議だなぁ、などともうけっこうな年齢なのに生まれて数年の幼児のような感想が漏れる。

さて、もうすぐ図書館だ。
と、そのとき。
鳥のさえずりが聞こえてきた。

一羽だけではない。
けっこうな数の、たぶんスズメだろう彼らはピーチクパーチクとにぎやかだ。
葉の陰に隠れているが一本の木に何十羽と集まっている様子で、私はふふっと笑ってしまった。

きっと「あそこの水場がおすすめだ」とか「あの公園にはパンくずを撒いているおばさんがいて良い餌場だ」とか情報交換をしているのだろうなと勝手に想像してほほえましくなったのだ。

人も鳥も、すべての生けとし生けるものに幸いをと願う。
しばらくその木の下に立ち止まっていたが、一羽が飛び立っていった羽音に「わたしも行きますか」と目的地へとゆるく歩みを進めた。

図書館に着くと、奥の方にあるほとんど誰も手を付けていない初版が二十年以上前の専門書を手に取る。
空席を探して座り、ページをめくる。

うっとりするような古い香りが鼻孔をくすぐり、思わず笑みを浮かべてしまう。
本の内容自体も興味深い。

古い内容でも自分にとっては新しい学びだ。
専門家ではないため、自分が満足できればそれでいい。

知らなかったことを知るのは楽しいなと、今日もここに来れたことに感謝するのだった。


おわり……だけど、以下あとがきです。

あとがき
こんばんは。
雪の香り。です。
現在、宮沢賢治先生の本を読んでいて……なんというかすごく「憧れる」んですよね。
こんな文章が書きたい。
こんな豊かな発想で物語を生み出したい。
という気持ちが盛り上がってきて。
そしてとにかくなにかを書きたいと脳みそをギュッと絞って出した短編がこれです。
私が書けるのはこの程度か。
いや、もっと、もっと頑張ればどうにかなるのではないか。
頑張りたい。
なんて思ってしまって。
自分にあきれます。
馬鹿ですね。
まあもう気が済むまでいっぱい本を読んで、ふわっと何か降りてきたら書く。
何者かになれなくてももういいや、というやけっぱちになってきた今日この頃でした。

本当におわり

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