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『歴めろ。』第七十六話のうんちくコーナー

●灼のうんちく

『菅原家の才媛』である小侍従は通称『待宵(まちよい)の小侍従』と呼ばれてるわ。
『平家物語』巻五・月見より。

『……待宵の小侍従といふ女房もこの御所にて候(さぶら)ひける。この女房を待宵と申しけることは、ある時御所にて、
 「待つ宵、帰る朝、いずれかあはれまされる」
 と、お尋ねありければ、

 待つ宵のふけゆく鐘の声聞けば帰るあしたの鳥は物かは

 と、詠みたりけるによってこそ、待宵(まちよい)とは召されけれ……』

 治承四年<1180>清盛によって『福原遷都』が決まり、公卿が移住し始めるわ。安徳天皇の行幸(みゆき)も控えたある日、左大将・徳大寺実定が福原より、近衛河原の荒れ果てた屋敷に住む姉の大宮・多子を訪ねるわ。
 都は荒れ果て、何もかもが変わった様子を哀しみ、姉弟水入らずで昔話をしていると、突然、多子は実定との関係を知っているのか、隣に控える小侍従に言います。

 「恋人を待つ宵と恋人を送る朝と……どちらが切ないのでしょうね」

小侍従は、

 待ちわびてやっと(実定と)過ごした宵の頃だって、明ける朝の鐘の音を聞けば鳥は帰ってしまいます。鳥もきっと帰りたくないでしょうけど、置いて行かれる私の方がもっと寂しいのです。

 このことで小侍従は『待宵の小侍従』と呼ばれるようになりました……。

かなりの意訳で申し訳ありません。ちなみにこの歌、新古今集・恋三では

 待つ宵のふけゆく鐘の声聞けば飽かぬ別れの鳥は物かは

となっています。鴨長明によると『……小侍従ははなやかに、目驚く所よみ据うることの優れたりしなり。中にも歌の返しをする事、誰にも優れたりとぞ』
 発想は人が驚くほど個性的で機知に富んでいる秀歌が多い、特に返歌が秀逸である……と言ってるわ。どちらが好みかは、皆様次第ですね。。。

 建礼門院右京大夫(けんれいもんいんうきょうのだいぶ)とはマブダチで有名です。父親は世尊寺流・藤原伊行で六代前は藤原行成です。相変わらず『菅原家』と仲良しなんですね。
 『建礼門院右京大夫集』には

 内の御方の女房、宮の御方の女房、車あまたにて、近習の上達部(かんだちめ)、殿上人(てんじょうびと)具して、花見あはれしに、悩むことありて交じらざりしを、花の枝に、紅の薄様(うすよう)に書きて、小侍従とぞ。

 さそはれぬ心の程はつらけれどひとり見るべき花の色かは

風の気ありしによりてなれば、返しに、かく聞こえし、

 風をいとふ花のあたりはいかがとてよそながらこそ思ひやりつれ

 高倉天皇の女房(小侍従含む)と中宮・建礼門院平徳子の女房(右京大夫含む)が懇親会と称して花見に出かけたのだけど、右京大夫がいなかったので花を添えて小侍従が送った歌。

 せっかく貴方に逢えると思ったのに風邪で欠席だなんて。一人で見るのはつまらないから花を贈るわね。

 風邪気味だったのでお返しに、

 風を嫌がる花らしいので、風邪をひいた私が寄るのもどうかと思いました。(あなたに貰った花を見て)遠くから花の美しさを思い浮かべてますよ。

美福門院派閥の参謀として深慮遠謀(しんりょえんぼう)な策を講じる一方、可愛らしいところもあったのです。

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