※過去ボツ話を改修。本編ボリュームアップのため、後日追加予定のエピソードです。
※追記 短編集として新作公開予定(別途近況ノートで説明します)。
※本編は鋭意制作中ですので、更新までもう少しだけお待ちいただければ。
【第2.5話 宅飲みの誘い】
「それにしても。どうして急にマッチングアプリなんて始めたんです?」
「なんてってなんだよ。出会いの場として結構流行ってるだろう」
確かにさっき久遠から指摘されたように嘘の情報も散乱してはいるんだろうが、色々な条件の下出会えるのはメリットだって多いはずだ。
「そういう意味じゃなかったんですけど。ただ、先輩なら普通に素敵な人と出会えると思ったので」
「いや、出会えてないから未だに独り身なんだが」
「それは、今まで会った人の見る目がなかったんですよ」
「なんだよやけに褒めるな。って、お前。昨日奢ったろ? 今日は駄目だからな」
「うそっ。今月はちょっと厳しいんですけど?!」
わざとらしくおどけて見せる久遠に俺も笑って返す。
「なんだよそれ。っつうか、そりゃこう毎日のように飲み歩いてりゃそうもなるだろう」
「だってビールの美味しい季節なんですもん。先輩と飲みたいじゃないですかぁ」
ほろ酔いといった感じの表情がなんとも。
『先輩と』は余計だったと思うが。
「だったら家で飲めばいいだろう。少なくともお前が来るまで俺はそうしてたし」
「嫌ですよ。一人で飲むのは寂しいので。というか先輩と飲みたいので」
ぷくっと頬を膨らませて何を駄々っ子みたいに。子供か。
まあ大学を卒業し立てなのだからまだ子供と言えばそうだが。
にしても、俺ももう29目前だもんな。そんなことを言えてしまうくらいの歳になったってことなんだろう。
それになにも『先輩と』って、わざわざ言い直す必要はなかったろうに。
「そうだっ」
「な、なんだよ急に。驚くだろ」
カウンター席、右隣に座る久遠が急に身を乗り出してくる。
碌なことを言わない。そんな予感が漂っているのは気のせいだろうか。
「一つ提案なんですけど。こう毎日一緒に飲んでるわけですし、今後週末は先輩のおうちで飲む。というのはどうでしょうか?」
「なに真面目な表情して言ってんだ。無理に決まってんだろ。というか、なんでうちに」
「だったら私のおうちでもいいですけど?」
そう言うと意味深且つやけに色っぽい眼を向けてくる。
その表情は綺麗と可愛いがどちらも高水準で入り混ざるような、どうしたって魅力的なことだけは否定できないが、かと言って流される訳にはいかない。
「同じことだろう。つうか、どういうつもりで言ってんだよ」
「どういうって。単に安く済ませるためですけど」
「あぁ、そういう——」
——ことな……。
「あれ、もしかして先輩——」
「な、なんだよ」
「いえ。別になんでも」
そう言ってグラスを口に運んだ久遠に続き俺もクイっと一飲み煽る。
一瞬、騙されそうになった自分に後悔の念を抱きつつ、涼し気に何かを感付いたような後輩の表情が恨めしい。
そんな中、
こいつと宅飲みしてる未来もそう遠くなさそうだなと、
俺は内心でひとり溜息を吐いていた。