昨日10/23に第5章33話を下書きに戻したのですが、その後に@horry24さまからのコメント付きレビューに気付きました。
一旦第4章EPで完結設定とした本作ですが、第5章を楽しみにしてくださっていた方に向け、一度公開済みの話にはなりますが該当話をここにログします。
ノート内のためルビが振れなくて。見にくかったらすみません。
(続きは鋭意製作中です)
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第5章
第33話 「始まる秋もいつもの二人で?」
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「最近はめっきり寒くなってきましたね」
多くの人が行きかう週末、夜の梅田。
閉店して間もない大型家電量販店の脇をふたりほろ酔いでゆっくりと阪急方面へ向かいながら。気持ち良さそうに空を見上げる久遠に俺も「そうだな」と相槌を打つ。
ついこの間までクールビズだなんだと言ってたのに、もう今や二人してカチっとしたジャケットスタイルだ。
それもそのはず、気づけば10月も中旬から下旬に差し掛かろうという頃合い。さすがにまだ白い息こそ見えはしないものの、最近特に朝晩は冷え込む日が多くなってきた。
「まあでも明日はまだ暖かいみたいだし。そんな厚着してこなくても大丈夫だと思うけどな」
「そうみたいですね。ちなみに先輩は明日どんな服で来ます?」
「服? んー。一応ジャケットは持っていくとして、つっても夏に毛が生えたくらいの感じじゃないか。そう言うお前はなにか考えてんのかよ」
「もちろん。なにより記念すべき先輩から初めてのお誘いですし、しかも初の車デートですから」
まるで期待しててくれと言わんばかりだが、こいつがこういう表情をする時に少々の不安がよぎってしまうのはきっと積み重ねの成せる業だ。
「初めてってことはないだろう。今までだって何度か」
「いーえ。私、先輩との初めては全部記録に残してますから。間違いありません」
「何自慢気に言ってんだ。そんなの記録に残してんじゃねえよ」
どや顔を見せる後輩にツッコミを入れつつ、まさかあの夜の独白は記録に残ってないだろうなと内心で冷や汗をかく。
正直なとこ、あの日口にしたことでより自覚したというか。たまに表に出てやしないかと自分でも不安になる時がある。
とはいえ、こういった誰に見られてるとも分からない場所では俺たちの距離感も職場でのそれで。どんどん平日と休日が乖離してってる気がするのは多分気の所為じゃないんだろう。
「でも、ほんとに(迎えに)来てもらってもいいんですか? 場所的には私が先輩のお家まで行ったほうが段取りがいいと思うんですけど」
「仕事じゃないんだ、段取りは別にどうでもいいだろう。それに俺自身自分の車に乗るのが久しぶりだし、試運転が必要っつうか。まあ、だから気にするな」
「そこまで言ってくれるならお言葉に甘えますけど」
「それよりほんとにそこでいいのか? もし俺に気を遣ってくれてるなら、別に神戸とか、なんなら奈良とかでもさ」
「いえ、それだと電車やバスで行けちゃいますもん。それにお酒も飲めないわけですし、逆にそういったところがいいかなぁって」
「まあたしかに。言われてみればそうかもな」
ちなみに明日向かうのは府内南に位置する千早赤坂という大阪で唯一の村だ。
久遠曰く神奈川の清川村や久遠のとこの長生村みたく、のどかな場所らしい。
などと話していると阪急の改札が見えてくる。
「じゃあ、また明日な。また出る前に連絡する」
「はいっ。楽しみにしてますね」
嬉しそうな表情でひらひらと手を振りながら改札をくぐる久遠。予想通り少し歩いてから一度振り向いた彼女に俺も手を挙げて応えた。
翌日。天気予報通り青空に鱗雲が混ざり合うまさに秋晴れの下、俺は大阪の大動脈とも言われる阪神高速の上でハンドルを握っていた。
4年前に買ったはいいもののここ最近とくと出番のなかった白のコンパクトカーから流れる音源はFM。関西ノリのパーソナリティが非日常感を加速させてくれる。
阪神高速松原線から環状線へ合流しハルカスやなんばHatchなどのランドマークを横目に梅田インターで降りるまでは15分弱。
まさか2カ月前にはこんな風に車であいつを迎えに行くなんて思いもしなかったが人生何が起こるか分からないものだ。そんな中、そういえば通天閣には一緒に行ってなかったな、なんて考えてんだから俺ももう大概だ。
その後、仕事終わりの街並みとはまるで異なった顔を見せる梅田で降り、先日タクシーの中から眺めた淀川を橋で渡り路地に入るとほどなくして久遠のマンションが見えてくる。
想像に易しというか、エントランス前に立つ女性の姿を見つけ、彼女のほうもある程度近づくと俺に気づいたようだ。嬉しそうに手を振ってくる。
と、遠目には気づかなかったが……。いつもと異なるその装いに目を瞬《しばたた》かせながらマンションの前でハザードランプを焚くと俺は車から降りた。
「おはよう、って時間でもないけど。っつうかお前それ……」
薄手のカーディガンを片手にかけ、ぴたりと肌に張り付いた白のニットシャツに身を包む久遠。自然と強調されるふくよかな胸元やくびれもそうだが、なにより目を疑ったのは下だ。
そう、久遠が履いていたのはいつものロングスカートじゃなくて。やたら丈の短い、俗に言うミニスカートだった。
「この服に合うかなぁと思って髪も結んでみたんですけど。ちょっと子供っぽ過ぎましたかね」
ゆるふわっとさせたポニーテールの根元をきゅっと片手で絞りながら可愛らしくポージングを取る久遠。その髪はもちろん、上と同色で合わせた白のショートブーツも似合ってはいるが、それよりどうしてもその白く透き通るような太ももに目がいってしまう。
「びっくりしました、よね?」
ちろっと伺うような目を向けてくる彼女に頷いて返す。
「びっくりしたよ。とういかお前。それって、あの時試着してたやつじゃ」
つまり天王寺のファッションビルで試着したデニムのミニスカートで。あの時、目のやり場に困るからって買わなかったはずだ。
「買ってたのか?」
俺がそう言うと久遠ははにかみながら後れ毛を指で弄ぶ。
「ほら、先輩にはもう水着も見てもらってますし。それに今日は車で誰にも見られないしいいかなって」
「いや、俺が見るだろ」
「何言ってるんですか。先輩に見て欲しくて履いてるんですけど」
「あぁ……」
そりゃそう、なのか? 気まずくなった俺はジト目から逃れるように視線を外す。
たしかに水着姿は見てる。けど逆に見てるからこそ想像を掻き立てるとこもあると思う。
「これ以上寒くなるとさすがに素足は厳しいですし。じゃあもう今日しかないかなって。どうですか? 感想、少しくらいもらえると嬉しいんですけど」
珍しく恥じらうその仕草が無性に可愛くて、どこかが分からないがやけにむず痒い。っつうかもう風邪も治ってるんだ。いつもみたく茶化してくれないとこっちが拗らせそうなんだが……。
とはいえ俺のためにと言われ放っておくわけにもいかないんだろう。
「なんつうか、目のやり場には困るけど、似合ってるよ。それとその、なんだ。……ありがとう」
まるで正しいのかどうかは分からなかったが、ふいに礼を言ってしまった俺にどういたしましてと久遠が嬉しそうにニコッと微笑み返してくる。
ほんとは素直に可愛いなんて言えたらいいんだろう。けど、それを今言っちまったら多分この後普通に話せなくなりそうで。
つまり、これ以上はやめとこう。
多分それがお互いのためだ。