2XXX年の新たな年(瓦住)





 例年であれば新年を祝って、都市では盛り上がり人が行き交い建物には祝福の文字が浮かび上がっていただろう。小さな町であっても人々は浮かれ、家族や友達と楽しい日々を過ごしていたし、町自体も楽しげな雰囲気に包まれていた。主にカウントダウン前後に。
 そんなものとは無縁となってしまったこの国は、新たな年を迎えた。新年となったところで、何か変わるわけでもない。また一日過ぎた。また一日生きられたというだけだ。或いは、過去に想いを馳せて虚しくなってFワードでも吐き捨てるか、神に祈りでもするか。

 瓦礫ばかりの町で、そんな一角に住まうゼロ達もまた、何でもない一日として今日を生きようとしていた。食料の残りを確認して、いつまで食べられるかも確かめる。そうして今日の分の食事を始めた。食欲を少しでも満たすために多めに咀嚼を繰り返す。
 生きるための行いをしていた二人の元に、突如として訪問者はやってくる。訪問者は扉を開けて、ソファに座るゼロに勢いよくハグを決めた。相手を受け止めたゼロは分かっていたように驚く事なく、ただ訪問者を見る。


「今日は随分と元気だな、カミカゼ」
「二人は元気ないわね。せっかくの新年なのに」


 カミカゼという名を与えられたシンシアは、現況など知らないかのように新年に浸っている。向かい側のライにもハグをかますと、ライがじとりとシンシアを睨んだ。酒か薬でも入っているんじゃないか、とばかりに。
 そんな事は歯牙にもかけず、シンシアはライから離れる。そして、例の収納道具を取り出してテーブルの上に投げた。そうして現れたのは食料だ。数は多くはない。三人で食べればちょうど良い――もしくは少し足りないくらいの量だ。ドリンクと、チョコレートバー、常温のピザがそこにはある。それを見たライは笑った。


「シケてやがる。が、贅沢だ」
「たまには良いでしょ? ささやかなお祝いよ」
「ぬるいピザだが、ピザなんていつぶりだ?」


 くつくつと笑って、ライはピザを手で引きちぎる。上手く分けきれず中途半端に裂けたが、構わずに一ピースをとった。残されたピザをゼロがとって、丁寧に裂いていく。二切れ作って、一ピースを手にした。ゼロの隣に座り、作られたもう一ピースをシンシアが持つと、三人はぬるいピザで乾杯する。


「新年おめでとう」と誰かが言った。


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