夜中、私は家にいた。大学の講義も取り尽くして、卒論だけ書けば卒業できた。私はパソコンの前で手を動かしながら、時折手を止めてボールペンを手の上で回したり、文献を開いてメモを取った。
父が帰ってきた。私はどうでもいいので無視していたが、父は話を振ってきた。
「大学にはもう行かなくていいのか」
「あと卒論だけだから」
私は顔も合わせず、言葉だけ発した。
父は私の方ずっと目を向けていた。
なんだろうかと思っていたが無視してパソコンに向かった。
そのあと父は少しの間沈黙して一も二もなく
「〇〇が死んだよ」と震え気味に言った。
〇〇とは伯母の娘である。
私は少し驚いたように見せたが内心はまたかと思っていた。一瞬冗談かとも思ったが、すぐに本当のことだと認識した。
祖母が死んだあと、私は伯母の家に居候していたことがあった。〇〇は警官だったが、職場の上司に婚約を求められたが、無碍に断って怒らせ、署の一室で強姦されそうになったり、婚約を認めなければ殺すなどと脅されたことがあった。
そのことで退職し、一時期は無職であった。
けれども去年の暮れに役所の勤めを得て、また仕事を始めていた。
私は父に目をやって
「もう疲れたよ」と言ってまたパソコンに向かった。
「お前は間違って生まれてきたんだ」
二年ほど前父は私にそう言った。何の意図があったかはわからないが、私はそれ以来生きる方がバカらしくなっていた。
それを言われたから兄のことを考えてみて、父のその発言を考えると薄ら笑いが込み上げた。
身勝手な親だ。
私にはそういう風にしか考えられなかった。
家族、そんなものは本当に単なる物質的な存在でしかなかった。
だから今度のことも私にはどうでもいいことだった。従姉が死んでどうしたというのか。
そのうち俺も死んでやろうかとも思っていた。