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『VRMMOで神を名乗る闇精霊』クリスマス小話

『VRMMOで神を名乗る闇精霊』クリスマス小話

 本日はクリスマスでした。
 本来でしたら、他の日と変わらぬはずの日。けれど、浮かれた人々そのものが一種のイルミネーションとなり、否が応でも「今日は特別なのだ」と主張してきます。

 買い物へ向かえば、普通の食卓を許さぬ過激アンチの如く、いつもよりも豪華で楽しそうな食品たちが待ち受けております。店員さんなどもクリスマスの装いをさせられており、たくさんのサンタさんがレジにて待機しておりました。

 じつのところ、私はクリスマスという行事に何も思いません。

 世論によれば恋人の有無で楽しさが変わるだとか、家族と過ごすよだとか、色々と言いますけれど、私にはそれらすべてがございませんからね。
 ほしいとも思いません。
 負け惜しみではありませんよ……? 本当ですよ……?

 陽村からのお誘いもお断りしました。
 ルックス中学生の陽村とクリスマスに出かけると、私がロリコン扱いされてしまいますからね。

 世間の目なんてどうでもよろしい。
 ですが、世間の目でダメージを負う程度には私にも理性と常識がございます。

 私にとってのクリスマスというのは、特別な雰囲気のする普通の日でした。
 ただイルミネーションは嫌いではありませんし、クリスマスになったらチキンとケーキを買ってしまうくらいのミーハー精神も残滓しておりますけれど。

 私はクリスマスを一人で堪能することにしました。

       ▽
 一人で堪能しようと思いましたが、思った以上に暇でした。
 テレビではクリスマス特番をやっております。明るく賑やかな雰囲気は見ていても愉快ですが、どうしても集中できない要因がありました。

『かみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさま』
『チキンを送ってくださりありがとうございます。です!』
『神様もチキンを食べました。ですか?』
『かみさま……』

 凄まじい勢いでアトリからの連絡がやって来るのです。
 クリスマスを幼女と過ごすのは、なんだかロリコンみたいで嫌なのでログアウトしているつもりでした。

 ですけれど、考えようについては意識しすぎていて気持ち悪いかもです。

 クリスマスでひとりぼっちというのを苦には思いません。ですが、全員がそうだという意志の押し付けはしません。
 リアルを捨てた悲しきプレイヤーたちも、本日がクリスマスだとは理解しています。

 アトリも薄々気づいているのかもしれませんね。
 それっぽいこともしているようですし……まあログインしてみましょうか。

 私はログインしました。

       ▽
「神が降臨した。です……!」
「降臨しました」

 理想のアトリエ内、アトリの寝室にしているお部屋にての邂逅でした。ベッドの中に私の精霊体が連れ込まれて、ぬいぐるみのように抱かれています。
 アトリと毛布に包まれている状態でした。
 驚いたアトリが目を見開いている間だに、私は【ダーク・リージョン】を使って脱出しました。

 ふよふよ、と宙を漂います。
 ベッドから飛び起き、浮かぶ私をぐるぐる目で見上げる幼女が呆然と呟きます。なんだかUFOを見つけた人みたいですね。

「奇跡だ……」
「何がです?」
「今日は神様、居ないって言ってた……です……でも、神様がいる! ですっ!」
「……サプライズですよ」
「サプライズ! です! ボクサプライズすき。です」

 とくにクリスマスプレゼントとか用意していなかったので、このサプライズでどうにか凌げませんかね……駄目な大人ですみません。
 手を振り上げて歓喜アピールをするアトリ(表情は動きませんが)。
 喜ぶ幼女を前に、いたたまれない大人は言いました。

「今日はクリスマスですからね、アトリ。はしゃいでも良いですよ」
「クリスマス。みんな言ってた。です。何です。か?」
「ええっと……チキンを食べてケーキを食べてプレゼントをもらう日です」
「! チキン! 食べた。です。クリスマス。でした」

 クリスマスって宗教イベントですからね。
 邪神を名乗っている私的には、あまり深く追及されたくないイベントかもです。誤魔化すように課金していきます。

 大人はたくさん嘘を吐きます。
 けれど、それをお金で誤魔化すものです。

 大量のチキンを生みだし、ケーキもたくさん呼び出しました。ブッシュドノエルのようなタイプさえも準備しましたよ。
 手早くお部屋を闇の手を使って飾り付けていきます。
 施設では毎年ございました樹も買いました。散財です。アトリがぐるぐるした目を輝かせ始めます。

 珍しく幼女ムーブです。

 すべての準備を終えてから、私はクローゼットの中からアトリの靴下を取り出しました。靴下フェチのかたへ向け説明しますと、犬の刺繍された靴下です。
 素材は厚手。毛糸製。

 それを樹に吊します。
 こてん、とアトリが首を傾げました。

「靴下を吊した。です?」
「ここに貴女のほしいもの……写真を除いたものが入るそうですよ」
「不思議。です」
「不思議ですねえ」

 アトリのほしいものが解りませんけれど。
 まあ、てきとーにお菓子でも入れておきましょう。喜ぶことでしょう。洗濯済みとはいえ、靴下の中にお菓子入れられるの嫌すぎますね。いくら封がしてあっても。

 アトリがチキンを初めとしたクリスマスっぽい食品を平らげていきます。祝ったことがあまりないのでクリスマスっぽい食べ物が解りませんね。
 施設での記憶を頼りに頑張ってみました。
 まあ、アトリが幸せそうなので良かったでしょう。

 食事が終わってから、思い出したようにキャンドルに火を灯します。
 暗くした室内、ぼんやりと炎が穏やかに踊っています。ぼんやりと私たちは並んでその炎を鑑賞しておりました。

 その後、ザ・ワールドがワールドアナウンスで『今日はクリスマス! とくに何もない日に意味を与える人類種の叡智だねっ! ザ・ワールドもはしゃいじゃおう! みんなにプレゼント! あげちゃうね! すごおい!』

 と雪を降らせてくれました。
 プレイヤーたちはこぞって掲示板に「雪なんかよりアイテムとか寄越せ」とぶち切れるのでした。

 メリークリスマスです。

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