即興小説トレーニングというサイトがありまして、まぁ簡単に言えば制限時間内にお題の小説を書くという名前通りの即興で小説を書くトレーニングのサイトなのですが、昔中々にお世話になり、そのサイトが昨日閉鎖するというので、じゃあ死に際には立ち会えなかったけど、せめて線香ぐらいは上げてやるか……と思って、今日行ったら普通に残ってました。12/15で終了って思いっきり書いてあるやん。
そういうわけで、即興小説トレーニングさんに捧げる鎮魂曲です。
新規小説にするほどのもんでもないので、こっちに上げます。
お題:ひねくれた靴 必須要素:チューペット 制限時間:15分 文字数:920字
ひねくれた靴の話
ひねくれ者というのは人間だけの話かと思っていたが、どうにも靴にもそういうひねくれ者というか、ひねくれた靴というものがあるらしい。
まぁ、なんていうか……その靴を履いているとどこまでも思う通りに進まない。
前に進もうとすれば後ろに進むし、右に進もうと思えば左に、左に進もうと思えば直進、そして天気が晴れの時はボロボロの靴に雨が染み込んできたみたいにぐっしょりと俺の足を濡らして、雨の時はしっかりと防水加工を行った最高級の革靴みたいに、心地よい雨天散歩を提供してくれる……と思えば、それを知ってか、雨の時は濡れて、晴れの時は濡れないなんてひねくれすぎて一周回って普通の靴になったりもする。
昔から付喪神なんて言うものがあるのだから、妖怪の一種なのかねと思って話しかけてみても、うんともすんとも返事はない。まぁ、いくらひねくれた靴だからって靴は靴なんだから、返事が返ってこないのは当たり前なんですけどね。
まぁ、そんな靴捨ててしまえばいいと思うんですけど……そりゃ仕事で履くには困るけれど、散歩で履く分には好き勝手してもらうと案外楽しい散歩になったりするので、仕事以外で外にいる時は常に履いている状態でしたね。
そんなひねくれた靴を履いてスーパーで買い物をした帰り、私が横断歩道を渡ろうとしたときです。
急に信号無視の車が走ってきて、私の方に迫ってきました。
その時、なんだか妙に時間がゆっくりと流れて、ああ死ぬんだななんて思う余裕もありました。
思い出が走馬灯のように……なんてことはよく言いますけど、私はただ自分の方に走ってくる車をゆっくりと眺めていました。
その時、急に靴が脱げて、ひねくれた靴が靴だけで私のお尻を蹴っ飛ばしました。
そして私は無事で……靴だけが轢かれてしまいました。
交通事故で靴だけが犠牲になって、歩行者は無事なんて最後まであの靴はひねくれていたのでしょうか……それとも、私は持ち主として彼に気に入られたのでしょうか。
どうにも答えは出ないまま、私はエコバックからチューペットを取り出すと、半分に割って両方とも彼に供えました。
右靴と左靴で仲良く分けてくれると良いのですが。