久しぶりに、関東地方でも積もるくらいの雪が降りました。街全体が雪に覆われ、夕方、辺りが青く光るように暮れてゆく様子は、めったにないことなので見とれます。
でも、大人になると、通勤の交通機関が狂ったり、マンションの前を雪かきしたりと、嬉しいことばかりじゃないですよね。子供の頃は、ただただ嬉しかったのに。
そう言えば、子供の頃のある冬、大雪が降ったことがありました。
その朝は、曇っているのに眩しくて目を細めるくらい、街中真っ白でした。ところで、私たちの登校班の集合場所は、土手を上がったマンションの前でした。いつもだったら、ひょいひょい上がれる土手も、その朝は、分厚く雪をかぶって、様子が異なりました。
私の隣で仁王立ちしていた姉は、土手を見上げながら、私に言いました。
「上手に登らないと滑って危ないから、まずはお姉ちゃんが見本を見せながら登る。あんたはお姉ちゃんが登ったように、登ってきなさい」
私は小学校一年、姉は五年生でした。
「うん、わかった」
私の返事を聞くと、姉は土手を登り始めました。ところが、ほんの二三歩登ったところで、「わぁぁ」とか言いながら滑り落ちてきたのです。
「思った以上に滑りやすいから、本当に気を付けな」
私を振り返ると、そう言いました。
そして再び登り出したのですが、土手の中腹まで来ると、今度は四つん這いの格好で滑り落ちてきました。
一方、下で見ていた私は、土手の中腹にある出っ張りが安全そうに見えたので、ひょいひょいっと、そこまで無事に登れました。
「あれ? あんた、いつの間にそこに」
雪だらけの姉が、私のところまで来ようとして、再び転がり落ちていきました。
「お姉ちゃん、大丈夫」
「大丈夫だけど、大丈夫なんだけど」
雪だらけでもがく姉の元まで、ひょいひょいと降りると、私は、「大丈夫だって、お姉ちゃん、自分で持てるから」とごねる姉の手から、手提げを一つ取り上げると、あっという間に土手の上まで登りました。
姉は、ランドセルを背負った上に、両手に手提げを持っていたのです。片手が空いた姉は、結局、私の後ろについて、土手の上まで何とか上がりました。
姉の手提げの一つには、習字の授業で使う古新聞がどっさり入っており(忘れてしまった人に分けるため)、もう一つの手提げには、なぜか百科事典が二冊も入っていました(クラスのある男子と、知恵比べをしていたそうです)。どちらもすごく重かったのです。
雪だらけになり、ふうふう言っていた姉ですが、登校班に着くと急に副班長の顔になり、
「雪に足を取られないように、気をつけて歩いてね」
なんて、皆に注意をしていました。
今でも時々思い出す、懐かしい思い出です。