• 恋愛
  • 現代ファンタジー

物語は生きている

 連投による通知ラッシュ、届いている方いたらすみません…。

 『I(アイ)の殺し屋』という長編を書いていた時のこと。物語の結末は、なんとなーく考えていた。
 作品の主要人物は、殺し屋であるレイと、その弟子Q。レイに父を殺されたQは、その復讐のために弟子としてレイに近づき、その命を狙っている。

 執筆開始当初、わりと王道…というか、すっきりした終わり方を予想していた。
 夜の街。橋の上で、レイに銃を向けるQ。しかし、殺し屋としての腕の差は歴然で、返り討ちに遭う。
 共に負傷し、Qの方は重体。橋の下でうずくまり、死を待つばかり。
 Qが気を失った頃、引き返してきたレイがQを病院まで担ぎ込み、行方知れずとなる。これが最初に想定していた結末だ。
 
 『Iの殺し屋』は、Qの復讐の物語だ。レイとQは、決着をつけなければならない。でも、どちらかを殺すことはしたくなかった。それで、前述のようなエンディングに行きついたのである。

 しかし、物語を書き進めていくうちに、そのラストはこの物語に似つかわしくないな、と思い始めた。

 小説自体は、折り返しを迎えたところでネタ切れになった。40000~50000字ほどを残して、当初書こうと思っていたことは書ききってしまったのだ。とても困った。締切りまで、あと1週間。愛憎劇を書くことから離れて、新しいキャラクターで攻めることにした。そうして生まれたのが、殺し屋「瀬名一族」である。うーん、これも「零崎一賊」じゃないか。

 一族の一人、シエロ・瀬名は、Qに問いかける。「あなたは何のために生きているの?」。Qは「復讐」と答える。シエロは続けて「復讐が終わったらどうするの?」。Qは何も言い返せない。
  
 物語を書き続けているうちに、おぼろげに浮かんできたテーマは、束縛から解放されることだった。Qは、復讐を放棄することを選んだ。父の敵に自分の人生を縛られているなんて、馬鹿馬鹿しい。だから、復讐心そのものを殺してしまう。それが彼女の、そしてこの物語の結論となった。自分で言うのもアレだけど、悪くないラストだと思う。

 物語は、書いている本人すらも自覚していない可能性を秘めている。読む人の解釈によって、新たな物語がまた生まれることもある。
 
 僕が書いた短篇に、あるコメントがついた。作品について感想を寄せてくれていて、その内容は僕が意図した作品のテーマからはずれていたけれど、それを間違ってるとか、不快だとかは全く思わなかった。
 僕は一応、テーマや思いを込めて小説を書いているけれど、そうして形を成した作品はどれもひとつの独立した「世界」で、その見方や解釈は、作品に触れる人の数だけ存在するということ。
 そうやって誰かが言っているのを聞いたことはあったけれど、自分の実感として理解できたのは、この時が初めてだった。

 物語は生きている。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する