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習作

 前回のノートは役目を果たしたと判断して引かせて頂きました。いいねを押して下さった皆様、ありがとうございます。そして申し訳ありませんでした。引き続き何かございましたら対応しますので、お知らせ頂ければ幸いです。

 他に特に書くことはないのですが、せっかくなので、構想段階の作品の冒頭でも載せておきます。前に書いた「私が彼女を推したワケ」という短編から派生した物語で、一人称の習作として書いたものです。今は廃棄ダンジョンの方に集中しているので、ほとんど進捗はありませんが、どこかで、こういうファンタジー以外も書いてみたいですね。

アイドルの時間(仮題)
第一話 橘ユウリ
――――――――――

 アイドルなんかやめとけばよかった。

 元々上手くいくはずなかったんだよね。
 キラキラしていて、可愛くて、私もあんな風になれたら、もう少し自分に自信が持てるかもって思って始めてみたけど……まぁそんなに上手くいく訳ないよね。

 そもそも今の事務所に入れたのだって奇跡みたいなもんだしさ。

 ***
 
 中学二年の夏、私は不登校になった。別にいじめがあったとか、家庭環境が悪かったとか、特別な理由があった訳じゃない。
 今思い出しても、なんとなくとしか言いようがない。なんとなく行けなくなって、そのまま引きこもり。
 もう卒業って時期になって、これじゃさすがにヤバいよねって思って、そんな時に見たのが、雑誌の裏に載っていたアイドル募集の広告。
「さぁ貴女も今日からアイドル」なんて安っぽい文句と共に、キレイなお姉さんの写真が載っていて、その笑顔が本当に楽しそうで、こんな風に笑えたら私も変われるかなって思ったんだよね。

 後で知ったんだけど、そのキレイなお姉さんは、うちの事務所のトップに君臨するメビウスってグループの不動のセンター、式見ゼロ、通称ゼロ様。

 で、何も知らないバカな私は、ゼロ様の笑顔にまんまと引っかかってオーディションに参加したの。
 もうね、ほんと恥ずかしかった。集団面接って言うの? 5人くらいまとめて、スタジオに入れられて、面接官にいろいろ聞かれるの。まわりはみんなすっごく可愛くて、どうしてアイドルになりたいのか、どんなアイドルに憧れているのか、これまでどんな努力をしてきたのかを熱く語っててさ。
 しかも面接官の1人はゼロ様だったもんだから、みんなすっごい興奮してるの。私の順番は最後だったから、もうずっと下を見て膝ガクガク震わせながら、早く帰りたいって。当然、受け答えもボロボロ。

「どうして今回のオーディションを受けようと思いましたか?」
「……ざ、雑誌を見て、な、なんとなく……です」
「こんなアイドルになってみたいという理想はありますか?」
「……わ、わかりません」
「……はい、ありがとうございました」

 居た堪れなかったなぁ。みんな、何個も質問されて、歌やダンスを披露している子だっているのに、私は質問2つだけ。そりゃそうだよね。

「……オパビニアみたい」

 あまりに情けなくて、思わず小さく呟いちゃったんだよね。面接官は一瞬、怪訝な顔をしていたけど、幸い無視してくれた。ゼロ様に至ってはスマホを弄っていたし。

「お疲れ様でした。合格者の方には後日、ご連絡をさせて頂きます。それでは退出してく」
「きゃっ!?」

 もう終わり、そう思ってたんだけど、ゼロ様の可愛らしい悲鳴で流れが変わった。

「なにこれ!? これがオパビニアなの? えっ、すごっ! なんなのコレ?」

 どうやらスマホでオパビニアを検索していたみたい。とってもいい笑顔でこちらを見つめてくるの。もう帰りたかったんだけど、答えないわけにいかないよね。なんか周りの目線も怖かったし。

「……古代生物……カンブリア期の生き物……です」
「へえ! すごいね!? ねえねえ、じゃあ何でさっきオパビニアみたいって言ったの? 確かに見ようによっては可愛いらしいけど、あなたの方がよっぽど可愛いわよ?」

 はっ?って思ったよね。
 貴女に可愛いなんて言われたら、さすがに腹立つもん。そんなにキラキラして、この時だって、空気読めないことしているクセに、みんなが貴女のことをデレデレと見つめてたし。だからヤケになって言ってしまったの。

「今でこそオパビニアはアノマロカリスなどのラディオドンタ類の仲間と言われていますが、昔はどの種にも分類できない奇妙奇天烈な生き物の代表格でした。奇妙な姿と、空気を読めずに研究者達を困らせたその在り方が、今の私のようだと思い呟いてしまいました。申し訳ありません」

 なに喋ってるんだろうね。まじでキモかったと思うわ。だけど、ちょっとスッキリした。だから、私は相変わらずニコニコしているゼロ様の顔を正面から見つめ返して、そのまま席を立ってやったの。

「答えてくれてありがとう。あなたに今日会えなかったら、きっと私はオパビニアのことを知らずに生きていたわ。とても素敵な出会い。オパビニアを見つけた研究者もこんな気持ちだったのかしらね。じゃあ、またね、橘ユウリさん」

 なにそれ。
 でももう限界、これ以上喋るのはムリ。よく頑張ったよあの時の私。
 だから、私は背中越しにかけられたその言葉に、少しだけ頭を下げて部屋を出た。
 
 合格の電話が来たのはその日の夜。
 いや、なんでよ!?

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