ギフトをいただきましたので、記念に書いてみました。
「婚約破棄現場〜」を読んでギフトをいただいたと限らないのですが、カクヨムのページで今のところ、「代表作」と自動表記されていますので、「婚約破棄現場〜」10話のサイドストーリーをかなり短くて申し訳ありませんが、書いてみましたので読んでいただけると幸いです。
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サリアンは鬱蒼とした森林地帯の中で、足元に注意しながら、10名の新兵と共に進軍している。
人の手が入っていない森林地帯に特有の昼間でも薄暗く、暑い季節のため気温や湿度が高い状況であり、サリアンや兵士達も集中力を保つのが難しい状態である。
風が吹いたり、獣が通る度に、周囲で音が鳴るので、敵が出てきたと思い、新兵達は全員がそちらを振り向くのだ。
サリアンは心の中でため息をつき、周囲に聞き取られないように新兵達にだけ聞こえる声量で、
「馬鹿者、音がしただけで、全員が音をした方向を見るな。こうした森の進軍時に注意する事は何処から敵がくるか分からないことだ。音がしたからと言って、全員がそちらに注目してしまうと、後ろに隠れた敵に攻撃されるぞ。後、自分達が出す音や匂いで敵に悟られないことにも注意しろ。」
そう、サリアンが新兵達に注意した直後、矢が飛んできて、サリアン達に襲いかかる。
矢は訓練用に先は尖っておらず、柔らかい布に包まれているので、新兵達の鎧を貫くことはないが、手や足の部分に当たるとそれなりに痛い。
サリアンにも数本の矢が襲いかかるが、素早く小剣を抜き、サリアンに襲いかかる矢を全部叩き落とす。
これはサリアンに与えられたスキル、『視力』によるものだ。
これは目が良くなる以外にも動体視力も上がるので、鍛えると相手の動きが一瞬だけゆっくりに視えるようになるのだ。
サリアンはこの視力スキルを使い、全軍を把握することが得意なのだが、この見通しの悪い森林地帯では、視力スキルの能力は半減しているようなものだ。
再び矢が反対方向から飛んでくる。時間差で攻撃することにより、注意を一方に向かすことができ、後の攻撃に対応する事ができないのだ。
その証拠に新兵達は鎧に覆われていない部分に矢が当たり、あまりね痛さに呻いている。
そこに別の方向から敵が無言で飛び出してくる。
新兵たちは刃引きした剣で散々に打ちのめされ、サリアンも2人の敵に囲まれて、剣で打ち合うも、別方向から新たに敵が押し寄せ、サリアン自身も剣で打ちのめされてしまった。
「サリアン様、まだまだですな。」
騎士団長が倒れたサリアンを見下ろしてダメ出しをする。
「兵達は咄嗟の状況になれば、如何に訓練しようとも、自分の身を守ることに専念してしまうでしょう。それは人なのでしょうがない所もあります。
将たるものとして、どんな時でも指示を出さねばなりません。そのための指揮権です。貴方の命令で軍が動くのです。貴方が指揮を取らねば軍は死んでしまうのです。窮地に至れば、退却するなり、防御するなり、命令を出して下さい。無言で自分や味方の身を守るのは兵士の仕事です。」
騎士団長に諭されて、サリアンは悔しそうに俯く。
その様子を見て、騎士団長は微笑む。
「良いですぞ。サリアン様、悔しがれるのは生きているからです。死んでしまえば、悔しさもその後の成長もありませんからな。」
サリアンは悔しそうに、騎士団長を睨み。
「騎士団長、僕を鍛えてくれ。誰にも負けないように!」
騎士団長はニヤリと笑い、
「良いですぞ。その意気です。」
そう言って、サリアンに向けて手を出す。
サリアンはその手を握り、身体を起こす。
「次は僕が騎士団長を起こしてやるからな。」
騎士団長は声をあげて笑った。
「ハッハッハ、頼もしい限りですな。だが、まだまだひよっこのサリアン様に負ける私ではありませんよ。」
訓練期間中、サリアンを含めて新兵達は何度も倒されたが、その士気は落ちなかったという。