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名作を脳に刻んでゆく

私は記憶力がいい。
とは言え、年端も行かない幼年の頃までは自信はないが。
とにかく、その時のシチュエーションに始まり、誰がどう言ったとか、どうしたかとか、何を着ていたかとか、話す相手が驚くことはしばしばである。
私がaudibleで聴く読書を利用するのには、そういう私の特殊能力にも近い記憶力の良さにも理由はある。
前にも書いたが、私の読書量は多くない。若い頃の読書と言えば、読んだという既成事実を私自身が満足したかったり、他人にそれをひけらかしたかったりという、およそ作者に対する冒涜とも取れるような、読み方をしていた。
またトレンド入りした書物には、いっちょかみして、浅知恵を振りまいたりもした。「マーフィーの法則」なぞはその典型である。私は物欲も旺盛で、本にいたっては所有欲もあったので、レコードで言うジャケ買いも多数した。
もちろんそれら全てを否定するものでは全くない。
今でもジャケ買いをする事もある。
ただ昔のように、所有欲が少なくなったのは確かだ。また、記憶力がいいとは言っても、寄せる年波には勝てず、近頃では私の海馬から失くなっていくファイルも増えてきた。私は失くす記憶と、新しくインストールする記憶で、海馬をフル活用する。
他人に対しての見栄や、自己満足の読書から開放された私は、あいも変わらず遅読なので、audibleを愛用するのである。
耳からの情報は、着実に私の海馬でまた新たなファイルをこしらえてくれる。
仕事中であれ、運転中であれ、言葉は浮遊し、やがて私の体にゆっくり入ってゆく。こうして私は名作を記憶に刻んでゆくのだ。

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