いやいや…え?え?ってなりました。
いやほんと本当にたくさん読んでいただきありがとうございます!!!
コメントやレビューも大変ありがたく、また楽しく読んでいます。励みになっています!
なんとなくフェリクスを応援するお声が多く、少し嬉しくなったり。
まだまだ書きたい肴もたくさんあるので気長にお付き合いいただけるよう頑張って書いていきたいです!
既に予約投稿している話は三年生となって新しい登場人物がいたり相変わらず賑やかな「花結び」をお届け出来るかと。
フェリクスを始めとする男性メンバーが総じてヘタレになるのはなんなんでしょうねぇ、私自分が格好良いヒーローと思うように書いている筈なんですが…プロットの頃のフェリクスはもうちょっとキリッとしていた気が……。
ここからは十万PVありがとう番外編のSSです。
バレンタインの翌月あたりの話になっています。
鶏団子の写真と共に…そろそろ鍋が美味しい季節ですね、キリッとした日本酒も良いし甘い梅酒も良い……私は辛口吟醸酒辺りで食べたいです。
悪役令嬢の居酒屋 番外編
十万PVありがとう記念
「鶏団子鍋」
その日は朝からフェリクスとディオンの二人とハノイが居酒屋「花結び」に詰めていた。
来月には新入生も入って来て尚更忙しくなるだろうしゆっくり時間が取れるのが次はいつになるかわからないと、今日はホワイトデーのお返しを兼ねて定休日の「花結び」をアデルハイドから借りたのだ。
当然フェリクスとディオンの初めてクッキングに不安しかないアデルハイドはハノイを側につけることを条件として了承した。
「見栄えのよい手の込んだものをつくりたかったのだが」
不満気なフェリクスにハノイが困ったように眉尻を下げる。
「でも殿下、俺たちに見栄えするような菓子とかは作れないって」
意外と現実を知っているディオンがフェリクスを宥める。
夕方にはアデルハイドとマリアが来てしまう、朝から集まったとして手際に不安しかないハノイは先ず材料の買い出しから始めることを伝えた。
朝から市場へ向かい現在昼過ぎ。
ハノイもまさか近場の市場へ行くだけでこれほど時間がかかるとは思わず、頭を抱えたい気分だった。
それでも荷物を護衛ではなく自分たちで運ぼうとするフェリクスとディオンの気持ちに応えたく、二人に真新しいエプロンを渡しハノイはいつものエプロンに身を包んだ。
「ゆっくり丁寧にやっていきましょう」
先ず渡されたのは使いやすいフルーツナイフと人参。
「不慣れな分、無理をしない手順でいきましょう」
「わぎり?にすればいいのか?」
「おっと、存外固いな」
「厚みがつき過ぎては火の通りが悪くなります、薄過ぎては旨味が分かりづらいのでこれくらい」
皮付きのまま輪切りにした人参はフルーツナイフを使い皮を剥き、クッキーの抜き型を使って花型に抜いていく。
「結構力がいるな」
「アデルハイド様みたいにこうなんか段がある花みたいな」
「飾り切りは難しいので諦めてください」
必要量の人参をくり抜くだけで一時間、ハノイは時間配分に自信を失いそうだ。
「人参の残りは鶏団子に混ぜるのでみじん切りにしていきましょう」
うっかり力を入れ過ぎたディオンが人参を飛び散らかす一幕がありながらも何とか人参のみじん切りをボウルに入れた。
白菜を切り揃え、椎茸は石づきを切りかさに十時の切れ目を入れる。
斜めに切り込み反対側からも斜めに包丁を入れれば綺麗な切れ込みが出来る。
ひとつひとつの行程を怪我をしないようにハノイは進捗に指導していく。
椎茸も一部はみじん切りにしてボウルに入れる。
そして白葱を切り揃え、同じく一部をみじん切りにした。
「あまり気にせず食べていたが、生姜の皮は剥きにくいものだな」
フェリクスの手元にはかなり痩せ細った生姜があり、ハノイは苦笑いで剥かれた皮を厚めた。
「此方は洗って茶巾にでも包んでから後で生姜湯でも作りましょう、さあ生姜はこちらのおろし金を使ってすりおろして下さい、ああ、あまり力みすぎると指まで擦ってしまうので気をつけて」
「怖っ!え、指はすりおろしたくないぞ」
ハノイの注意にディオンが震え上がる。
時間をかけてすりおろした生姜は軽く絞り、絞り汁とおろし生姜に分けておく。
「もうそろそろ時間ですね」
ハノイに言われてフェリクスが窓の外を見れば既に夕陽に街が照らされていた。
みじん切りの野菜を入れたボウルに鶏のひき肉を入れおろし生姜を加える。
片栗粉と卵を一つ加えて捏ねていく。
鍋を用意してダシ昆布と水と塩に醤油、生姜の絞り汁を加えて白菜の固い部分と白葱に豆腐と切った人参を入れる。
沸騰して来たらスプーンを二つ使い捏ねたひき肉を団子にして鍋に入れていく。
「油は薄くでいいんです」「いやいや難しいぞこれ」「あっ失敗した」
賑やかに鶏団子を作るうちに裏口からアデルハイドとマリアが現れた。
「アディ?!わっわっ、えっともうちょっとだけ待ってて!」
アデルハイドを見て慌ててフェリクスが声を上げる。
「わかったわ、ゆっくりでよろしいのよ?」
ハノイにチラッと目をやりその意味深な笑みに苦笑いしながらアデルハイドとマリアは指示をされそれぞれ別のテーブル席に座った。
鶏団子を加えた鍋に白菜の柔らかな部分と春菊に椎茸を加えて蓋をする。
その間にテーブルの準備に入る。
卓上型のコンロを置きクツクツ煮えた鍋を運ぶ。
薬味は時間が足りずハノイが用意した大根おろしと小口切りの葱。
「どうぞ召しあがれ」
エプロンを取り蓋を開いてフェリクスとディオンがテーブルの向かい側に座る。
「本当に二人が作ったの?」
目を丸くするアデルハイドに答えたのはハノイだ。
「買い物からほぼ全て、お二人でお作りになられましたよ」
「すごいわ!すごい!ありがとうございます、殿下」
「うん、さぁ早く食べよう!」
綺麗な花型の人参や出汁の染みた白菜を口に運ぶと野菜の優しい旨みが口の中に広がる。
「鶏団子は生姜が効いていて、食感も柔らかくて美味しいわ」
「良かった、アディの口に合って」
照れたように笑うフェリクスと興奮気味にマリアに話しているディオンに生姜の皮を使い絞り汁とライムを加えた焼酎をハノイが出した。
「あの生姜を使ったのか、ありがとうハノイ」
「いえいえ、私も良い経験になりましたから」
フェリクスの飲む焼酎を少し羨ましく見ていたアデルハイドに気付いたフェリクスが手にしたグラスを勧めてみる。
「まあ!生姜の風味に少し辛味が増して、美味しいわね?」
フェリクスから受け取ったグラスを傾けチラッとアデルハイドがハノイを見れば笑いながらジンジャーエールで割った焼酎を出された。
「それはその二杯と私の分しかなかったので」
クツクツ笑うハノイに「もう、わかったわよ」と軽く口を尖らせたアデルハイドは鶏団子から出ただろう旨みをしっかり纏った熱い豆腐を口に運んだ。