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読んだ

村尾三四郎、構えからしてカッケーしつえー! 何あのオールドスクールな気配! パネー! スケボの瀬尻さん解説の影響で語彙力が死んでいますが、実はあの人の解説って何やってるかよく分からない系競技のなかでは群を抜いてレベルの高さが分かりやすいんですよね。やっべー、ぱねー、ありえねーで分かる確信みたいな。ちゃんと話を振ると(ヒップホップ的な意味で)仕込んでたんかってくらいマジメな解説ブチかますすし。
ってオイコラァ! 審判! モニター確認せんかオラア! てか体操ぅ! 吊り輪の点数が抜かれたってオイ審判の()
……というわけで、誰にでも通じる名文、あるいは美しい文(美文調ではない)について話していた流れで須賀敦子『ヴェネツィアの宿』を読みました。本当は賞を取ったミラノのなんちゃらが良かったんですが見つからなく、これに。
面白かったー、のでネタバレ注意ー。

まず、この作品というか恐らく須賀敦子の作品を楽しむうえで、二種類の受け止め方があると思います。それは、作者の出自を理解ないし把握して読むか、作者の出自を無視して読むかという二種類です。
ファンの方も多かろうと思うので言葉を選ばないとと思うものの。ものの。
本作と言うか須賀敦子の作品はエッセイ的自伝小説あるいは自伝小説的エッセイですから、純粋にフィクションとして楽しむか、自伝的なエッセイであるという点を意識するかでだいぶ感想が異なります。少なくとも私の場合は、小説ならよくできているけれど、自伝的エッセイとしては鼻持ちならないところがあるって感じです。
というのも、作者は芦屋の生まれで京都に移り住み世界一周旅行を楽しんだ実業家と士族の嫁の娘であり、戦後十年という時代に聖心女子の女学生となりフランスやイタリアに留学しているからです。そうです。どっちゃくそ恵まれている才人です。ですから、そんな人の小説的な自伝的エッセイとなると、何をどう読むかの水準で感情というか感想がぐっちゃぐちゃになるんです。たとえ形式だけであっても小説として書かれていれば、同時にエッセイとしてこれを書いているんであれば、色々な感情がうずまきました。
感情を渦巻くのが名文であるならば、これはたしかに名文なのかもしれませんが。
が。

私の感情をざわめかせたのは文体ではなく内容だぞ須賀敦子!!
 
というわけで、ざっくりしたあらすじです。
本作は須賀敦子の留学時代やら家族問題やらあれこれが飛び飛びになっている短編エッセイ集……と言いたいんですが、なにしろ39文字×18行で空白が5マスってくらいみっちり文章がつまっていますし、文体が文体なので、美味しそ~と手に取った瞬間にみっしりと重量を感じるパウンドケーキって感じに仕上がっております。あるいは、醤油ラーメンとして提供される二郎。定番のコメダ。
私のお気に入りの一編は後ほど。


さて文体。ここが一番大事なくらい。恥ずかしながら存じ上げていなかったののですが、須賀敦子は名文家として知られているようです。私の所感としてはどうか。美しい部分もあるし、名文家でもありますが、大層な悪文でもあると思います。このアンビバレンツな感想に至るのは、やはり作者の略歴と生い立ちが私の感性に悪さをしているからです。
まずざっくり表現するなら、2024年現在で50代後半から上のサブカルお姉様方がドはまりしそうな文体という印象です。たぶんに偏見が入っているのは、どうかお見逃しいただきたく。
基本は一人称の小説っぽい気配。予想と異なり非常に叙事的で、5W1Hに忠実に、読みやすくまた映像的な細微に渡るまで描写された文章です。また結果としてセンテンスが長く、普通なら句点で切りそうなところを読点でつなぎ、思考の流れに沿って三行くらいで収めるスタイルとなっています。
ところどころに挟まる比喩が独特ながら想像しやすく、刺さる人にはグッサリ刺さると思われます。しかも視点人物が教養に溢れてい、かつ対象が日本人に馴染みが薄いので、非常に魅力的になっていると感じます。
しかし。
しかしなんです。
ところどころで出る繊細な悩みが、とんでもない金持ちのお嬢さんが全世界が困窮しているなか外国に行き、現代の女学生的な悩みに悶々するという感じなのです。特にこの『お金持ちのお嬢さん』が意識にあるかないかで受け止めがだいぶ変わってきます。
なければ進歩的な女性の留学記として宇宙を埋め尽くすほどの共感を得そうな感じですし、あれば海外礼賛からの自国を見もせずに批判を繰り返す例のアレなスノビズムあふれる文章に思えてきます。
ここは本当に難しいです。
何が難しいってスノビズムは庶民がハイソな振りをしてる鼻持ちならなさなんですが、これはそれなり以上に裕福で教養豊かな女性による庶民的苦労話なのですから、逆苦労話と言うか逆スノビズムというか、すげーと思う反面ムキーとなります。
その感じが文体に溢れているんです。
凄いです。そういう意味ですごいと思います。
実家が金持ちであることに無自覚かつ、なんなら自分から清貧生活ロールプレイしておいて厳しいとか苦しいとか努力したとか苦労したとかそういう語りです。
なので、合う人には生き方を考え直すレベルで合いますし、合わない人は焚書レベルに合わないと思います。でも読む価値はあります。大半の普通人が普通に生きていたら知る由もない話がいっぱいでてくるので。

またその体験がオシャレで……戦後十年のヨーロッパで、あたかも現代を生きるごく普通の女子大生然とした感触で留学体験を綴っているわけです。
……ふざけんな! と思ってしまう矮小な自分が胸の片隅で膝を抱えているのに気付かされました。くそう。


というわけで、お気に入りポインツ1!
とりあえず気にいった一編を紹介しますと、これは文春文庫版P.181から始まる『白い方丈』ですね。日本に帰ってきた須賀女史が手紙を受け取ると、差出人は京都の酒蔵の女当主で、父親だか旦那だかの豪奢な送迎を受けて赴くと、それらを凌駕するいっそ幻想的なまでの美に満ちた一時が展開され……みたいな内容です。これはもう、単純に知らないと書きようがないリアリズムに満ちた幻想的な世界観なので、うおぉぉー乗るんだーwwってなりました。オチまで含めて秀逸なのでネタバレはしません。たしかに凄い。

お気に入りポインツ2!
作者のお母ちゃん。武家の出身でなかなかに苦労されてるご様子ですが、須賀敦子さんの感想というかエッセイも踏まえると、どうも須賀敦子さんの感性のだいたいはこのご母堂から継がれたもののように見受けられてなりません。「(メルセデス)ベンツはドイツ人の家にいるみたいで嫌(意訳)(妹のトライアンフはOK)」とか超カッコイイっていうかロックですよね。好き。お母さんエピは父親にまつわるもの以外はだいたいロックなのでオススメです。

お気に入りポインツ3!
オチ。短編集みたいなノリなんですが、どれもオチ周りの切れ味が凄いです。私もこういう切れ味がほしいけど短編ってぶった切るのカッコイイからそうするとこういう感じになるんだよなって感想もあったりなかったり。

お気に入りポインツ4!
オチ。これは全体のオチ。文春文庫版の『ヴェネツィアの宿』は表題作に始まり『オリエント・エクスプレス』に終わるのですが、その中で挿話とも主題ともつかない形で幾度も父の話が入っていて、そのオチの完成度は満足度がヤベーです。ただこれ小説じゃないので編集マジック的なエピソード配列の妙なんですよね。その意味でやっぱ世間で評価されるほど簡単じゃねーです須賀敦子。

お気に入りポインツ5!
ローマでお世話になったカンパーナ家のマウロくん十歳!
イタリア男の必須技能『女性に優しく』を修練すべく作者に優しく接するんですが、海水浴の数週間だけ接したエスプリあふるる東洋人のお姉さんとか感情教育すぎるでしょう。どう考えても第二第三のフローベールになってますよマウロくん。癖がおかしくなってますよ。絶対。頑張れマウロくん。

お気に入りポインツ6!
修道院時代のアイルランド生まれのすぐカッとなるシスター・フレンチ及び野球好きで修道技の裾をまくって盗塁かますシスター・ダナム。字面で見れば分かる通りのギャップ萌えですが、何を隠そう私も幼少期はミッション系のモンテッソーリ教育を行う幼稚園に通っており、リアル裾まくりダッシュシスターを目撃し、その手の甲に見様見真似でベーゼをかました幼児の一人。ツボでした。


気になるポインツ1!
やっぱりごめんなさい。時代を考えると天上世界レベルの優雅な学徒生活を送っておられる方の些細な苦悩とかしばくぞって感想がでてきます。しかも本人的にはもっと上流のガチ貴族を知ってるから自分は庶子ってノリです。(自主規制)!!
これさえ知らなければ普通に楽しめるのに……!
たとえ知っていても、小説として書かれていればもっと純粋に楽しめたのに……!!
もうこれは完全に個人の感性の問題なので、読んでみてくださいって感じです。

気になるポインツ2!
一文というか読点でつないだワンセンテンスがいちいち全て濃厚なので、全体を通すと国産和牛丼チーズ15種盛りシチリア・オリーブオイル・ウィズ・ホワイトアンドブラウンソースみたいな感じです。
でも大丈夫です。
私の自作小説でたまに差し込れてる長文とか、だいたい同じようなものというかもっと濃厚までありますし、『失われたときを求めて』だと国産和牛丼チーズ15種盛りシチリア・オリーブオイル・ウィズ・ホワイトアンドブラウンソース揚げドカ盛りコースって感じですから便所で軽く吐いてくれば美味だけは味わえます。

気になるポインツ3!
お父さんの贅沢三昧世界一周旅行がガチで贅沢すぎて引く。
単純にやっべーってなります。しかも借金とかへのかっぱなので無頼すぎます。ぱねー。
しかもそんな親父に愛おしさすら感じる須賀女史エグー。
これは私如きはチェ・ゲバラごっこしたくなるっすよねー。


まとめ。
現代の、ややもするとスノッブと見られそうな生活に多少なりとも憧れていた私からすると、全編を通してずっと薄っすらマウントを取られ続けているような感覚でした。それも悪意がなく、ふいに泣き言を吐くと『でもあなたも頑張ってるじゃない』とか言われるような、結構キツいアレです。
一方で、ヘミングウェイの『日はまた昇る』に出てくる一節の、人生を切り売りするような作家活動が長続きするはずもなく、みたいなそんな印象を受けなくもないですね。つまり小説を準備していたらしいけれど私小説以外だとあんまり良くなさそうな気配があるって感じです。むしろ私小説がじゅうぶん異次元すぎてそっちメインにしたほうがいいって見方まであると思います。

本作に限って言えば、エッセイとして見るとまとまりを欠いているように思えますが、連作あるいは一連の短編小説群として見るとよくまとまっています。そのまとまりは各話にも現れていて、何よりもオチの数行の気の利かせ方が凄まじいというか素晴らしいと思います。だからこそ小説が見たかったと思うものの、小説だと迫力が足りなくなりそうな気配もあり、みたいな感じです。
日本文学界の特異点だのなんだのと大仰な言葉が並んでいますが、それはそうと思う反面、そこまでじゃねえだろうって感じもあります。そういう意味での心のざわめき具合はすごかったですね。

若干コスい話をすると、大絶賛された『ミラノ 霧の風景』が平成三年(1991)なので、バブリーな時代を生きていた留学を考えているサブカル女子のなかでも特に作者の来歴にを知らない方々にぶっ刺さったのが一番影響が大きいのではとか思いました。マジでコスすぎてアレですね。いかん。
ただ、文体。
これが名文なら私の一部小説もだいぶ名文に分類されちゃうんじゃないのって不遜に極まる感じがしないでもないです。文の息の長さとしつこさと映像と……もしかして私って文章上手いんじゃないのー!?(ドブロック)。


長くなりましたが、とりあえず一冊、読んでみました。
もう一冊『トリエステの坂道』も読みます。読んだら、次はスノッブどころかそれより上は数えるくらいしかない彬子女王『赤と青のガウン』に参ります……!


明日のラッキー思いつき嘘知識
『以下の写真は、当ページ作者λμが地元スーパーにてクソ騒がしい幼女を誘引したうえで黙らせ、また事案と通報を警戒して必要以上に沈黙さしめてしまった呪物である』

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