紹介文です。
土曜日公開予定の紹介文、、、
わたしの名前は冬月有紗。北鉾学園二年生だ。クラス替えから数日経った月曜日。わたしは、佐藤平くんに声をかけようと思った。
カッコ良かったわけじゃない。
スポーツが得意だったわけじゃない。
頭が特別良かったわけじゃない
そんなことはどうでも良かった。
わたしの学区は私立に行きたいとか、あるいは特に頭が悪いとかがない限り、この北鉾学園に進学する。
だから、佐藤平くんのこともよく知っていた。彼は今までわたしが告白されて、付き合おうか迷った男子のどのタイプとも違った。
わたしが初めて告白されたのは小学六年のサッカー好きの桜井俊貴と言う少年だった。
初めて告白されたから、わたしも色々と夢を膨らませたものだ。
でも、ファミレスで話している間、彼はずっと自分のサッカーのテクニックを自慢した。
オフサイドなんてルールすら知らなかったわたしだから、教えてもらったことには感謝するが特に凄いとは思わなかった。
自慢じゃないがわたしの元お父さんは、サッカーでインターハイで優勝した人間だ。
でも、わたしに自慢したことなんてなかった。あまりの薄っぺらさに嫌気がさして、帰宅途中にメールで『さよなら』と4文字送ったら、なんでだよって返事が来た。
自慢したいなら、サッカーファンの彼女でも作ればいい。わたしには興味がなかった。
二回目にわたしが付き合ってもいいかな、と思ったのは、中学二年生の時だった。
そのくらいになると女子の間では恋愛話が話題の中心になっていた。
クラスで1番イケメンの山河聖人から声をかけられたのも、その時だった。
彼はキザだった。花束に手紙を添えてプレゼントされた時にはもう無理と思ったが、ここで断るのもなんなので、話だけ聞いてみた。
ファミレスで話す彼の話は全て容姿に関することだった。
しかも人の悪口が話の大半だった。
「学年一美少女の冬月さんなら、わかるでしょ」
と言われた時にわたしはカチンときて、
「そんなこと、わかりたくもない」
と言って帰った。ラインに一言、さよならと送ったら、なんでと来たから自分の胸に聞いてみてよ、とだけ送った。
それからクラス一の秀才に声をかけられても、あまりOKする気にもなれなくなって、誰とも付き合わないまま、高校生になった。
この頃にはお父さんがいなくても気にはならなくなっていたが、ふと思ってしまう。
あんなに頭が良くて、カッコよくて、スポーツもできたお父さんでも、離婚するんだ。
ある日、佐藤平くんが公園にいるのが見えた。彼の側には小さい女の子が泣いていた。
どうやら、風船が飛んで木に引っかかってしまったらしい。
女の子のお母さんもオロオロするだけで、また買ってあげるからと言うだけだった。
「あれがいいの!」
そうだよな、と思う。小さい娘は、持っているものに愛着がわく。風船はあれじゃないとダメなのだ。
「取ってあげるよ」
あんまりカッコよくない彼が微笑んだ。この微笑みにわたしの心臓は思い切り掴まれたような気がした。
彼は木登りが得意なわけでもなかった。でも必死だった。何度も失敗してボロボロになりながら、なんとか風船を取って少女に渡した。
周りにいた数人の大人から拍手されていて、わたしもその中に入りたいと思った。
「ありがとう、お兄ちゃん」
少女は小さい声で言いながらニッコリと笑った。
わたしも勇気を出して声をかけようと思ったけども、その勇気が出なかった。
恋の失敗の嫌な思い出が頭によぎる。それに、わたしは彼のことが好きなのか、さえ分からなかった。
それにこれは彼の出来心かもしれない、と思ったわたしはその日から、佐藤くんのウォッチングをするようになった。
おばあちゃんの荷物持ちをしたり、足の不自由な人に肩を貸したり、おばあちゃんをおぶったり、妊婦さんに席を譲ったり……。
どれも、目立つことではない。でも、誰も見てないからこそ、彼の出来事は素晴らしい、と思った。
「あーぁ、損な性格だなぁ。僕には特徴もないしなぁ」
公園でブランコに乗って一人佇む佐藤くん。
わたしは心の中でそんなことないよ、見てる人だっているんだよ、って伝えたかった。
「せめて、冬月さんみたいな可愛い娘と付き合えたらなぁ」
この言葉がわたしの心臓をもう一度大きく鷲掴みにした。
高校二年になったら、佐藤くんに声をかけるんだ、と決めた。
何度か声をかけるのを失敗して、高校二年になってから1週間も経った月曜日。
今日こそ言おう。吃らないように、自然に気をつけて。
この一歩でわたしの人生が大きく変わると思った。
『冬月さんは空気を読まない』
そんなもん読んでもいいことなんてないんだ。
わたしは佐藤平くんの隣の席に座ると、大きく息を吸い込んだ。
彼の視線とわたしの視線がぶつかる。どうしたの、という顔をしていた。
きっとわたしが声をかけるなんて、思ってもいない顔だ。
告白は何度もされた。でも、これがわたしの初めての声かけ……。
好きかどうかと言われるとわかんないけど、わたしは彼と話したいのだ。
「おはよー、今日からよろしくねぇ」
さりげなく言ったつもりだったが、周りからの突き刺さる視線が想像していた以上だ。
ここで負けてはなるものか、とわたしは手をぎゅっと握った。