こんばんは、凛子です。
「千年の竜血の契りを、あなたに捧げます」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885012397お読み頂きありがとうございます。
続きもちまちま書いておりますので、今週中にはお見せできると思います。
さて、お待ち頂くあいだに小話でも如何でしょうか。
ずいぶん前になりますが、Web拍手用として作った番外編SSがありますので、こちらに置いておきます。
お楽しみ頂けると嬉しいです^^
ディアスとフェイリットのお話で、時系列でいうとバッソス公国から帝都に戻ってきてすぐ(だいたい98話の後くらい:URL後述)です。
98話「末子の王女」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885012397/episodes/1177354054887604838ほんのり話が繋がっています。
では、以下より始まります。
どうぞ^^
■ 番外編・海に咲く薔薇 ■
どっと音を立てて椅子に背を預け、息をつく。
しっかり痕のついた眉間を掴み天井を見上げると、ディアスはその体勢のまま、ふと室の入り口を見やった。
「……どうした」
思わず笑いそうになって、妙な息を吐き出す。こっそりとこちらを覗いていたらしい水色の瞳は、視線を受けて慌てたように瞬きを繰り返した。
「おっ! わ!」
前のめりになりながら仕切りの幕をくぐり来て、少女は真っ赤な顔であらぬ方を見ている。ハレムは嫌だからとウズの下へ戻ったはずだが、トスカルナの邸宅にも帰らずまた仕事を抱いて眠る気だったのだろうか。
「ええと、」
素直な性格のなせる業か、言いたいことが顔に出てしまっている。おそらくは〝眠れない〟か、〝寂しい〟かのどちらか。顔を見るなり「げぇ!」と大仰に眉をしかめていた彼女に、こんなにも気を許されるとは考えもしなかった。飼い慣らしたとはよく言ったものだ。まるで牙を剥いていた小さな白虎に、懐かれている心地がする。
「陛下、」
視線を外し、しばらく沈黙したあとで、そっと見つめてくる色の薄い瞳に、ディアスはふと釘づけになった。
「陛下の、お噺が聴きたいなー……なんて……」
ぼそぼそ言ったあとで、その次の言葉を逡巡するかのような眼差しでこちらを見やり、
「なんて思って来てみたんですけど……おっ、お忙しいなら別に!」
見つめたままの沈黙をどう受け取ったのか、彼女は両手を首の前あたりで振ってみせる。
――お前が可愛くて仕方ない。そう言ってやれば、喜ぶだろうか。
困ったような表情を浮かべたあと、ディアスはふと笑って返した。
「暇ではないが。お前を寝かしつければいいのか」
いつものように腕を広げて、「おいで」と言ってやる。
〝飛びつきたい〟と顔に出るくせ、いつも二三歩下がって戸惑ってみせる。計算ならば誉めてやりたいが、そういう駆け引きができる娘でないことは、もう分かりきっていた。
「そんな、寝ません。聴いたら帰ります」
「そう言わずに、泊まっていけばいい」
「と! とま?!」
「なんだ、残念だな。ウズのところがそんなにいいか」
「そ……そういうわけでは、」
しおれるように肩を竦めて顔を赤くする彼女を、ディアスは頬を緩めて見やる。
「ハレムが嫌なら、私の小姓にならんか」
立ち上がって彼女に近づき、その薄赤く染まった頬に手をあてやる。恥ずかしそうに俯けてからそっと上げられる濡れた水色の瞳は、理性を捲るには充分すぎた。
「泊まっても……いいなら」
返事の代わりに頬を撫で、やわらかな髪を梳きやると、彼女のほうから抱き締められる。
――愛している。そう囁けば、お前は喜ぶだろうか。
女を抱きながら、悦ばせるために口にしていた言葉。簡単だったはずのそれが、何故だか彼女にむかって言えないでいる。
抱き返し首筋に口をつけると、彼女は小さく声をもらした。
「……海に咲く薔薇の噺はどうだ」
「えっ、もしかして新しいお噺ですか?」
目を輝かせて嬉しそうに言う彼女を見つめて、ディアスは頷く。
「ああ。お前が眠るまで、話していてやろう」
やさしい安寧が、ずっと続くと思っていた。
お前を手離すことになるのなら――せめてあの時だけでも、言ってやればよかったのだ。
愛している、と。
-終-
お読み頂きありがとうございました。
それでは、また^^