RPGやオンラインゲームなんかでよく見る設定の〝冒険者ギルド〟その組織の管理運営上の問題や、冒険者に依頼するクエストの報酬や難易度を決めるための制度なんかに焦点を絞った作品を書こうかなとか思って、ちょっと適当に書いてみました。気が向けば書き溜めた分、作品として公開するかもしれません。
――以下本文
シルフィウムはきれいな水と、適度なエーテル、そして静寂の中でしか育たないと聞いたことがあったが、なるほど、こういう場所だったのか。
おれは山頂にひっそりと張る清泉の畔に腰を下ろすと、ブーツの紐を緩めた。
早朝から歩き詰めだったせいで、足は水に浸した塩漬け肉のように腫れ上がっていた。木漏れ日には既に朱が混じり、たゆたう水面に鮮やかで、それいでどこか寂しげな橙色を反射させている。
随分と遠くに来てしまったような気もしていた。揺れる水面の西日が瞼をさし、それを嫌って顔をあげると雁の群れが頭上を往くのが見えた。鳥たちは町で見るよりずっと低い場所を飛び、聞いたこともないような声で鳴いていた。だから、つい昔のことを思い出し、郷愁に浸ってしまったのだ。
おれは背嚢からパンを取り出しひとくち、ふたくちと齧った。
ふと脇に目を落とすと、畔の一角に焚き火の跡があった。燃えカスの中には、小さく砕かれたアンフォラの欠片が紛れている。きっと以前ここへ来た冒険者たちが、泉の畔で焚火と星空を楽しみながら、葡萄酒でも煽って一夜を過ごしたに違いない。
惜しむらくは、おれには先人たちに倣って、ゆっくり景色を楽しむほどの時間はないということ。そして、それを分かち合う相手がいないということに尽きる。せめて、おれがもう少し素直な性格であったならば、この美しい風景を、美しい思い出のまま、ふたりでそっと、大事に取っておくこともできたかもしれないのに。
目を閉じれば、特定の、誰かの顔が浮かびそうな気もしたが、その輪郭を縁取る気にはなれなかった。思い描いてしまえば、自分が寂しい男だと認めてしまうような気がした。
おれはパンの残りを口に放り込むと、靴紐を結び直して立ち上がった。それから大きく伸びをして、帰路に就く覚悟を決める。早くも人里が恋しくなっていた。
おれは周囲に点在するシルフィウムを一本だけ摘み取ると、日ごろから部下の仕事っぷりに疑念を抱いている上司のため、油紙で包んで背嚢にねじ込んだ。
夜はもうすぐそこまで迫っていた。