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旧バイト女子第5話:趣味バイト。特技バイト。好きな事バイト。他は致しませんと言いたい



 地球でファッショナブルな毎日をお過ごしの皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
 私ことミユは今、絶賛人間トルソーになって着せ替え人形のバイトをしています。

 え?
 このセリフ、もう飽きた?
 では異世界にいる作者なる存在にLimeで、その貴重なるご意見を上げておきましょう。お客様のクレームを糧にするのもプロのバイトとしての必須条件。


「まあ、ミユちゃん。とっても素敵よ! ねえあなた。そう思いませんこと?」

「そうだな。やはりミユにはシックなドレスが似合う。派手なものより父は好みだよ」

「そうでございます。ミユお嬢様はおしとやかで儚いイメージのする優しい淑女になられること請け合いです。わたくしたち使用人の総意でございます」

 どんな存在だったんだよ、もともとのミユお嬢様は?


 ほんの一週間前。
 エルタリア王国の首都、エルガルトより馬車にて男爵領に拉致られましたよ。
 いや、送迎付きのバイトと思えばすんばらしい好待遇。「送」があるかは知らない。もうこうなったら行き当たりばったりだよ。

「でもミユ。本当に何も覚えていないの? エルガルトの街で急にいなくなって。母たちはお父様と一緒に方々を探していたのよ。ちょっと雰囲気も大人になったというか……
 きっとショートカットにされてしまったせいね。何という残酷な人攫いでしょう!」


 ああ、お二方。それでホコリまみれだったのね。
 私の詮索はしないでくださると助かりますわ。叩けばホコリが出ますので。


 三か月前、エルガルトの街で買い物をしていた男爵家の御一行様から令嬢であるミユ殿が攫われたように、こつ然といなくなったとの事。

 私の体はそのミユのものかも?
 ちょうど八歳という事だから、その可能性は大きいね。あの駄女神の事だ。男爵家の御令嬢が八歳だからと、強引に私を八歳にしたのかも。
 で、失敗して浮浪児扱いになったってわけ?

「はい。憶えているのはあの子たちと三人でエルガルトの街をさまよっていたことと、優しいシスターさまたちのお蔭で三カ月生きながらえたことです」

 嘘です。
 嘘つきは男爵令嬢の始まり。
 あの後、妹弟二人と一緒じゃなければ何処へも行かないと駄々をこねる私のために多額の寄付(奴隷購入代金とも言う)をして、男爵は無事あの怪しい悪魔的奴隷販売修道院からメグとユーリを引き取った。

 ありがと、父さん(仮)。
 この恩は忘れないよ。サビ残でもなんでもするから。


 どうやら父さん(仮。めんどいので父さんでいい?)のかみの毛の色が遺伝したらしい。母さん自慢の娘だったようだ。溺愛している。

「それであの話は本当にシスターたちから聞いたというのだな、ミユ」

「はい。お父様。弟……みたいに思っているユーリには聴力強化というスキルが発現したそうで、ドア越しにもその陰謀が聞こえたようです」

 ホーンブロウ男爵ホレイズは形の良いあご髭を触りながらその情報の真偽と可能性を考えているようだ。王国が貴族を粛正するというあれだよ。

 情報って重要だよね。全ての商売の成否を左右するんだ。バイトは少ない情報から成長する企業・店舗を探して忠誠を誓って頑張って働く。金払いが良いからね~♪

「最近の情勢と合致する情報だな。用心するに越したことはない。来年の夏までにある程度の準備はしておくか」

「ではあなた。またエルガルトに行き、人手を集めてくるのですか?」

 こう聞くと一人娘が攫われた現場に近づくなんてもってのほか。とか言い出すんじゃないかと思うけど、母、眼をキラキラさせてあごの前でお祈り風に両手を組んでいる。
 どうやら都にお出かけの魅力には勝てないらしい。さすがお貴族様の奥方。買い物が好きみたい。

「ああ。そうなるだろう。無理をしてでもソリティア様の信者を増やさなければこの領地などすぐに接収されてしまう」

 あ~、危険な信者獲得運動ですか?
 やめてください。壺売りつけるとかは禁じ手です。


「あなた。もしミユを攫った犯人がわかりましたら教えていただけませんこと? わたくしが昔取った杵柄で、見事暗殺して差し上げますわ」

「了解した。では私は変装して王国内部にもぐりこみ情報を……」

 空耳か?
 部屋を出ていく二人組。
 父、精神科医でスパイのバイト。
 母、公務員で暗殺者のバイト。

 真実だとするとこの世界のバイトはプロだ!
 私も日本ではプロ気取りだったが、この世界のバイト道は大分レベルが高いらしい! 気合を入れて頑張るよ、師匠たち!

 しかしこの後、使用人さんからいつもの冗談だと教えられた。本当なら安心だが、少し残念なのは気のせいなのでしょうか。


「メイドさん、君の名は。」

「お忘れですか、シクシク。ターニャでございます」

 ここにも新手の最強戦力が??
 ビビッていてはいけない。

「この男爵領は何で生計を建てているのかしら。知りたくなったの」

「まあ。お嬢様ったら殿方の知りたそうなことにご興味を持たれたのですね」

 この世界は男尊女卑なの?
 女尊男卑だった日本の中世近世とはえらい違いだね。


 この男爵家は西方に浮かぶ島国との百年前の戦争の勝敗を決した大海戦で勇名をはせた提督が、叙勲されて起こした家だという。
 そのためエルトリアに所属して忠誠を誓っている。

 でもさびれてやせた土地しかない半島部を領地とするために、農作物などの生産には適さない。だから漁業と、昔の敵であった島国ブリトニアとの密輸で何とか収入を得ているとか。


 この二千人の住むさびれた漁村を繫栄させるとか、どんなMプだよ。
 ソリティアとかいう弱小泡沫女神の顔が見てみたいよ。


「な~ぁに? 呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん」

 昔流行ったセリフで登場する少女女神。
 やっぱ、領地・勢力と同じく体ちっこい。
 むねたいらさんに五百点レベルだね。

「こいつ。聞こえないと思って無いこと無いことを! これからこき使ってやるんだから。このソリティア様に従いなさい!」

 ソリティアという女神は高飛車系?

「話は後よ。既に王国の手のものが、この領民を引き抜きにかかっているの。それを止めなくちゃ。行け! バイト戦士。スパイを捕まえるのよ!」

 男爵令嬢はそんな公安警察みたいな仕事もこなすのでしょうか?
 神様。私は何というブラック職場に……

「モイラちゃんに頼んで書いてもらった履歴書に「何でもできます。趣味バイト。特技バイト。好きな事バイト」と書いたのだぁれ? ガシガシ働きなさい」

 ニンマリと笑う少女女神。
 こいつのお尻には矢印のしっぽが生えているに違ないよ。





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