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旧バイト女子第4話:情報量が多すぎてフリーズする私でした




 地球で健康にお過ごしの皆さま。お元気でしょうか?

 ただいま、私ことミユは絶賛バイト中です。
 プロのバイト女子として、あるまじきサビ残を命じられています。
 それも無賃金で!


 三日前。
 孤児院のシスターたちの正体が悪魔的な『なにか』だと見破った私達三人。
 魅了された妹弟を取引材料として、私も捕まっちゃいまして~
 三人とも首輪をつけられちゃいました、てへっ。

 どうやらこの首輪。魔法を使うと飼い主(シスターたちだよ。許さん!)に居場所をつき留められてしまうらしい。
 ついでに命令すると数秒の間だけど絶対服従だとか。

 ヤヴァイっす。
 逃げられません、取るまでは。
 飼い主の一言は、死の一言。
 戦時中のスローガンみたいになっております。


「姉ちゃん、やるねぇ。相当修行積んだんだろ。十歳にならない子供の手つきじゃねえな。実は三十八くらいじゃねえか?」

 現在、修道院の運営費を稼ぐために近場の宿屋兼料理屋でバイトをしております、無給で!

 おい、オヤジ。よくもアラフォー扱いしてくれたな。
 中身はまだJKなお年頃だよ!

 といっても十八だとしても、この手さばきは尋常じゃないよね。
 父さんも相当な天才だったと聞いてるけど、劣性遺伝子(最近は潜在遺伝子というらしいよ)が凝縮したのか?

「ほ、褒めてくれてありがとうございます。私、褒めると伸びるタイプなのでもっと褒めてやってもいいんですよ。ついでに御褒美として早く帰らせてください」

 コメカミあたりにシャープ状の影をつけて、片方の口角をあげて答える。

 だめだ。
 この宿屋のおっさん。
 いい働き手を手に入れたとしか考えていない。大分低賃金で働かされている私でした。その賃金も修道院の|鎬《しのぎ》に。


「さ~て。これで今日の作業は終わりだが……その包丁、お前にはもったいねぇな。ここへ置いて行け。この店で使ってやる」

 ニマニマと笑うオヤジ。
 こう来たかぁ~。
 身ぐるみはがす気だな。労働基準監督員さ~ん、犯人はこの人です。
 ちなみにこの包丁類を入れるケースは私しか開けられない。


 その時、表のカウンターから声がした。

「主人はいるかな。遅いが泊めてもらえないだろうか」

 ここはミドルクラスの宿屋。

 そこに身なりの良いロマンスグレーの客が、質素なドレスをまとったご婦人を連れて立っていた。
 ロマンスグレーはオールバックの髪の毛が私と同じエメラルドグリーン。
 ご婦人はいかにも下級貴族という身なりに合った髪型。色は薄い銀髪。

 行商人が使う程度の宿屋には似つかわしくない。

「へい。まだ受け付けはしております。料理は……」

「大丈夫ですっ! 私が超特急、いえSR-71並みの早さで用意します!」

 二人は相当急いでいる旅路らしい。埃まみれと見える。せめてお風呂をと思うけど、この世界に風呂はない。風習がないのだ。
 シャワーも機材はあるけど魔法を使って温水にしないといけない。
 季節はもう冬が近づいている。さすが冷水のシャワーはきついなぁ。

 せめて温かいものをお出ししないと料理人としてのプライドが許さない。
 私は薄暗い厨房から大声で注文を聞く。

「料理は肉料理がいいでしょうか? 魚料理もできます。両方干物ですが腕によりをかけて何とかします!」

「そうか。では肉料理を。お前もそれでいいか? 魚はこの内陸ではあまり期待できない」

 海辺の地域に住んでいる人かな?

 とりあえず今は料理を作る!
 宿屋のおっさんに目配せして「おう。厨房はまかせろ!」とのブロックサインを送る。

 さて、許可は得たし腕によりをかけて作りましょうか。でも魚が使えないのがカナシイ。私、板前見習いなんだけど。


 すでにこの時刻、|竈《かまど》の火は落としてある。
 だが! この前、指先をじっと見て「燃~えろよ、燃えろ~よ♪」と三人で念じていたら、私とメグだけ人差し指の先から炎が出た。
 やったぜ、チャッカ人(マン)にジョブチェンジした!

 一人だけ火が出なかったユーリは、震える右手首を抑えながら
「なぜ必要な時に我の奥底に眠りし根源なる混沌は現れぬのか……」
 と、独り言を言っていた。


 さて~。
 時間のかかる料理は出来ない。
 やはり向こうの世界での定番朝食を考えましょ。母さんと家政婦の先輩おばちゃんが、ご主人様が急に帰って来た時に手短にふるまえる料理といって、サンドイッチ・ベーコンエッグ、その他諸々を教えてくれたけど……

 レトルトとか缶詰とか一切ない! あまり物さえほとんどない。

 ここは秘蔵の「あれ」を出そう。兄弟三人の秘密の食材にしておいたベーコン!
 修道院においておけば即没収だから、ここに隠して吊るしてある。
 卵・ミルク・パンの残り物で賄い料理を作るつもりだったけど、この豪華食材を酢と油・卵・酢でマヨネーズ。酢があって助かったよ。

 パンは炎のフライパン(会心率アップ)でトースト風に焼こう。なんとかなるっしょ。会心焼きも憶えているし。
 あ、フレンチトーストという手もあるか。生乳は危険です。メレンゲ作ってスフレにするのもいいかな?
 ぶつぶつ言いながら厨房で作業をしていると、あのおねーさんのアナウンスが。

『フライパン特殊攻撃、対肉放熱スキルを取得しました』
『液体|攪拌《かくはん》水魔法スキルを取得しました』

 お~っと。
 一気に2つスキル入りました~♪ 喜んで!
 今のブラックなバイト気分にはちょうどよい掛け声。

 真剣になると取得率いいみたい。今度、普通の時に真剣になってみよう。
 最近、師匠いないからちょっと気分がだらけているみたい。


「ベーコン入りフレンチトースト二名様。お待ちっ!」

 あ、和食じゃないからこのセリフは合っていませんね。

 お盆の上から二人の座っているテーブルの前に質素な木のお皿を置く。
 おいしいよ。食べてみてよ。私が《《自分のために》》作ったベーコン使ったんだ。美味しくないはずがない。


 しかし。
 二人はその美味しそうな匂いに酔う気配を見せない。
 私の顔をじっ~っと見ている。口が半開きだよ。
 これは~、いわゆる~、一つの~、見とれている的な?

「あなた。ミユよ!! 私たちの一人娘のミユ! やっと見つけたわ。こんなところにいた。ああ神様。ソリティア様のご加護よ!」

 なんか情報量が多すぎてついていけないフリーズしたミユ8歳です。


 しかしこの後めでたくこのホーンブロウ男爵という家に娘見習い?として仮採用されたのだよ。姉妹弟三人で。それは当たり前だぬ。ばらばらになるんだったら孤児院にいた方がましだ~。



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