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旧バイト女子第2話:芋の皮むきは大事なレベル上げ


地球にお住いの皆さま、お元気でしょうか?
私こと、咲坂美咲あらため、異世界転生したミユ(8)は只今絶賛芋の皮むき中です。

中身が18でも外見が8歳、エメラルドグリーンのショートカット女子になりました♪

……あの駄女神、何考えとんじゃ!
行動の自由度が極度に落ちてしまった。しかもテンプレのお貴族様の家に生まれるとかじゃなく浮浪児じゃん。

幸い、すぐ近くに転生というか転移した姉妹弟3人は皆で抱き合って再会を祝し、ついでにトラックを思いっきり呪ってやった。

いけないわ。
あれは運転手さんのせいではない。あのちょっとトロ臭そうな最強疫病神のせいだ。


再会後、色々ありましたよ。

駄女神の失敗で路地裏に転移したので、お約束のチンピラにカツアゲされている所をおまわりさんに助けてもらう事から始まり、着ていた服がボロボロで今にも風邪を引きそうになったところを、見るに見かねた優しい服屋のオヤジさんに中古の服をもらった。

血もついていた服を見るに見かねたんだろうか。

おね〇ョタ癖のある靴屋のおねいさんに弟の愉太あらため、ユーリ(4)がお持ち帰りされるところを、その妹さんの飛び蹴りで我に返ったおねいさんは償いとして靴を三足くれるとか。

ちょっと申し訳ないと思って3人の写真をラミネート加工したものを上げたら、靴磨きセットをくれた。どうやら黒髪の子供は初めて見るらしい。家宝にするとほっぺでスリスリし始めた。返してもらいたくなったけどこの靴磨きセットは貴重だ。これで金が稼げる!


そして今。
修道院が経営している孤児院で御厄介になることに。
今はその孤児院の食べ物である芋の皮むきをさせられている
やったぜ私達。幼児と児童三人で異世界に飛ばされたけど、僅か一日で衣食住を手に入れた!

と思ったんだよね。
だけどその翌日。
ここの現実をシスターに教えられたんだ。

「自分の食い扶持は自分で稼ぐべし」

ここには二歳から十二歳までの浮浪児たちが引き取られている。
もちろんほとんどの子は働けない。だから年齢の大きい子が働いて生活費の足しにする。
当たり前と言えば当たり前だのクラッカー。


ということで現在絶賛芋の皮むきが終わり、スライスに入った所のミユ8歳です!

ここは修道院の裏手にある孤児院のさらに日陰、お台所のさらに隅っこの空き樽の上です。
そこに座って芋の皮むき一筋三ケ月。お陰様で気持ちがいい程の手際に。最近は芋を蒸したり煮込んだりも任せられるようになりました。
……カツラ剥きすらこなす板前を舐めんじゃねぇ。早くそのくらいはまかせろぃ!

ちょっと親方の真似をしました。ごめんなさい。


皮むきっておいしい仕事なんですよ。
むき続けてちょうど一週間くらいした時、急に頭の中でこんな声が聞こえてきました。

『皮むきスキルを取得しました』

で、次の日から
『皮むきスキル熟練度ランク2になりました』
『ランク3になりました』
『ランク4になりました』

んで、
『ミユはレベルが上がった!』
ちゃちゃちゃ、ちゃ↑ちゃ↓ちゃ↑、ちゃ~ん!
という効果音と共に「ぐん」と力が増した気がしたんだ。

ゲームに詳しいユーリに聞いてみたら、「それはあれだね。ド〇クエのアナウンスだよ。でもシステムは違うみたいだね」とのこと。

でも、芋の皮むいているだけでレベルが上がるってお得よね。
バーゲンセールで先着5名様の見切り品をゲットできた幸福感!
それにこの世界では普通スキルは一人一つしか持てないみたい。
でも私達のような異物は規格外らしい。私の場合は……

しゅぴっ!

おもむろに物陰に潜んでいた黒いあの忌まわしき生物に小さな縫い針を投げて仕留める。
この世界にも調理場に出没するらしい、しぶとい昆虫。
これをソーイングセットの縫い針で仕留める事が出来るようになった。

最初は遊びでやったんだけどね。どうやらカンストしている運がいたずらしたらしく、見事仕留めたら『縫い針スキルを取得しました』とのナレーションのお姉さん。

こっちも順調にスキル熟練と経験値を稼いでおります。


「ミユ~~。そちらが終わりましたら礼拝堂へいらっしゃい」

ご厄介になっているシスターの中でもリーダー格のハンナ様が私に声をかけて来た。
毎月のステータス調査のようだね。

水晶球の上に手を当ててその上に浮かび上がる盤上で、みんなが見られる仕掛けなんだ。

でもそれも最初に手を乗せた時『ステータスメニュー表示スキルが付与されました』とのナレーション。

だから最近ではいつでも自分で確認できる。もちろんそれは内緒。あの駄女神の行っていた通り料理屋のメニューを自作した経験がスキルとして現れたらしい。


「おや? この前出ていたスキル表示が消えてしまいましたわ。どうしたのでしょう」

礼拝堂でステータス確認をするシスターが不思議がる。
先月は二つ目のスキル『縫い針』が取得でき時期だったんだ。

でも……ちょっと気になることがあって「どうか。気づかれないようにしてください。女神様」と願ってステータス表示出しながらお願いしていたんだ。藁をもすがる思いで。
そしたら『商品偽装表示スキルを取得しました』とのナレーション。

なんだか嬉しくないスキル名だけど、シスターがステータスを確認しようとしたら「%;α#γ!φ5Pv@Max」という風に文字化けしていた。
今回はそれすらも隠せるようになっている。どうやら『偽装表示スキル』のランクが上昇していたらしい。
この名前のスキルが上がるのは、とてもうれしくない。


で。
なぜ、隠匿することになったのかっていうと。
臨時にステータス確認をされていた一二歳の女の子が卒業と言われて身なりの良い大人に連れていかれたんだ。

十二になるとここにはいられなくなるとは聞いたので、その子のために簡単なぬいぐるみを作ってあげていた。でもそれを渡す暇がなく。

急いで追いかけたら、門の外でぐったりとなった女の子を抱えて馬車に乗り込む男の姿を見てしまったんだ。


「おねーちゃん。これはあれだよ。この孤児院は奴隷飼育かそれに近い人身売買を……いてっ」
「真面目に考えなさい! ユーリ。おねーちゃん。私は多分89%の確率でこの修道院の祭神と関係ありと見るわ」

ユーリは自分を「口先の魔術師」と言い張る。厨二の季節だねぇ。
メグは「リケ女ブームよ、もう一度!」というのをモットーとしている眼鏡女子(近視が治ってしまい卒業してしまいました)。

確かに、この国エルタリアは超大国で、それを支える祭神エレーナ様はこの世界でも一二を争う強力な女神。
ちなみにシスターたちはソリティア様の名前すら聞いたことないという。やはり弱小泡沫女神だったよ。

その国と祭神との関係がまだよくわかっていない。
表向きは守護神となっているけど、あの駄女神の言葉を信じるとすれば信仰する人間の存在が沢山あれば神の力を増すはず。

それを知っていたから、あの子がぐったりしていたことを「強引に連行した」と直感したんだ。

だから今日はそれを確かめるためにシスターたちのいる母屋へ忍び込む計画を立てている。
この修道院には、そして世界と神々にはどのような秘密があるのだろうか?

身震いするとともに、二人を守らねばと責任感を新たにする。
お姉ちゃん頑張るよ!

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