KACに向けて書いていた短編です。書き途中で没にしました。このままというのも哀しいので、近況ノートにて供養します。
ふりがなの記号そのままです。
あ、そう、ここまで書けてなかったけど主人公の目指しているものは宇宙飛行士です。
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走る。全てを犠牲に。
走る。余計なものはかなぐり捨てて。
走る。ただ一点を目指して。
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延々と止まることなく突き進む。まるでマグロみたいだと、そう言われたのはいつのことだっただろう。
久高《くだか》聖《ひじり》という人間は、常にひとつの星を追いかけて生きてきた。煩わしい家族とは別の家に移り住み、目標のために利用できる人間とのみ関わってきた。自分から不要な機能を削ぎ落とし、人生の大半を学びと肉体の鍛錬に費やしてきた。
——それなのに。
「ひじりん、怖い顔してるよ?」
なんなのだろうか、こいつは。俺が何をしていてもお構いなしに付き纏い、俺の集中を粉々にしていく。
「おーい、ひじりん?ひじりんってば!」
普通なら笑顔の圧力で追い払うところなのだが、こいつの場合そうはいかない。なにせこいつの親は九条《くじょう》将輝《まさき》、JAXAに勤める宇宙飛行士なのだ。数々の奇跡と血反吐を吐くような苦労の末に手に入れたこの繋がり、手放すわけにはいかない。
「——へぶしっ」
なので、裏拳で軽く殴るのに留めておいた。
「ひじりん、私の扱いがだんだん雑になってきてる」
「そうか?追い払わないだけマシだろ」
最初の頃こそ笑顔の仮面で接していたのだが、だんだん面倒になってきた。まだまだ俺も鍛錬不足だな。
「また無言で『やれやれ』ってポーズしてる……」
「で、何の用だ、九条?」
「ひじりんを外に連れ出しにきた」
「却下。第一、ランニングは風呂前だ」
「違うよ。家の外じゃない。キミの狭い常識の外に、だよ」
「——は?」
俺と九条《くじょう》|歌織《かおり》の災難はこうして幕を開ける。
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走る。走る。誰より速く。
走る。走る。立ち止まること無く。
走る。走る。立ち止まっては、いけない。
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「どうしてこうなった」
目の前には、クレーンゲームでとった大量の景品を抱えた九条と、ひとつも景品を排出していない俺の台。
「ひじりんのことだからゲーセン行ったことないかなーって思って」
「なんだかんだ言って結局お前が行きたかっただけだろ」
自然な風を装いながら、俺は今までに無く後悔していた。