都内某所。
eSportイベントを終えた俺たちクラン【花鳥風月】の面々はオフ会という名の反省会を行っていた。
「いや~【カーニバル】の圧勝だったな」
「集団戦がウマスギんよ~」
「アマじゃ敵なしだな」
おじさんも若者も同じゲームの話題で盛り上がっている。
実に楽しい時間だ。
貴重な休日を使ってきた甲斐があるというものだ。
「ああ、ショウさん。 そんなに頬張ると服に垂れます……」
「ん、ニック拭いて」
「はいはい」
隣に座るショウさんは思っていた以上に若かった。
勝手に大学生くらいと思っていたのだが、今どきのJKはネトゲを嗜むらしい。
まぁショウさんに関しては嗜むとかいうレベルではないのだが。
「てぇてぇ……か?」
「父と娘?」
失礼な。
さすがにそんな歳ではないぞ。
まぁ不摂生とストレスで実年齢よりも高く見られがちだけどさ。
まだ髪はふさふさですよ?
「眼鏡がおじさんくさいのでは?」
「ニックさんちょっと外してみてくださいよ~」
JKたちに揶揄われている。
こんなくたびれた中年が眼鏡を外した程度でどうなるというものでもないのに。
「ふぁ!?」
「へ、っへぇーー!?」
「うほっ」
みんな冗談が上手いな。
一人おっさんもまじってるが。
冗談だよな?
「ダメ。ニックは私の」
そう言いながらショウさんが眼鏡を掛け直してくる。
小さい体を使って精一杯に手を伸ばして。
うん、背丈に不釣り合いな柔らかなタワワさんががが。
「いやーモテモテですね~ニックさん?」
「ギルマス……」
「でも淫行はダメですよ~? JKとおっさんなんて、小説のなかだけにしてくださいね~?」
「ははは……」
条例怖い。
「大丈夫。 私が襲うほうだから」
「ひゅー!! ショウちゃん肉食ぅッ!!」
「さすがナンバーワン『ロア』使い!」
お酒も飲んでいないJKたちが一番騒がしいとはこれ如何に?
じつは飲んでないですよね?
飲酒は二十歳になってからですよー。
「ガるゥ」
「おわ!?」
ちょちょ!
たわわが、たわわわわ!?
反省会は最初の10分だけだった。
その後はおふざけ100%のオフ会だった。
うん。 楽しい時間はすぐに過ぎるね。
「ニック。 ライン交換」
「そうですね」
若い女の子とライン交換か。
なんだかいけないことをしている気分だ。
まぁでも相方だからいいよね?
「むふー」
ショウさんも喜んでくれているみたいだし。
「ふ~ん、ニックさんは巨乳JKとライン交換しちゃうんだ~~。 ほ~ん、ギルマスとはしないのに? へ~ん」
なんだか不機嫌そうなギルマス(♀)にダル絡みされたけど、気にしないでおこう。
結局はギルマスともみんなともライン交換はしたのだけど。
「ニックは私のパートナー。 浮気ダメ」
「ははは……」
◇◆◇
都内某所。
|SOV《ソウルオブバイブス》ナンバーワンクラン【カーニバル】祝勝会。
「今日も圧勝でしたね! リン先輩」
実に和やかな雰囲気での祝勝会である。
それもそうだろう、【カーニバル】の戦績は連戦連勝を重ねついに全勝で優勝だったのだ。 それも今日だけでなくここ最近の大会はすべて優勝である。
クランメンバーが浮かれるのも無理はない。
ただし一人を除いて。
「圧勝?」
【カーニバル】はガチ勢である。
ほぼプロのような、というか元プロも在籍している。
在籍人数も多く1軍から4軍まで存在し、補欠メンバーの層も厚い。
これはチーム戦略性ゲームであるMOBAにおいてかなり有利だ。
MOBAと呼ばれるゲームジャンルにはロールと呼ばれる役割がある。
MMORPGでもおなじみのタンクやヒーラーといったもので、レーンごとに決まった配置になる。
各レーンの呼び名と同じトップ、ミッド、ボット、そしてジャングルとサポート。
「私への当てつけかしら?」
「えっ!?」
対戦時、各キャラクターはレベル1からスタートし僅かな所持金で好きな装備を買うことになる。
そう常にリスタートされた状態で始まるのだ。
プレイヤーが持ち込めるのはその知識と才能、そして、信頼できる仲間のみ。
「『ロア』に完敗し、ワンセット落とした私へのですわっ!」
リンと呼ばれた女はジョッキを机に叩きつける。
飛び散る泡に、声をかけたほうは慌てて机を拭く。
「くくく、そう怒るな。 みんながビックリするだろ?」
「兄様っ……!」
兄さんと呼ばれた男は長身で性格の悪そうな顔をしている。
そこそこの年齢のクセにロン毛なのが鼻につく。
ブサイクではないがイケメンでもない、雰囲気イケメンというやつだろう。
「お前が『ロア』使いに負けたわけじゃないさ。 サポートの差だ」
「それでもっ、『ティアナ』を使って負けるなど……屈辱の極みですわ!」
MOBAと呼ばれるゲームは対戦前に各チームで順番にキャラを選んでいく。
BANと呼ばれるルールもありあまりに強いキャラは使用禁止となったり、相手選手の得意キャラをBANして使えなくしたりと、戦略性に奥深さを出すルールでもある。
エンジョイ勢からは使いたいキャラが使えなくて不人気だったりするが。
そして相手の選んだキャラに対して、カウンターピックをするのが常識だ。
カウンターピック、つまりは有利なキャラを選ぶということ。
「この屈辱……必ず返してみせますわあああっ!」
「そうだな」
兄は妹の性格的にボットレーンは向いていない。 今のロールが向いていない気がしていた。
「しかし、あのサポートは欲しいな」
「そうですか?」
「ああ。……お前は、なにも感じななかったのか?」
「はい。特に目立ってもいなかったですわよね?」
「はい~。ジミーなサポートでした」
ああ、やっぱり欲しいと、兄様と呼ばれた男は髪をかきあげるのだった。