かつて世界は男女数は等しかった。
授業でそんな話がでれば生徒たちの反応は様々だ。
どうして今は男がこんなに少ないのか?
映画や漫画、架空の話だろう?
なぜ男は少なくなってしまったの?
世界は一度滅んだから。
世界大改革《ビッグバンアップデート》と呼ばれた、世界の超進化。
人々は無限の資源と、未知なる力を手に入れた。
その先にあったのは平和な理想の未来、などではない。
闘争と戦争。
尽きることのない人々の欲望は世界を満たした。
多くの男は命を落としいつしか世界の男の数は、半分以下となった。
欲望に駆られた男たちが死ぬまで戦争は終わらなかったから。
男は減った。
それでも欲望は終わらない。
男の代わりに女が戦争を始めたからだ。
女の欲望は男よりもドロドロとして終わることはないのだ。
☆★☆
「はぁ……」
一人の男の子は読んでいた本を閉じてため息を吐いた。
柔らかな黒髪の少年。
年は今年で10歳。 新成人《・・・》である。
「あほなん? この世界の人たちは……」
世界人口の半分以上が減っても戦争をやめない。
男の出生率が異常に減ってしまった。
原因は不明。
もはや人類は滅びに向かうしかない。
「だからって、10歳で成人って……」
新生児の男児率は一万分の一。
出産率自体も下がってしまっている。 年間で500万人を下回っている。 つまり男は年に500人以下しかうまれていないのだ。
子種に問題があるのかもしれない。
この世界の母体はすごく元気だから、問題はなさそうだ。
「はぁ……」
精通を迎えればもう男は成人であるといわんばかり。
かといって、学生であることにはかわりはなく、仕事をする必要もない。
ただし精子提供の義務を負う。
仕事などいらぬ。
子種を出せと言わんばかりである。
「種馬転生とはこれ如何に……」
今年成人になる少年はアンニョイな雰囲気でため息を吐いていた。
転生(種馬)。
そう少年は前世の記憶を持っていた。
名前や死因などは覚えていないようだが、一人の男の半生をムービーとして持っている。 その映像記憶の中では男女の数は1対1でどちらかと言えば女性のほうが強い。
それは男の映像記憶の中だけかもしれないが、いわゆる女に尻を敷かれるタイプの男性だった。 女運はなさそうである。
それでも自由で楽しそうだった。
男は好きな時に好きな場所に行き、好きなものを食べ遊び騒いだ。
圧倒的な自由。
もちろん働いてお金を稼ぐ必要はあった。
それはとても大変でストレスはいつも男と一緒だった。
でも男は楽しそうだった。
ストレスから解放される。 まさにその時、男は一番楽しそうだったのだ。
「はぁ……」
はたして転生した10歳の少年はどうであろう。
家はお金持ちだ。
欲しいものは望めばおそらくなんでも手に入る。
自由以外。
少年は鳥籠のペンギンである。
空を飛ぶことは一生叶わないであろう。
「ヒカル様!!」
バンッ!とドアが壊れんばかりに、ノックも忘れて戦闘メイドが入ってきた。
戦闘メイドだ。あきらかにメイドにしては筋骨隆々なのだ。
戦闘力を隠した暗殺者タイプのメイドではなく、どうみても肉弾戦特化の戦闘メイドだ。
性別は間違いなく女性であるが、現代のこの世界の女性はパワーファイターがいささか多い。
「どうした?」
もはや戦闘メイドがドアを壊すことに慣れてしまったヒカルは気にも留めない。
ツインテール似合わないなと思いながら、なにをそんなに慌てているのやらとまたため息を吐きそうだ。
「通知結果が届きました! 合格です!!」
通知結果? 合格?
はてなんだったかな?とヒカルが考えていると戦闘メイドが一枚の紙をヒカルに見えるように突き出した。
「ああ」
それは精子の品質証明書であった。
10歳を迎える前にすでに精通をしていたヒカルは精子の検査を行った。
それは当然無料であり、なんなら百万円ほどの祝い金をもらっている。
合格。
つまりは問題なく子供ができるということ。
出生率の下がっているこの世界では前世以上に優遇されるだろう。
「しかも特Sですッ!!!!」
テンションたっか。
とヒカルはあきれつつ、飛び跳ねても揺れない筋肉胸を残念に思う。
この世界では脂肪は駄肉扱いだ。 筋肉メイドは脂肪を筋肉に変える運動を欠かさない。
「特S」
たしかAランクまでじゃなかったか?と筋肉メイドを見ればものすごい興奮して今にもヒカルを押し倒さんばかりである。
彼女の職務への信頼がなければ通報ボタンを連打していたに違いない。
現にヒカルは緊急ボタンに手を伸ばしていた。
「つまり、魔力もちってことか」
そうこの世界には魔力が存在する。
世界大改革《ビッグバンアップデート》と呼ばれた世界の変化のひとつが魔力持ちの存在だ。
確立としては一万人に一人といった程度である。
男子の出生率と奇しくも等しい。
男子の出生率は下がっているのでいつまで等しいかはわからないが。
人口100万人の都市であれば100人ほど存在する。
彼女たち《・・・・》は魔法使いとして、貴重な戦力として、国が厳重に管理している。
強力な力である魔法を扱う魔力持ちは国家財産なのだ。
「さて……」
ここで重要なのは男の魔力持ちである。
魔力持ち同士の子供は魔力持ちとして生まれやすいのだ。
もっとも魔力持ちの男など数えるほどしかいないのだが。
「吉とでるか、凶とでるか……」
どのみち種馬人生であることには変りないかと、少年は嗤うのであった。