最終話。完結しました
https://kakuyomu.jp/works/16817330651050151305/episodes/16818093081475233838以下、後書き。
このたびは、拙作『青春怪異譚以下略』をお読み頂き、まことにありがとうございます。
この作品は、前作『父の仇に許された』で切り捨てた、春秋時代の古代宗教的価値観や日常、記録された不可解な現象を下敷きにした話を軽く書きたいなあ、という思いつきで始まりました。
書き出したころは『夏は星狩りの季節』までの構想しかなく、しかし季節で区切るのであれば春夏秋冬一年間を書ききりたいという執念で、恋は秋菊の香り、冬が来たりて夢幻の旅路までなんとか書けました。夏の怪獣大決戦を受け、秋はミクロの世界でいこう、という対であったため、冬は春の対でいこう、というような程度です。
むろん、シーンや演出は先に考えていたので、それに合わせてストーリーをあとから考えました。このあたりは、父の仇に許されたと同じ作成ですが、年表というプロットがないぶん、自分で時系列プロットを作らねばならず手こずりました。最初から作りなさい。それができれば苦労は……。
さて。この作品は、フィクションです。実際の人物、組織、事件とは関係ございません。歴史上の人物や事件を下敷きにしていますが、性格、人間関係はもちろん、体質にいたるまでフィクションです。
当然だろう、と思われるかもしれませんが、時折史書のエピソードをそれっぽく入れておりますので、誤認されては大変だと思い、申し上げました。
士匄は霊感体質ではないし、趙武に教導などしておりません。荀罃に教えを受けたことを自慢していました(春秋左氏伝)
欒黶と士匄は幼馴染みなどという記録はございませし、そんな論説もございません。むろん、霊を撥ねのける体質ではございません。バカという記述もありませんが、常に威張っているらしいです(春秋左氏伝)
荀偃と士匄が昔なじみという記述はございません。ただ、士匄と共に荀罃に怒られたり、士匄を面会謝絶して死亡し、『私は浅はかな男だった』と言わせているのは記録があります(春秋左氏伝)
韓無忌は疾病があり嗣子を辞退しますが、それが弱視という記録はありません。また、彼は史書に一度しか出てこないため、交流関係は全く不明です。
趙武が美少女のような姿だという記録は全く無いです。服に潰されそうなほど細い(韓非子)、成人式で『美しい(※所作のこと)』と複数の人に言われている(国語晋語)という記述がある程度です。父親が生まれる前に死んで、母親が産んだ後に程嬰に育てられ(までが史記)、母親が大叔父と密通し大叔父が追放され、母親の讒言で趙氏が族滅しかけた(春秋左氏伝)そうです。
他も色々あげていくとキリがないのでこのネタはここまで。
春秋時代は、当時の記録を五〇年~百年後くらいの戦国期の人々が編纂した史書によって確認できます。で。戦国期の一部の人は、摩訶不思議逸話をなるべく薄めようとしました。文明的合理性を求めたのですね。しかし、土俗的習俗的宗教的な摩訶不思議逸話も残りました。おかげさまで、極めて文明的で現代でも理解できる国家間戦争や政治劇と、理解に苦しむ謎の迷信が同時に起きている時代になっています。前者の代表が春秋三伝、後者の代表が山海経。私は、後者によりすぎないようにしながら、なるべく公的なものが出ない日常と非日常を書いたつもりです。
晋の絳都、市の真ん中で兎が踊っていた(竹書紀年)
本来なら見間違い、迷信、ありえない、比喩隠喩と切り捨てる逸話です。それを『ある』という前提で、なおかつ、合理的に謎解きの話ができないか。それに挑戦した話です。オカルトなど書いたことはなく、ミステリーも書いたことがない。そもそも、易に代表される印象学になじめず、西洋占術を本格的に嗜んでいる友人に泣きつきました。易経+αを雰囲気で使ったなんちゃって文言がそれっぽく見えてたら、幸いです。
以下、各章簡単にふり返り。
春。
チュートリアルでした。三話四話で終わらせるつもりでしたが、そんなことできるわけありませんでした。序盤の情報の入れ方など、今となっては満足のいく出来ではないので、ブラッシュアップできたらと思います。『姿は無く人の心はわからないが人なつこい山神』(貝塚茂樹著 中国の神話より)で、日本とは全く違う感覚なのも押し出したくそこはこだわりました。
閑話1
合間に閑話を入れようと思い立って書きました。メインのストーリーよりも現実に近いもの、手近な寄生虫でした。
夏。
絵面の見栄えなら、ピカイチの話だと思います。皐は春秋左氏伝に出てきますが、男性か女性か不明です。山海経の『北山経』を気が狂うほど読み続けた覚えがあります。この時、全ての山を書き出して相対位置を確認したり、異形を無視して産物を書き出したり、地誌として見るように務めました。この話は起承転結がはっきりしていて、私の色味が一番強いと思います。
閑話2
史書ベースのネタとオーバーラップさせたかったのと郤至を紹介したかったので、夏姫を出しました。拙作中、二番目の脅威です。一番は饕餮、次が夏姫。
秋。
夏がはっちゃけすぎたので、クローズド&シティアドベンチャーにしよう、クローズドは連続殺人事件だろう、ということで静かな話を目指しました。この話だけ、完全オリジナルキャラクター、昇天ガールズたちが出ています。ただし、名付けはしないというルールでしたので、仮名です。ミステリーなど書いたことないのでマジ死ぬって思いながら書きました。
閑話3
最後の閑話なので、番外編を意識し、士匄と荀罃の関係性と、士匄の内面を書きました。オカルトなら一度はやりたいドッペルゲンガー。
冬。
秋がクローズドなので、オープンフィールド、というところから作られました。荒野でさまようことはすぐに決まったので、その荒野にどう連れて行くか、というところで四苦八苦し、オープンでありながらクローズドという道祖を使って趙武の精神的な試練と成長、士匄の弱さと強さを出す方向で話を作ることにしました。
フィナーレ。
青春の後のほうが人生長いね、という話でした。そして、趙武に幸あれ、と思いながら書きました。冬の『自分は誰にも愛されずに生きます』の答えです。こういうものを書くと、自分も看取った気持ちになり、しんみりしますね。趙鞅という孫を出しましたが、趙氏から趙国に移行する過程で生まれた『趙国建国の英雄』って貝塚茂樹が言ってた、ありがとう茂樹。趙鞅が異界や祖霊を見ていたかはわかりませんが、天帝の使いに会ったり、夢の中で天帝に呼ばれたりした記述が残っています。士匄との対比として、出した孫です。
青春の楽しさと、その青春は一瞬であることを、青年たちは気づいていない。そんなモラトリアムをオカルト添えで書けてとても楽しかったです。史書にいる彼らはもう終わっている存在ですが、この作品の彼らは未来ある、未だ何物でもない青年たちでした。彼らの青春を読み返していただいたり、他の方にも教えてあげたいな~くらいの、小説になっていれば幸いです。
それでは、長々と失礼致しました。本当にお読み頂きありがとうございます。PVや応援、コメントなど、全て我が喜びといたします。
追伸。歴史オタク的なあとがきを書く予定ですが極めてこう……濃厚なものになるかと思います。サポーター限定公開の予定です。
また、参考資料も近況ノートに記事を作成する予定です、こちらは全公開。