とある草むら。キリギリスさんは小石に腰掛けてモノ思いにふけっていました。季節は夏。ジリジリとお日様は懸命に大地を焦がしています。当然そんな直射日光の当たる暑い場所に彼がいる訳ではありません。建物の影のひんやりした場所で考え事をしていたのです。
と、そこに一仕事終えたアリさんがやって来ました。真っ昼間に考え事をしているキリギリスさんが気になってしまったようです。
「どうしたんだい? お腹でも痛いのかい?」
「ハハハ、違うよ。どうして俺、遊び呆けているイメージなのかなって」
「だって君は好きな事ばかりしているじゃないか」
「いや鳴いてばかりの虫は他にたくさんいるぜ? どうして俺なのかって事」
アリさんはこの質問にすぐに答えられませんでした。確かに夜に鳴く虫はキリギリスさんの他にもコオロギさんや鈴虫さんなど他にもたくさんいます。鳴き声で言ってもキリギリスさんよりもよっぽど演奏の上手い虫さんがいるのです。知名度で言えばキリギリスさんはそこまでではありませんでした。
「他の虫なんて本当に鳴くのは夜ばかりだぜ。好きな事ばかりしているって言うならアイツラの方が適任だ」
「そうなのかい?」
アリさんはキリギリスさんの愚痴に首をひねります。キリギリスさんは得意げに続けました。
「俺なんてな、夜だけじゃない、朝だって昼だって鳴いているんだ。夜だけの軟弱者とは違うんだ」
「なるほど、だからだよ」
「は?」
アリさんは何故キリギリスさんがあの童話の代表に選ばれたのか納得したようです。うんうんとうなずくアリさんを見てキリギリスは頬を膨らませました。
「一体何が分かったって言うんだよ」
「キリギリスさんは朝も昼も鳴いているだろう。だから目立っていたんだよ」
「嘘だろ? マジで? 俺が真面目なせいで不真面目の代表に選ばれたって言うのかよーッ!」
アリさんの説明を聞いたキリギリスさんは頭を抱えて嘆きます。その様子を見て、不憫に思ったアリさんはキリギリスさんの肩を優しく抱くのでした。
「まぁお互いに辛い事ってあるよね。そうだ、今度の休み、一緒に遊びに行こうよ」
「え?」
アリさんの慰めの言葉にキリギリスさんの目は点になります。
「だってアリさん、休みなんてないじゃないか。気休めの言葉はよしてくれよ」
「う……」
図星を突かれたアリさんは、その場にいられなくなってすごすごと巣に戻っていきます。その背中には哀愁が漂っていました。
「……はぁ」
アリさんを傷つけた事に多少の罪悪感を抱きつつ、キリギリスさんはまた大きくため息を吐き出します。
そうして、そんな空しい気持ちをどうにかするためにまた静かに鳴き始めるのでした。
建物の影からまたキリギリスの鳴き声が響きます。その鳴き声はどこか淋しそうで、どこか暗い情念を感じさせたりしているのでした。